理研のサブサイクルレーザー、短い光を強くする二つの仕組み

淡い青色の二つの帯が、形の異なる透明な結晶状の物体を通り、中央で細い光のくびれへ合流する抽象画。

レーザーを短い時間だけ光らせれば、電子のように速く動くものを調べる手がかりになります。ただ、短くするほど、十分なエネルギーを載せるのが難しくなります。さらに短い光を別の物質から取り出すには、励起に使う光の短さと強さを両立しなければなりません。

理化学研究所の西宮海斗氏らは、光の電場が1回振動する周期より短い「サブサイクル」パルスを、50ミリジュールまで増幅しました。Science Advancesに2026年10月21日付で掲載され、理研が翌22日に発表した成果です。広い波長範囲の種光を作る仕組みと、その範囲を保って増幅する仕組みを組み合わせています。

簡単にまとめると?

  • 二つの波長域の種光を合成し、得意な帯域が異なる2種類の結晶で増幅します。
  • 赤外光のエネルギーは1パルス50ミリジュール、繰り返しは毎秒10回。測定から再構成した時間幅は6.7フェムト秒です。
  • 高調波について示された約35アト秒は、スペクトルから計算したフーリエ限界の幅です。時間波形を測定した結果とは分けて読む必要があります。

短いパルスには、広い波長範囲が必要

レーザーパルスの中では、電場が速く振動しています。その振動の強さは時間とともに大きくなり、やがて小さくなります。今回の「サブサイクル」は、光の強度が最大値の半分以上になる時間の幅、半値全幅が、電場の振動1回分より短いという意味です。光がその幅の外で完全にゼロになることを示す名前ではありません。

短い時間に光を集中させるには、異なる周波数の成分を広い範囲にわたって用意し、波のタイミングを合わせます。増幅の途中で一部の波長だけが弱くなったり、成分ごとの到達時間がずれたりすると、短くまとめにくくなります。帯域を広く保つことと、時間のずれを整えることが、両方必要なのです。

二つの種光をつなぎ、結晶の得意な帯域を組み合わせる

増幅の出発点になる弱い光を「種光」と呼びます。研究チームは、1.2〜2.5マイクロメートルと2.5〜3.2マイクロメートルの波長域を持つ種光を作り、時間的・空間的に重ねました。合わせた範囲は約1.4オクターブです。オクターブは周波数が2倍になる幅を指し、ここでは波長の長い端と短い端の比が約2.7になる広さです。

次に、HNC-DCOPAという、異なる非線形結晶を組み合わせる二重チャープ光パラメトリック増幅を使います。増幅される種光と、そこへエネルギーを渡す励起光の両方に、周波数が時間に沿って変わる「チャープ」を与える方式です。種光を時間方向に引き延ばすと、増幅中の強度を抑えて結晶への損傷を避けやすくなります。

この装置では、BiBO結晶が主に1.2〜2.3マイクロメートル、MgO添加ニオブ酸リチウム結晶が2.3〜3.2マイクロメートルの増幅を受け持ちます。二つの種光を分けた境界と、増幅を分担する境界は同じではありません。それぞれの結晶で増幅しやすい条件に合わせ、広い帯域を途切れさせないようにしています。

この組み合わせを3段階で使い、最後にサファイアを通して時間のずれを整え、光を圧縮します。種光の帯域を広げる工程と、その帯域を保つ増幅工程がつながって、短さとエネルギーを両立しています。

6.7フェムト秒は、どのように確かめたのか

刊行論文が報告する最終出力は、1パルス50ミリジュール、繰り返し周波数10ヘルツです。論文題名にある「100ミリジュール級」を、100ミリジュールを実測したという意味には読み替えられません。また、1パルスのエネルギーと毎秒何回出せるかは別の量です。実験に使う光源を比べる際は、両方が必要になります。

時間幅には、THG-FROGという測定法を用いました。光を二つに分け、片方の遅延を変えながら、厚さ200ナノメートルの窒化ケイ素で発生する第3高調波のスペクトルを測ります。この測定像に合う強度と位相を再構成し、時間方向の波形を求めます。スペクトルの位相を粗く調整する段階では、別のSHG-FROGも使われています。

再構成した強度波形の半値全幅は6.7フェムト秒でした。フェムト秒は1000兆分の1秒です。スペクトルの重心波長2.26マイクロメートルに対応する振動周期と比べると、約0.88回分になります。

原論文の図5。上段はTHG-FROGの測定像Aと再構成像B。下段Cは波長ごとの強度と位相、Dは再構成した電場と包絡線を示す。
測定像Aと再構成像Bを照合し、Cの強度・位相からDの時間波形を求めています。図を開くと拡大できます。出典:K. Nishimiya, R. Rajpoot, E. J. Takahashi, Science Advances 12, eaed5357(2026), Fig. 5。©2026 The Authors、CC BY 4.0。図の内容は変更していません。

測定像と再構成像の誤差は、256×256の格子上で0.86%と報告されています。これは二つの像の一致の度合いを評価した値で、「6.7フェムト秒の不確かさが0.86%」という意味ではありません。時間幅と、その再構成を評価する数字は、それぞれ何を表すか分けて見る必要があります。

約35アト秒は、さらに短い光の可能性を示す数字

研究チームは、この赤外光をアルゴンへ集光して高次高調波を発生させました。強い電場で動かされた電子が原子へ戻るとき、元の光より高いエネルギーの光を放つ過程を利用します。赤外光の電場の形を調整すると、高調波のスペクトルも変わりました。

刊行論文では、75〜180電子ボルトの連続したスペクトルから計算したフーリエ限界の時間幅を34.7アト秒としています。アト秒はフェムト秒の1000分の1です。これは、含まれる周波数成分の位相を適切にそろえた場合の幅であり、高調波の時間波形を測って34.7アト秒と確定した結果とは区別します。

6.7フェムト秒は励起に使う赤外光の再構成した時間幅、約35アト秒はそこから生じる高調波についての計算値です。50ミリジュールというエネルギーも赤外光側の値で、高調波が同じエネルギーを持つわけではありません。光源の成果を比べるときは、どの段階の光か、幅をどう求めたか、位相の補償を含むかをそろえると、数字の意味をつかみやすくなります。

半周期に近いレーザーや、1桁アト秒の光への展開は、論文の将来設計・計算に属します。今回得られたのは、その先の短パルス化を支える高エネルギーの励起光です。さらに短い光を実験で確かめるには、発生させる帯域だけでなく、周波数ごとの時間のずれを補償し、その時間波形を評価する段階が残ります。

出典