浸透圧、濃度差があっても水の流れが止まる条件

プリーツ状の薄い膜を挟む二つの淡色の液体形状と、片側を静かに押す円盤。浸透と圧力の釣り合いを表す抽象アート

水だけを通し、溶けている物質を通さない膜で、純水と砂糖水を隔てる。両側の圧力が同じなら、水は正味で砂糖水側へ移ります。ところが砂糖水側を十分に加圧すると、水の移動方向は逆になります。

この境目を考える手がかりが浸透圧です。「水は薄い方から濃い方へ動く」とだけ覚えると、圧力がかかった場合を説明できません。溶液の濃さと圧力差を一緒に見て、浸透が止まる条件と逆浸透の条件を整理します。

簡単にまとめると?

  • 浸透圧は、膜を通って溶液側へ入る水の正味の移動を止めるために必要な圧力差です。
  • 希薄な理想溶液では、浸透圧差は溶けた粒子の濃度差と絶対温度に比例します。同じ質量濃度でも、粒子の数が違えば同じ浸透圧にはなりません。
  • 濃い側の圧力差が浸透圧差を上回ると、水は薄い側へ流れます。ただし、流量や分離性能は膜の性質にも依存します。

「膜を通れるもの」を決めてから考える

ここでは、水は通すが溶質は完全に通さない半透膜を考えます。溶質とは、砂糖のように液体へ溶けている物質のことです。水が通るかどうかだけでなく、溶質を止められることが、このモデルの大切な条件です。[1]

純水を左、溶液を右に置き、温度と圧力をそろえると、水は正味で右へ移ります。「正味」とは、左右の両方向にある分子の移動を差し引いた結果です。右へ移る水と左へ戻る水が同じ量になれば、巨視的な流れは止まります。分子が動かなくなるという意味ではありません。

この方向を熱力学で表す量が、化学ポテンシャルです。ある成分がどちら側へ移ると自由エネルギーを下げられるかを表す指標と考えると、役割がつかみやすくなります。同じ温度・圧力では溶質を加えると水の化学ポテンシャルが下がり、圧力を高めると上がります。膜の両側で水の化学ポテンシャルがそろうことが、浸透平衡の条件になります。[1]

「水の濃度差だけが押す力」と捉えるのは十分ではありません。ManningとKayの論文は、平衡の熱力学と分子レベルの流れの仕組みを分け、溶質と膜の相互作用を考える必要性を論じています。本稿では、その論文の平衡式と希薄溶液の流れの式を使い、圧力差で向きが変わる条件に絞ります。

浸透圧は、入ってくる水を押し戻せる圧力

溶液側へ圧力を加えると、水を純水側へ戻そうとする効果が生じます。圧力差を大きくして、正味の水の移動がちょうど0になる値が浸透圧です。溶液の圧力そのものではなく、膜の反対側に対して必要な圧力差として読みます。

希薄な理想溶液では、ファントホッフの式により次の関係になります。[1][2]

Δπ=RTΔc

Δπ は右側と左側の浸透圧の差、R は気体定数、T は絶対温度、Δc は膜を通れない溶質粒子のモル濃度の差です。純水と溶液を比べるなら、純水側の溶質濃度を0として計算します。両側に溶質があるなら、濃度そのものではなく両側の差を使います。

濃度には単位の注意もあります。R=8.314462618 Pa·m³/(mol·K) を使うなら、濃度はmol/m³、温度はKです。たとえば0.100 mol/Lは100 mol/m³、25 ℃は298.15 Kに直して代入します。

0.100 mol/Lなら、どのくらいの圧力になるか

純水と、溶けても分子が解離しない溶質の水溶液を比べます。温度は25 ℃、理想溶液と仮定します。0.100 mol/Lの例では、

Δπ=8.314462618×298.15×100 ≈ 247,896 Pa ≈ 0.248 MPa

となります。次の表は同じ温度で濃度だけを変えた本稿の計算例です。特定の膜や実際の溶液を測定したデータではありません。

溶液の粒子濃度 SI単位での濃度 浸透圧の計算値
0.010 mol/L 10 mol/m³ 0.0248 MPa
0.050 mol/L 50 mol/m³ 0.124 MPa
0.100 mol/L 100 mol/m³ 0.248 MPa

濃度が2倍なら浸透圧も2倍、という比例関係は、この希薄・理想という近似の中で成り立ちます。水が流れ込んで溶液が薄まる装置では、濃度も浸透圧も途中で変わります。初めの濃度だけで、最終的な液面の高さまで決めることはできません。

圧力差が浸透圧差を超えると、流れが逆になる

右の溶液側が左の純水側よりどれだけ高圧かを ΔP=P右−P左 とします。右へ向かう流れを正に取ると、希薄溶液と溶質を通さない膜のモデルでは、水の体積流束 J は次の形に書けます。[1]

J=Lp(Δπ−ΔP)

Lp は膜の水の通しやすさを表す係数です。流束は、膜の単位面積を単位時間に通る水の体積を意味します。圧力差だけで流量を計算できるわけではなく、この係数と膜面積も必要です。

浸透圧差が約0.248 MPaの例。溶液側の圧力差が0なら純水から溶液へ、約0.248 MPaで正味の流れが0、0.400 MPaなら溶液から純水側へ向かう。
濃度と温度を固定して比較した三つの状態。圧力差は右の溶液側から左の純水側を引いた値。矢印は正味の水の向きで、速さや分子の個数を表さない。

図の真ん中では、濃度差が残っていても正味の流れは止まっています。圧力差が釣り合っているからです。さらに溶液側の圧力差を0.400 MPaまで高めると、Δπ−ΔP は約−0.152 MPaとなり、水は左へ向かいます。これが逆浸透の基本となる圧力の関係です。[2]

ただし、この三つは濃度を固定した比較です。一つの閉じた容器で水を移し続けた時間変化を描いたものではありません。水が減った溶液の濃度は上がるため、逆浸透を続ける間も同じ浸透圧が続くとは限りません。

粒子の数と、膜の選択性を取り違えない

ファントホッフの式が数えるのは、溶けた後の粒子です。同じmol/Lでも、解離しない分子と、二つのイオンに分かれる電解質では条件が違います。NaClが完全に解離して各イオンが理想的に振る舞う極限なら、一つの式単位から二つの粒子が生じます。ただし実溶液ではイオン同士の相互作用などがあるため、濃度にかかわらず単純に2倍すれば正確、とはいえません。[2]

同様に、実際の膜が溶質を通すなら、「膜を通れない粒子の濃度差を保つ」という前提が崩れます。水がどれほど通るかと、溶質をどれほど止めるかは別々に確かめる必要があります。濃い溶液へこの希薄・理想の近似式をそのまま外挿することもできません。[1][2]

装置や膜の説明を読むときには、まず膜が何を通すのか、次に温度と両側の粒子濃度、そして圧力差を確かめます。その上で流量を知りたいなら、水の通しやすさと膜面積を見る。この順番で整理すると、「浸透圧を超えた」という条件と、「必要な量を分離できる」という性能を分けて判断できます。

出典

  1. Gerald S. Manning, Alan R. Kay, The physical basis of osmosis, Journal of General Physiology 155(10), e202313332(2023年。式1–3、Figure 1、IntroductionおよびThe rudiments of osmosis and common misconceptions)。DOI: 10.1085/jgp.202313332。
  2. OpenStax, Chemistry 2e, 11.4 Colligative Properties(Osmosis and Osmotic Pressure of Solutions、Colligative Properties of Electrolytes。図11.24・11.25と理想溶液の条件)。