パラ粒子の交換統計を、超伝導量子ビットで再現する

四つの低い白いアーチを、水色と桃色の一続きの細い帯が通り、全体で緩やかな波を作る抽象画

同じ種類の粒子でも、二つが同じ状態へ集まりやすいものと、同じ状態を占められないものがあります。この違いを決める量子統計は、光の性質から物質の構造まで、幅広い現象に関わります。

マサチューセッツ工科大学などの研究者らは、2026年11月2日公開のプレプリントで、通常のボース粒子やフェルミ粒子とは異なる交換規則を持つ「パラ粒子」の一種を、超伝導量子ビットの格子で再現しました。自然界で新しい素粒子を発見したという報告ではありません。量子ビットの動きと仮想的な粒子のモデルを対応させ、交換、干渉、熱平衡での占有という三つの面から、その統計を実験で調べた研究です。

簡単にまとめると?

  • 二つの量子ビットを一組とし、何もいない状態と二種類の内部状態を表します。強い相互作用で、同じ組に二個が入ることを抑えます。
  • 内部状態が異なっていても、交換で約180度の位相差が現れ、二粒子の干渉では別々の出力へ分かれる振る舞いを観測しました。
  • 熱平衡に近づいた後の占有も、選んだパラ粒子の理論に対応しました。ただし、一次元の限られたサイズのモデルで、熱平衡の測定には試行の事後選別も使っています。

「色」は、粒子一個ずつに貼れる名札ではない

電子のようなフェルミ粒子では、同じ一粒子状態を二個の粒子が占めることはできません。これがパウリの排他原理です。ただし、同じ空間の状態でも、スピンが異なれば別の一粒子状態になり、両方が入れます。

今回扱うのは、Rパラ粒子と呼ばれる理論的な枠組みの中で、内部状態が二種類ある一例です。論文では、その内部状態を赤と青の「色」で表しています。実際に赤や青の光が出るという意味ではありません。

大切なのは、この色が粒子一個ずつの位置に結び付いた、局所的な名札ではないことです。色の並びは、粒子の集まり全体の量子状態に含まれる情報です。二つを交換しても、赤の粒子と青の粒子を別々に追いかける古典的な絵とは同じになりません。

この一種のパラ粒子では、色が同じ場合だけでなく、異なる場合にも、同じモードを二個が占めることができません。著者らはこれを、色によらない一般化された排他原理として扱っています。パラ粒子全般がすべてこの規則を持つ、という結果ではありません。

二つの量子ビットで、一つの置き場所を作る

実験に用いた装置は、4×4の超伝導トランズモン量子ビット格子です。その中の二つを一組にして、一つのパラ粒子の置き場所に対応させます。

両方が基底状態なら、その場所は空です。一方だけが励起されていれば赤、もう一方だけなら青を表します。両方が励起された状態は、強いZZ相互作用によってエネルギーをずらし、動きの途中で入りにくくします。ZZ相互作用は、片方の状態によってもう片方のエネルギーが変わる結び付きです。

こうして得られる「空、赤、青」の三状態を、横方向に結びます。装置側では相互作用の強い量子ビットのはしごですが、一般化したジョルダン・ウィグナー変換を使うと、相互作用しないパラ粒子の一次元鎖に対応します。

そのため、量子ビットの励起が互いに通り抜けられず戻ってきた動きを、対応するパラ粒子の表現では、自由な二粒子の交換として読めます。装置の励起が実際に何をしたかと、対応させた粒子モデルでどう解釈するかを、分けて考える必要があります。

二つの量子ビットを一組とし、両方基底状態なら空、一方だけ励起なら赤または青、両方の励起は抑制する三状態の対応図
回路側の二つの量子ビットで、一サイトの三状態を表す対応。色は、粒子モデルでは全体に符号化された自由度です。Quantum Sea作成。

戻ってきたことだけでは、交換の位相は分からない

最初の実験では、三か所、計六量子ビットの鎖の両端に励起を置き、間の結合を有効にしました。一例では、結合の強さを周波数単位で1.75メガヘルツにすると、約202ナノ秒で励起の占有が初期状態へ戻ります。

しかし、占有が元に戻ったことだけでは、量子状態全体に付く位相を読み取れません。そこで、交換が進む二粒子状態と、三か所がすべて埋まって動けない参照状態を重ね合わせます。二つの経路の相対的な位相を、最後のパルスと測定で取り出すラムゼー干渉の方法です。

研究者らは、交換を行う場合と行わない場合の両方で、最後のパルスの位相を掃引しました。その差を取ることで、駆動周波数のずれなどによる余分な位相を補正しています。

得られた交換位相は、πを単位にすると1.00±0.01でした。πは180度に当たります。この±0.01は、調べた複数の結合強度にわたる標準偏差です。任意の規模の装置で誤差が1%以下になるという性能保証ではありません。

色が違っても、二つの出力へ分かれる

二つ目の実験は、四か所、計八量子ビットを使った二粒子干渉です。一個だけを入れると左右へ半分ずつ分かれる、50対50のビームスプリッターに相当する動きを作ります。

区別できないボース粒子二個は、このような干渉で同じ出力へ集まるバンチングを示します。区別できないフェルミ粒子は、別々の出力へ分かれるアンチバンチングを示します。一方、局所的な内部状態などで区別できる粒子は、それぞれ独立に分かれます。

今回のパラ粒子では、二個の色が同じ場合だけでなく、赤と青の場合にもアンチバンチングを観測しました。色が違うから区別できる、とは扱えないことが、干渉の結果に現れています。

これは、単に二個が同じ場所へ入ることを機械的に妨げた、と説明して終わる実験ではありません。装置側の強い相互作用と、対応する自由なパラ粒子の干渉という二つの表現を、一貫した対応関係の中で比較しています。

熱平衡で残る占有にも、数え方の違いが現れる

三つ目の実験では、二量子ビットで表す一つのパラ粒子サイトを、残りの14量子ビットからなる浴に結び付けました。浴とは、対象と励起をやり取りする周囲の自由度です。装置全体を外部の熱源で温める操作とは異なります。

浴に入れる励起の個数を変え、約1マイクロ秒後の占有を調べます。パラ粒子のサイトには「空、赤、青」の三通りがあり、赤と青が同時に入る状態は除かれています。この状態の数え方から、平均占有は、ボルツマン因子をxとして2x/(1+2x)という形になります。

測定された占有は、このパラ粒子の予測に対応しました。比較に使ったフェルミ粒子の占有は実測、ボース粒子の曲線は計算であり、三種類すべてを同じ装置で実測したわけではありません。

また、この熱平衡のデータでは、16量子ビット全体の励起数が初期値から変わらなかった試行を事後選別しています。装置外へ励起が失われるなどの影響を減らすためです。選別前のすべての試行について、理想どおりの分布が得られたと読むことはできません。

どこまで再現できたかを、三つの測定で比べる

今回の成果は、一次元で相互作用しない、二種類の内部状態を持つ一種のパラ粒子について、三つの異なる観測をそろえた点にあります。

調べた性質 装置の規模 観測・比較の要点
二粒子の交換 3サイト、6量子ビット 参照状態との干渉で約πの交換位相を読む
二粒子の干渉 4サイト、8量子ビット 同色でも異色でも別々の出力へ分かれる
熱平衡の占有 1サイトと14量子ビットの浴 励起数を保った試行の占有を、状態数の予測と比べる

より大きな系、粒子間相互作用を持つモデル、別の種類や高次元のパラ粒子は、今後の課題です。特定の粒子の規則を量子ビットへ写し、測定できる量へ戻す手順があることで、自然界でまだ見つかっていない統計を、実験装置の上で確かめる道が広がります。

出典

  1. Gyunghun Kimら, “Analog quantum simulation of paraparticle statistics,” arXiv:2611.03908v1、2026年11月2日公開。本文第I–VI節、図1–5、補足資料第S1・S6・S11・S12節。査読前プレプリント。論文ページ・PDF。