全固体電池では、電極の間をイオンが行き来する道も固体になります。その材料の中をイオンがどれだけ動きやすいかは、電池材料を選ぶ際の大切な手がかりです。シャープとQunaSysは2026年10月22日、この移動に必要なエネルギーを量子計算で評価する研究を、より複雑な材料へ広げると発表しました。NEDO量子懸賞金事業の第二期で進める取り組みです。[1]
簡単にまとめると?
- 計算で調べるのは、固体電解質の中をイオンが移動する際のエネルギーです。材料候補の絞り込みや設計に役立てることを目指しています。
- 第二期では、従来のコンピュータと量子コンピュータを組み合わせ、より多くの原子を含む材料の評価へ進みます。
- 公表資料には計算機、原子数、誤差、処理時間などの比較条件が示されておらず、計算の優位性や電池の性能向上を数値で判断できる段階ではありません。
今回広げるのは、計算で扱う材料の複雑さ
固体電解質は、電池の内部でイオンを運ぶ役割を持つ材料です。共同発表によると、第一期では、その中でイオンが移動するために必要なエネルギーの評価へ量子計算を適用しました。シャープが材料開発で必要な評価項目と精度を定め、QunaSysが量子計算で扱える計算手法へ落とし込む役割を担いました。[1]
第二期の焦点は、計算対象を拡大することです。原子をより多く含む複雑な材料を扱い、実際の材料に近い条件で候補の違いを評価しようとしています。材料の合成や試作評価に計算結果を生かすことは、今後の目標として挙げられています。[1]
「動きやすさ」をエネルギーから考える
イオンが固体の中を動くとき、周囲の原子との位置関係も変わります。出発点と到着点が安定でも、その途中にエネルギーの高い配置があれば、そこを越える必要があります。この移動経路に沿ったエネルギーの山を調べることで、移動の起こりやすさを考えられます。
たとえば、リチウムイオン伝導体を対象としたUenoらの2021年の論文は、移動経路の探索と密度汎関数理論(DFT)による計算を組み合わせています。DFTは電子の分布から物質のエネルギーなどを求める方法です。経路を見つけ、その途中のエネルギーを評価する、という二つの課題があることが分かります。これは従来の計算による別研究であり、今回の両社が同じ手法を採用したという意味ではありません。[3]
エネルギー障壁が低いかどうかは有用な比較軸ですが、それだけで電池の充電時間は決まりません。材料内にどのような経路がつながっているか、温度や欠陥がどう影響するか、異なる結晶粒の境界を越えられるかも関わります。NIMSらの2023年の研究では、特定の酸化物系固体電解質でリチウムの拡散を可視化し、結晶粒どうしの境界が移動の妨げになる様子を捉えています。[4]
精度と効率を比べるために知りたい条件
共同発表は、第一期の検証で、より高精度かつ効率的な評価を確認したと説明しています。一方、その発表には使用した量子計算機、量子ビット数、対象材料と原子数、誤差の基準、比較相手、処理時間の内訳は示されていません。[1] そのため、従来計算を上回る速度や精度を、この資料だけから確かめることはできません。
今後、計算結果が公表されたときは、まず同じ材料・構造・移動経路を比較しているかを確認すると、数値の意味をつかみやすくなります。次に、どの値を正解の基準とし、どれだけの誤差まで許したのかを見ます。処理時間についても、量子計算の実行部分に加えて、準備や繰り返し測定、従来計算側の処理まで含むのかで評価が変わります。
NEDOの第二期は、提案の審査を経て研究開発と成果審査へ進む仕組みです。採択されたことと、計算上の優位性や実際の電池性能が実証されたことは、それぞれ別の段階です。[2] 今回の進展は、材料側が必要とする精度を量子計算の課題へつなぎ、より複雑な対象で検証する研究が継続する点にあります。実材料の候補をどこまで絞り込めるのかが、次の成果を見る手がかりになります。
材料開発を進めるシャープの事業については、Cyclewaveのシャープの企業解説でも紹介しています。家庭向けの家電、職場の機器、製品に組み込むディスプレイを手がける会社としての広がりと、量子計算を使った電池材料研究の位置づけを確認できます。
出典
- シャープ・QunaSys「量子コンピュータを用いた全固体電池材料の評価技術開発がNEDO量子懸賞金事業第二期に採択」(2026年10月22日、共同発表)。発表ページ/発表資料PDF
- NEDO量子懸賞金事業 Season2、事業の流れ・FAQ。公式サイト
- Ueno et al., “Robust and efficient calculation of activation energy by automated path search and density functional theory”(2021年、arXiv:2104.08000)。著者公開論文
- NIMSほか「全固体電池のリチウムイオン移動を妨げている粒界を可視化」(2023年12月18日)。研究発表
