量子計算の誤りを減らすために、より多くの物理的な量子状態を使って一つの情報を守ると、準備するものや制御する操作も増えていきます。光を使う量子コンピューターでは、その負担をどこに置けば、計算を進める部分を複雑にせずに済むのでしょうか。
OptQCの研究チームは、誤り訂正に使う量子状態を事前に準備・検証する部分と、それを使って計算する部分を分ける設計を提案しました。論文は2026年10月23日にarXivへ投稿され、同社が10月26日に紹介しています。現時点ではプレプリントで、今回示されたのは設計と数値シミュレーションです。誤り耐性のある光量子コンピューターの実機完成を報告したものではありません。
簡単にまとめると?
- 誤り訂正に使う量子状態を用意する「工場」と、計算を進める光プロセッサーを分け、状態と一緒に渡すアドレス・測定・補正の記録を定義しました。
- 資源を事前に用意し、十分な並列処理ができれば、保護を強くしても対象操作の逐次的な測定段数を増やさない構成です。総計算時間や必要な装置が一定になるという意味ではありません。
- 指定されたノイズ模型で、選別後のベル状態の誤りを評価しました。すべての論理ゲートや実機全体の性能を保証する結果ではなく、準備コスト・待ち時間・光の損失には追加評価が必要です。
計算用の光と、誤り訂正のための資源を分ける
この設計が使うのは、測定型量子計算(MBQC)です。あらかじめ互いに結び付いた光の状態を作り、どのように測定するかを選ぶことで計算を進めます。時間領域多重化では、同じ光の経路に異なる時刻のパルスを流し、時間の区切りも使って多数の光のモードを扱います。
提案の計算部分は、QRL(quad-rail lattice)と呼ばれる格子状の光の状態を土台にします。光の振幅や位相に関わる量をホモダイン測定で読み、その結果に応じて後の測定や補正を変えます。こうした共通の光学的な操作を使いながら、誤り訂正を担う資源を別に供給するのが狙いです。
資源を準備する側を論文は「工場」と呼びます。ここでいう工場は製造拠点ではなく、計算に使う量子状態を繰り返し作り、検証する装置の役割です。今回の具体例では、光の連続的な量を格子状に符号化するGKP量子ビットに、C4という四つの量子ビットを単位とする符号を重ねます。小さなずれをGKPで扱い、さらに上の符号で誤りに対する保護を強くする構成です。
工場が渡すのは、検証された符号化ベル状態です。ベル状態は二つの量子系が量子的に相関した状態で、ここでは量子テレポーテーションを通じてデータを移し、更新するための補助資源になります。事前に用意する資源と、計算中のデータそのものを混同しないことが大切です。

量子状態と一緒に「扱い方の記録」を渡す
工場から品質のよい状態を渡せば、それだけで計算できるわけではありません。どの光の経路の、どの時刻のパルスが、符号のどの部分に対応するかが分からなければ、正しい相手同士を操作できません。同じ経路を通っていても、時刻が違えば別のモードです。
そこで論文では、渡す資源の種類に加えて、光の空間・時間アドレス、測定の役割、補正の記録、検証結果と信頼性の情報、準備と計算の境界をまとめて定義しています。例えば途中で出力先を入れ替える操作を行ったら、情報が移った先へアドレスと補正の記録も引き継ぎます。元の出力端子の名前だけを見続けると、別の情報をデータだと思って扱うおそれがあるためです。
補正記録には、測定結果から既に分かっているずれと、まだ分からない残留誤りを分けて保持します。分かっている補正を二重に数えたり、以前の測定記録を新しい独立した証拠のように扱ったりしないことも、接続条件の一部です。この境界を明確にすることで、準備側を改良したときに、計算側へ何を渡し直す必要があるかを比較できます。
測定段数が同じでも、必要な並列幅は増える
保護を強くするには、C4符号を階層的に組み合わせます。連接レベルをLとすると、一つの並列操作の層に必要な物理操作数は4Lです。例えばレベル2では16、レベル3では64になります。
16個や64個の操作をそれぞれ同時に実行でき、必要な資源が先に用意され、経路の切り替えで順番待ちが生じなければ、並列幅を増やしても逐次的な測定の段数は増えません。論文では、この条件の下で、追跡情報を伴うSWAP操作を一つの層で構成できることなどを示しています。
ところが、装置が一度に16個しか操作できないなら、64個を扱うには複数の時間帯へ分ける必要があります。資源を作る時間、測定結果を計算する時間、補正を伝える遅延も残ります。「保護されたオンライン測定の深さが一定」という性質は、待ち時間を含めた計算全体の速さとは分けて読む必要があります。
別の誤り訂正符号へ交換する場合も、同じ光学的な操作群を使えることと、すべての制御がそのまま使えることは別です。符号に応じてアドレス、測定、復号、制御の規則を作り直し、性能を確かめる必要があります。交換後の符号が同じ測定段数を保つことも、自動的には保証されません。
数値評価が確かめたのは、選別後の資源の誤り
数値評価では、候補となるベル状態を作り、測定で得られる情報から復号器が誤りを推定し、決めておいた規則で候補を選びます。工場で受け入れた状態のうち、指定されたデータ部分に残る誤りを数える評価です。候補を採用した割合と、採用後の誤り率は別の指標です。
有効なGKP変位ノイズの品質を12.25 dBとした条件では、レベル2から5へ進むにつれ、選別後の論理誤り率が下がる順序が、指定された二つのノイズ条件で支持されました。レベルごとの採用割合は100%、70%、96%、100%です。レベル5では各条件で1万5,000件の採用サンプルに誤りがありませんでしたが、これは誤り率ゼロの証明ではありません。論文の片側95%上限は約1.28×10−4です。
別に、15.6 dB・レベル2の条件では、設定を固定して各100万サンプルを評価しました。追加ノイズなしで3件、指定された追加ノイズありで4件の誤りがあり、二項モデルに基づく片側95%信頼上限は、それぞれ約7.75×10−6と9.15×10−6でした。各条件で10万分の1を下回る上限ですが、すべての操作をまとめて保証する数字ではありません。
ここでの12.25 dBや15.6 dBは、シミュレーションで使う加算的な変位ノイズの分散を表す有効パラメーターです。実験でその強さの光源やクラスター状態のスクイージングを測定したという意味ではありません。また、追加ノイズは決められた模型による一段階のずれで、実機の全ゲート・損失・制御誤差を網羅した測定ではありません。
資源の節約と、装置全体のコストを分けて見る
入力を高品質にできれば、少ない連接レベルで目標の誤り率へ近づけます。論文の比較では、14 dB・レベル3で採用ベル状態一つあたり約3,637.9個、15.6 dB・レベル2で288個という名目上の供給GKP数を示しています。
ただし、この二点は入力品質も統計評価の条件も異なります。高品質なGKP状態を作るコスト、検出器、スイッチ、保存、制御装置、非クリフォード演算のための資源まで含めた総費用ではありません。この比率をそのまま装置の小型化率や実行速度の向上率にすることはできません。
今回の提案を評価するうえで役立つのは、資源の品質だけでなく、受け渡す記録と実行条件まで具体化した点です。次に必要なのは、供給と待ち時間を含む動作、保存時の光の損失、雑音を含むオンライン論理操作、アルゴリズム全体での性能の検証です。論文のデータとソフトウェアは商業上の機微情報を理由に一般公開されておらず、著者への合理的な依頼で提供するとされています。現時点の公開資料だけで数値結果を独立に再現できたとは扱えません。
OptQCの装置開発と企業向けサービスは、CyclewaveのOptQCの企業解説で紹介しています。今回の設計研究が、実機の開発や利用環境の整備とどう関わるかを知るための案内です。
出典
- K. Fukuiほか「Modular optical fault-tolerant quantum computation via an interface between verified resources and online logical operations」。arXiv:2610.32838v1、2026年10月23日投稿。本文I〜VII、図1、付録Fの実行条件・時間評価を参照。プレプリントで、今回の数値評価は実機性能の実測ではありません。
- OptQC「Our Research Paper on a Fault-Tolerant Optical Quantum Computer Architecture Is Now Available」、2026年10月26日。公式発表。上記論文を紹介する同一研究主体の発表であり、独立した追試ではありません。
