「規格に合うラックを選べば、あとは機器を収めるだけ」。そう考えたくなりますが、高密度のAIシステムでは、その順番で決めると後から無理が出ることがあります。サーバーの幅が合っていても、電源の容量、冷却液の通り道、重い機器を搬入する経路まで、同時に成立しなければ使えません。
2026年8月のOCP教育ウェビナーで、LegrandとSemiAnalysisは「共通規格」と「現場ごとのラック設計」をどう両立するかを取り上げました。ここでいう個別設計は、標準を捨てることではありません。標準で接続の土台をそろえたうえで、実際の設備に合わせて最後の取り合いを決めることです。[1]
ラックを最後に選ぶと、何がぶつかる?
資料は、従来なら建物の電力・空調を見て、IT機器を決め、最後にラックと配電ユニットを選ぶ順序だったと整理しています。AI向けの参照設計では、必要な電力密度、バスバーの電圧・電流、冷却液、機器の重さが早い段階で定まります。すると、ラック側で「収まるか」を先に確かめなければ、後から変更しづらくなります。これは登壇者が示した設計上の見方であり、すべての施設で手順が同じという意味ではありません。[1]
たとえば、建物側の床荷重が足りても、搬入用の扉やエレベーターを通らない幅なら設置できません。電源が足りても、バスバーの許容電流やケーブルの出口に余裕がなければ、安全な接続が難しくなります。液冷のマニホールドやホースの場所は、電源線や保守のための空間とも重なります。資料が挙げるのは、こうした別々に決めると衝突する条件です。[1]
共通規格は「完成した一台」ではない
OCPのOpen Rackのような仕様は、取付け寸法や給電の考え方を共有する助けになります。一方、Legrandの資料には、19インチ機器とOCPの機器を混在させる筐体、複数のバスバーを使う筐体、上部や背面からケーブルを通す筐体などが並びます。同じ「OCPを使うラック」でも、何を載せるかで開口部や支持部材の形は変わります。[1]
同社の製品例では、ラック内のバスバーを400A、700A、1400Aから選ぶ構成も示されています。これはLegrandが紹介する製品の選択肢であり、OCPラックすべての必須電流値ではありません。また、電源棚や配電ユニットの仕様を足し合わせれば、そのままシステム全体の許容電力になるわけでもありません。配線、保護装置、冷却、建物側の供給条件を合わせて確認する必要があります。[1]
液冷は、配管だけで終わらない
液冷をラックへ入れると、ホースの通路と漏液時の検知場所が増えます。資料には、温度、湿度、差圧、漏液、扉の状態を監視する例があり、ラックの48Vバスバーから監視装置へ給電する構成も紹介されています。これも一つの製品例です。すべてのラックに同じ数のセンサーや同じ制御装置が要るという説明ではありません。[1]
設置後の保守も、設計条件です。背面のコネクターに手が届くか、電源系とホースを分けて作業できるか、異常をどの場所のセンサーが捉えたか。筐体の寸法を決める段階でここまで想定すると、交換時に慌てずに済みます。
先に確認したい五つの境界
今回の資料から実務の順序を取り出すなら、①搭載する機器の幅と重量、②建物からラックまでの電力とバスバー容量、③冷却液の接続と流路、④ケーブル・ホースの出入り口、⑤監視と保守の作業空間です。資料の図は製品ごとの条件を示すもので、将来の電力方式の比率予測を確定した市場実績としては使えません。[1]
標準化の価値は、誰が作ってもまったく同じ一台になることではありません。共通の境界を持ちながら、施設と機器がぶつかる部分を早めに見つけられることです。ラックを「箱」として最後に選ぶのではなく、電力・冷却・保守を一緒に受け止める設計として考えると、今回の発表の意味が見えてきます。
ラックを扱うLegrandの事業全体は、cyclewaveの企業記事で整理しています。
参考資料
2026年9月23日確認。OCP公式掲載のスライド全31ページを確認。録画は登録が必要で未視聴です。本文は登壇資料の設計例を扱い、将来予測や編集メモが残る比較表の数値は採用していません。
[1]OCP「Open Standards, Infinite Possibilities」ウェビナー/OCP・Legrand・SemiAnalysis公式掲載スライド。主にpp.7、11–15、19–26、28。

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