ジョンソン雑音温度計で、共通の揺らぎを温度に結びつける

薄緑と薄紫の透ける面に同じ珊瑚色の揺らぎが重なり、周囲に灰色の粒と規則的な基準の粒が浮かぶ抽象画。

抵抗に外から電圧をかけなくても、その両端には小さな電圧の揺らぎが現れます。電荷を運ぶ粒子の熱運動による「ジョンソン雑音」です。電子回路では取り除きたい雑音ですが、揺らぎの大きさに温度の情報が含まれているため、温度計の信号として利用することもできます。

ただし、微弱な電圧を読み取る増幅器にも雑音があります。観測した揺らぎのうち、抵抗に由来するのはどれだけでしょうか。ジョンソン雑音温度計(JNT)は、同じ抵抗を二つの経路で測り、さらに基準信号と交互に比較することで、この問題に向き合います。ここでは2024年のレビュー論文をもとに、相関測定と量子電圧雑音源の役割をたどります。

簡単にまとめると?

  • 同じ抵抗の電圧を二つの経路で測って積を平均すると、両方に共通する熱雑音を取り出せます。独立な増幅器雑音の平均寄与は減りますが、有限時間のばらつきや共通の妨害は残ります。
  • 測定対象と基準を同じ回路へ交互につなぎ、揺らぎの大きさの比を使うことで、増幅率の変化などの影響を抑えます。
  • 量子電圧雑音源QVNSを基準にすると、既知の温度との比較に頼らず温度を求められます。実際の精度には、配線、非線形性、抵抗の測定、積算時間の検討が必要です。

熱雑音の大きさを、温度に読み替える

抵抗を純粋な抵抗Rとして扱え、周波数が十分低いなどの条件では、熱雑音の電圧のパワースペクトル密度は SR = 4kTR と表せます。Tは絶対温度、kはボルツマン定数です。パワースペクトル密度は、ここでは周波数幅1Hzあたりにどれだけの電圧の二乗が含まれるかを表し、単位はV²/Hzです。これを測定帯域にわたって足し合わせると、電圧の二乗平均になります。

抵抗値Rを別に測定できれば、残る未知量は温度Tです。この関係を使って温度を求めるのがJNTの出発点です。抵抗値が温度とともに変わる性質を校正して使う抵抗温度計とは、温度の読み取り方が異なります。

この近似を、極低温や高い周波数へ無条件に延ばすことはできません。量子論に基づく補正が必要になる領域では、単純な4kTRからのずれも評価します。測定する帯域幅と雑音の二乗平均の関係は、ジョンソン雑音と帯域幅の記事でも扱っています。

同じ揺らぎを、独立した二つの経路で読む

増幅器を一つだけ使うと、抵抗の熱雑音に増幅器自身の雑音が重なります。そこで、同じ抵抗の両端電圧を、二つの増幅器とA/D変換器で同時に読み取ります。抵抗が作る揺らぎは両経路に共通し、それぞれの増幅器が加える雑音は、理想的には互いに独立です。

仕組みを見るために、増幅率を補正した二つの測定値を x = s + n₁、y = s + n₂ と置きます。sが抵抗の信号、n₁とn₂が各経路の加算雑音です。どの揺らぎも平均がゼロで、雑音同士と信号に相関がなければ、積xyを十分長く平均した値はs²の平均へ近づきます。sn₁、sn₂、n₁n₂の平均寄与がゼロになるためです。

一方、xだけを二乗して平均すると、s²にn₁²の平均も加わります。二つの測定値を単に平均するのでなく、積の平均から共通成分を見るところが相関測定の要点です。実際の装置では二つの信号を周波数ごとに分け、クロススペクトルとして比較する方法も使われます。

この説明は、独立な加算電圧雑音に絞ったモデルです。増幅器の入力電流雑音が抵抗を流れて電圧を作ると、その電圧は両経路に見えます。外部の電磁妨害も二つの経路へ共通に入り得ます。相関で残った成分を、すべて測りたい熱雑音だと判断することはできません。

基準との切り替えで、増幅器の変化を追いかける

共通する熱雑音を取り出せても、増幅率や周波数応答が正確に分からなければ、入力側の電圧の大きさへ戻すのは難しくなります。そこで、未知の温度に置いた抵抗と基準信号を、同じ測定回路へ交互につなぎます。二つの測定に共通する増幅率などを、比を取ることで打ち消しやすくするためです。切り替えを繰り返せば、ゆっくりとした増幅率の変化にも追随できます。

基準に既知温度の抵抗を使う場合、同じ実効帯域と応答を仮定すると、温度は「基準温度 × 雑音の二乗平均の比 × 抵抗値の補正」で求められます。例えば、基準が300Kで、二つの抵抗値が等しく、補正後の雑音の二乗平均の比が1.10なら、未知の温度は330Kです。これは仕組みを示す仮定の計算で、実験結果ではありません。

この方法は、別の温度を基準にする相対一次温度測定です。次の図では、その基準抵抗を、電気的に大きさを計算できる信号源に置き換えています。

ジョンソン雑音温度計の構成。抵抗Rと温度Tの信号、またはQVNSの信号をスイッチで選び、二つの増幅器・フィルター・AD変換器の経路から乗算器と積算器へ送る。
抵抗の熱雑音とQVNSを切り替え、同じ二つの経路で比較する構成。出典:Samuel P. Benzほか「Practical realisation of the kelvin by Johnson noise thermometry」(2024)、Figure 3、本文6頁(PDF7頁)。図の部分を抜粋。© 2024 BIPM and IOP Publishing Ltd. 原論文。画像を開くと拡大できます。

図の左上にあるR、Tが、温度を測る抵抗です。左下のQVNSには、ジョセフソン接合とインピーダンスを合わせるための抵抗が描かれています。Switchは信号源を選ぶ部分で、その右のChannel 1とChannel 2は、選ばれた同じ信号を読む二つの経路です。「上の経路が測定対象、下の経路が基準」という分担ではありません。

それぞれの経路で増幅とフィルター処理を行い、ADCで電圧を数値に変えます。右側のMultiplierとIntegratorは、二つの測定結果を掛け合わせて積算する働きを示しています。信号源を替えても同じ二経路を使う構成が、相関による雑音の切り分けと、基準との比較を結びつけています。

量子電圧雑音源QVNSが、温度の基準を置き換える

QVNSはQuantum Voltage Noise Sourceの略です。抵抗を温めて雑音を作る装置ではなく、ジョセフソン接合を使って、決められたパルス列から疑似ランダムな電圧波形を合成します。パルスの電圧を時間で積分した面積がh/2eの整数倍になる性質を利用するため、パルス列とクロック周波数から、基準信号の大きさを計算できます。hはプランク定数、eは電気素量です。

抵抗の熱雑音と、この計算可能な信号のスペクトルの比を測れば、既知温度の抵抗を使わずに温度を求められます。これがQVNSを用いた絶対一次温度測定です。量子ホール効果に基づく抵抗標準へのつながりも含めると、温度はhとk、周波数、抵抗比、測定した雑音のスペクトル比へ結びつきます。

現在のSIでは、kは正確に1.380649 × 10⁻²³ J/Kと定義されています。定数の値を固定したことと、装置の読み値が誤差なく決まることは別です。抵抗値やクロック、信号を運ぶ回路、二つのスペクトルの比較には、引き続き測定と不確かさの評価が必要になります。

広い帯域と長い積算だけでは、精度は決まらない

独立な雑音の平均寄与が減っても、有限時間で求めた積の平均にはばらつきが残ります。他の条件が同じで統計的なばらつきが支配的なら、積算時間を4倍にすると、その標準的なばらつきはおおむね半分になります。ただし、共通の妨害や回路の系統的なずれまで、時間とともに同じ割合で小さくなるわけではありません。

帯域を広げれば、より多くの信号を使えます。その一方で、抵抗とQVNSをつなぐ配線の容量やインダクタンスが違うと、信号源によって周波数応答が変わります。この差は、測定回路を共通にしただけでは消えません。論文ではスペクトル比の周波数依存をモデル化し、使う帯域とモデルの複雑さを一緒に検討しています。

振幅の合わせ方も重要です。増幅器やADCが完全に比例した応答をしなければ、大きな信号と小さな信号を比較したときに比がずれます。QVNSは基準波形の大きさを調整できるので、抵抗の熱雑音へ近づけて非線形性の影響を抑えたり、あえて大きさを変えて影響を調べたりできます。精密には、二乗平均だけでなく、電圧の分布の形も考慮します。

JNTの性能を読むときは、相関測定の有無に加えて、何を基準にしたか、両信号の経路をどう合わせたか、積算時間と帯域をどう選んだかを確かめると、精度の根拠が見えてきます。QVNSの低温動作や妨害への対策も含む方式であり、ここで紹介した構成を、すぐに読み値が出る汎用温度センサーと同じ条件で比べることはできません。

出典

  1. Samuel P. Benzほか(2024)「Practical realisation of the kelvin by Johnson noise thermometry」、Metrologia 61, 022001。原理、装置構成、解析、不確かさをまとめたレビュー。原論文PDF/NIST掲載ページ。
  2. BIPM「SI base unit: kelvin (K)」。現在のケルビンとボルツマン定数の定義。公式説明。