MITの量子レポート2026、商用QPU「56モデル」は何を数えた数字か

透明な三つの浅い容器に形の異なる淡色の物体を分け、二つの同形の球を一つの台に載せた抽象画。右奥に透明な測定用の弧が立つ。

量子コンピューターを使う選択肢は、どのくらい増えているのでしょうか。MITの「Quantum Index Report 2026」は、商用の量子処理装置(QPU)を56モデルと集計しました。前年版の40モデルから増えていますが、これは設置された装置の台数でも、実用的な問題で従来のコンピューターを上回った製品の数でもありません。

2026年10月23日にarXivで公開された第1版を読むと、数える対象と、性能を比べるために足りない情報が見えてきます。MIT Initiative on the Digital EconomyとAccentureの共同研究による報告書で、本記事は量子プロセッサーを扱う第10章に注目します。[1]

簡単にまとめると?

  • 56は、報告書が2026年8月時点で商用と分類した製品モデルの数です。同じモデルの設置先が違っても、別製品として数えるとは限りません。
  • 「商用」には、広く使えるクラウドだけでなく、特定の提携企業へ利用を提供する製品も含みます。誰でもすぐ利用できる56種類、という意味ではありません。
  • 製品の種類が増えたことと、使いたい計算を十分な精度・時間で終えられることは、別々に確かめる必要があります。

装置の台数ではなく、異なる製品を数える

報告書の集計は、メーカーの公表資料や公開データなどをもとにしています。性能を同じ実験で測り直した結果ではありません。同じ製品の別個体をまとめ、将来計画や試作、提供終了などを分けて、商用モデルの数を求めています。[1、pp.165–166、190]

たとえば、同じ製品モデルが二つの拠点に置かれていても、製品の選択肢が二つ増えたことにはなりません。反対に、同じメーカーが異なる設計の製品を提供していれば、別モデルになります。台数とモデル数を混ぜないことが、今回の数字を読む出発点です。

利用できる経路と、使える人の範囲

報告書は、施設内で使うオンプレミスやクラウドを通じて利用できることを、商用と分類する条件に挙げています。ただし、一般公開されたクラウドに載っていなくても、特定の提携企業が商用目的で利用できる製品を含めます。国別の集計は、メーカー本社の所在地に基づいています。[1、pp.174–175、190]

このため、国内の研究室から契約できる装置を探すなら、国別の本数だけでは判断できません。本社の所在地は、装置の設置場所や、利用者が契約するサービスの提供地域とは別の情報です。公開クラウドで選べるのか、共同研究契約が必要なのか、現地設備の導入が必要なのかによって、試せるまでの手順も変わります。

また、報告書の観測時点は8月です。10月23日に版が公開されたことを、10月の最新ラインアップを全件確認したという意味には読み替えられません。実際に利用する段階では、提供終了や新しい公開先も含め、メーカーやサービス側の現行案内へ戻る必要があります。

方式の広がりは、性能の順位とは分けて読む

報告書では、超伝導方式が56モデルの半数を占めています。光やイオントラップなど、他の物理系を用いる製品も含まれます。[1、Fig.10.b]

この内訳から、ある方式が半数を占めることは分かります。しかし、半数を占める方式が、あらゆる課題を最も速く解くとはいえません。たとえば量子回路を順番に動かす計算と、エネルギーが低い状態を探す量子アニーリングでは、問題を装置へ渡す方法から異なります。同じ「1モデル」でも、任せられる仕事が同じとは限りません。

必要なのは、用途をそろえて比べることです。分子のエネルギーを求めたい場合と、組合せ最適化を試したい場合では、問題の表し方や必要な計算が違います。まず自分の課題を実行できる方式かを確かめ、その上で、計算に使える量子ビット数、途中の誤り、結果を集めるまでの時間を見ていくと、製品一覧が比較の入口になります。

性能の空欄と、数字の測り方を見る

報告書は、メーカーが示すゲート忠実度の測り方にも違いがあると指摘しています。ゲート忠実度は、量子ビットへ操作を加えたときに、意図した操作へどれだけ近づけたかを表す指標です。最も良い量子ビット対の値なのか、多数の対の平均や中央値なのかが違えば、同じ欄の数字でも比べる条件がそろいません。第10章では、こうした比較上の問題から、量子ビット数と2量子ビットゲート忠実度を対応させた図を今回掲載しなかったと説明しています。[1、p.190]

たとえば、ある装置の最良の組合せと、別の装置の全体の中央値を比べても、装置全体の優劣は決まりません。使いたい回路がどの量子ビットを結ぶのか、その接続でどの操作が必要なのかが変われば、実際の計算に効く誤りも変わります。値が空欄なら、性能が低いと決めつけるのではなく、比較に必要な情報がまだ足りないと扱います。

共通の試験回路で大きさと速度を測る試みについては、SandiaのQUOPSを原論文から読む記事で、測定条件や指標の意味を説明しています。製品が利用できるという情報に、どの条件で何を実行できたかという証拠を重ねると、導入前に確かめることが具体的になります。

今回の56という数字が伝えるのは、報告書の定義に沿って整理した商用製品の広がりです。そこから先は、利用経路を確かめ、用途をそろえ、測定条件まで読む。製品が増えたという変化を、実際に試せる選択肢へつなげるための順序です。

報告書の共同発行に関わるAccentureについては、Cyclewaveのアクセンチュアの企業解説でも紹介しています。企業の業務やシステムを変える計画づくりから、導入後の運用までを担う会社として、その仕事の広がりを確認できます。

参考資料

  1. Jonathan Ruaneほか — Quantum Index Report 2026(MIT Initiative on the Digital Economy/Accenture、arXiv第1版、2026年10月23日)。報告書PDFの第10章、pp.165–166、174–175、190。商用QPUの観測時点は2026年8月。資料確認:2026年10月28日。