原子核の大きさは、陽子や中性子の数だけで単純には決まりません。粒子同士の相互作用や核の変形も関わるため、わずかな半径の違いが、原子核の理論を確かめる手がかりになります。核融合科学研究所と電気通信大学などの研究グループは10月15日、電子を大幅に取り去った「多価イオン」の光から、隣り合う元素の原子核を比べた研究を発表しました。ルテチウムの核が予想外に大きいとされてきた値を見直し、その一方で、現在の理論に残るずれも示しています。
簡単にまとめると?
- 電子が11個または12個だけ残ったルテチウムとイッテルビウムを使い、原子核の大きさに敏感な発光を比べました。
- 光の測定が直接与えるのは、感度の違いを補正した半径の関係です。個々の核の半径には、既存の測定値も組み合わせています。
- 従来の「大きさの逆転」は見直されましたが、陽子数が奇数か偶数かによる差の大きさは、今回比べた理論でも十分には再現できませんでした。
比べたいのは、電子の広がりよりずっと内側
ここでいう半径は、原子核の中で電荷がどのように広がっているかを表す「電荷半径」です。原子全体の電子雲の大きさでも、硬い球の縁までの距離でもありません。原子核の電荷分布が変わると、近くにいる電子のエネルギーも少し変わります。その電子が状態を移るときの光を調べれば、核の大きさについて情報を取り出せます。
同じ元素で中性子数だけが異なる同位体では、この考え方による精密な比較が進んできました。難しいのは、陽子数の違う元素同士を比べる場合です。電子の状態も大きく変わり、核の小さな違いをそのまま読み取れないからです。
今回の工夫は、電子を少数だけ残して比較しやすい構造にそろえることでした。ルテチウムは陽子71個、イッテルビウムは70個を持ちます。前者から60個、後者から59個の電子を取り去れば、どちらも電子11個の「ナトリウム様イオン」になります。核がナトリウムに変わるという意味ではなく、残った電子数に着目した呼び名です。電子12個の「マグネシウム様イオン」も用い、異なる遷移から結果を照合しました。
多価イオンの光を、原子核の比較につなぐ
電子を多く失ったイオンでは、残る電子が原子核の強い引力を受けます。核の近くを探る電子のエネルギーが、電荷半径の違いに敏感になることを利用します。実験では電子ビームイオントラップTokyo EBITで多価イオンを作り、波長がおよそ7~10ナノメートルの極端紫外光を測りました。元素を切り替えながら測定し、参照用の光も使って、装置の波長のずれを点検しています。
ただし、光の差がそのまま「半径の差」に相当するわけではありません。核の半径が変わったとき、光のエネルギーがどれだけ動くかという感度も元素ごとに異なります。研究では原子構造の計算と組み合わせ、その感度の比で重み付けしたルテチウムとイッテルビウムの半径の関係を求めました。
さらに、イッテルビウムの絶対半径を与える既存のミュオン原子測定や、同位体間の光のずれなどを組み合わせて、各原子核の半径へつないでいます。「新しい発光測定」「電子状態の理論計算」「既存の半径情報」が役割を分担した結果です。今回の装置だけで、図にあるすべての原子核を直接測り直したわけではありません。
逆転は見直されたが、理論との差は残った
論文が検討した一つの軸は、中性子数を94個にそろえ、陽子数を変えて並べた原子核です。このような組は同中性子体と呼ばれます。従来のルテチウムの半径には、周囲の核と比べて大きすぎる値があり、陽子数の奇偶による通常の傾向と逆向きの振る舞いを示していました。今回の制約を既存データと組み合わせると、その逆転は解消される方向に値が変わりました。

上の図では、右端のルテチウム付近で、従来値と今回の赤い点が離れていることが分かります。一方、下段の奇偶差をみると、測定に基づく変化の大きさと、原子核の密度汎関数理論による予測は一致していません。比較した三つの相互作用モデルで、変化の方向が改善しても、その振れ幅を十分に説明できないという課題が残りました。
これは、新しい未知の力を発見したという結論ではありません。論文は、核の理論に加え、絶対半径を決める従来の測定やその補正の前提にも、引き続き検討の余地があると論じています。二種類の電子構造から得た結果が整合することは測定を支えますが、同じ研究内の照合であり、別の研究グループによる独立再現とは区別する必要があります。
新しい測り方は、理論を絞るための条件になる
この成果の読みどころは、半径の数字を一つ更新したことに加え、異なる元素の原子核を原子分光から結び付けた点にあります。同じ元素内の比較とは違う条件を加えることで、理論がどの組合せを説明でき、どこで外れるかを調べやすくなります。
今後、別の希土類元素へ比較を広げられれば、今回のずれが特定の核に限られるのか、より広い傾向なのかを確かめる材料になります。ただし、それは次の測定で確かめる課題です。現時点では精密計測の研究成果として、直接測った量と、ほかの情報を合わせて導いた量を分けて読むのが適切です。
