サーバーの性能表で、CPUの横に大きなスコアが並んでいます。その数字が高いほど、一つの仕事が早く終わるのでしょうか。それとも、たくさんの仕事を同時に処理できるのでしょうか。
SPEC CPU 2026は、その二つを分けて比較するベンチマークです。計算性能を測る試験プログラムを52本収録し、速さを見るSPECspeedと、単位時間あたりの処理量を見るSPECrateを用意しています。整数と浮動小数点の分類を組み合わせ、四つの測定系に分かれます。[3]
2026年のOCP APAC Summitでは、非営利の性能評価団体SPEC(Standard Performance Evaluation Corporation)のDavid Reiner氏が、新版の変更点を紹介しました。2026年5月に公開されたこの新版から、CPUの数字を読むときに押さえたい点を見ていきます。[1・2・6]
CPUだけでなく、メモリーとコンパイラーも測る
SPEC CPUという名前ですが、結果はCPUチップだけでは決まりません。キャッシュや主記憶の構成、プログラムを実行できる形に変換するコンパイラーと、その最適化も測定対象に含まれます。実際のアプリケーションに由来する計算を、こうした組み合わせで動かした結果です。[2・3]
たとえば同じCPUを積んだサーバーでも、メモリーの構成やコンパイラーの設定が違えば、結果をそのまま「CPUの差」とは読めません。性能表の構成欄まで見ることで、どのような条件で出た値なのかが分かります。
SPECspeedは一つの仕事、SPECrateは同時に進める仕事
SPECspeedでは、各ベンチマークを一つずつ実行し、仕事を終えるまでの時間を測ります。SPECrateでは、同じベンチマークの複数のコピーを同時に動かし、単位時間あたりにどれほど仕事を進められるかを見ます。[3・4]
| 測定系 | ベンチマーク数 | スコアが高いときの意味 |
|---|---|---|
| SPECspeed 2026 Integer | 13 | 整数系の仕事を、より短い時間で終える |
| SPECspeed 2026 Floating Point | 13 | 浮動小数点系の仕事を、より短い時間で終える |
| SPECrate 2026 Integer | 14 | 整数系の仕事を、単位時間あたりにより多く処理する |
| SPECrate 2026 Floating Point | 12 | 浮動小数点系の仕事を、単位時間あたりにより多く処理する |
整数系にはコンパイラーやデータ圧縮、浮動小数点系には流体や大気のシミュレーションなどが入っています。表の本数は、四つのスイート(試験プログラムの組)を合計して52本です。[4]
ここで気をつけたいのが、SPECspeedの「一つ」は、1コアや1スレッドという意味ではないことです。一つの仕事を複数のスレッドに分けて進められるベンチマークもあります。Reiner氏の資料では、整数系SPECspeedで並列処理を使えるものが、前版の10本中1本から、新版では13本中9本へ増えたと説明しています。[2]
SPECrateは各コピーを1スレッドで動かします。見るときは「何コピーを同時に実行したか」、SPECspeedなら「何スレッドを使ったか」も一緒に確かめると、サーバーの使い方を想像しやすくなります。[4・5]
52本に増え、暗号化検索やグラフ探索も加わった
前版のSPEC CPU 2017は43本、新版は52本です。ただ増やしただけでなく、扱うアプリケーションの分野も広がりました。LLVMコンパイラーやPythonインタープリター、機械翻訳など、いまのソフトウェアを支える処理が加わっています。[2・6]
新しいセキュリティ分野の例が750.sealcrypto_rです。これは、データを復号せずに計算できる「準同型暗号」を使う検索です。データベースと検索条件を暗号化したまま照合する処理が含まれています。[2・7]
854.graph500_sでは、点と線でつながりを表すグラフをたどります。ある点から近い順に探す幅優先探索や、点どうしの最短経路を求める処理を使います。また、772.marian_rには英語をドイツ語へ訳すニューラル機械翻訳が含まれます。「CPUが速い」の中に、異なる種類の仕事があることが見えてきます。[8・9]
52という数は、入力条件の数ではありません。各ベンチマークには、入力データや処理内容を定めたワークロードがあります。発表では、このワークロードの種類も増やしたと説明しています。同じプログラムを違う入力で動かすことで、特定の処理だけに偏らず、CPU内部のさまざまな動きを調べる狙いです。[2]
baseとpeakでは、最適化の条件が違う
結果の名前の末尾には、baseやpeakが付きます。baseは、同じスイートの同じ言語に共通するコンパイラー設定を使うなど、最適化の条件をそろえた測定です。peakは、ベンチマークごとに設定を選ぶ余地が広くなります。baseも最適化を行うため、「何も調整していない状態」という意味ではありません。[5]
比較するときは、まずSPECspeedかSPECrateか、IntegerかFloating Pointか、baseかpeakかを合わせます。そのうえで、CPUの個数と有効なコア数、メモリー構成、OS、コンパイラー、コピー数やスレッド数を読みます。条件が異なる構成を比べる場合は、何が違うのかも含めて判断することになります。[5]
たとえばサーバー全体の処理能力を知りたいなら、コア数の異なる機種どうしを比べる意味があります。一方で、その差を「1コアあたりの速さ」と呼ぶには、別の切り分けが必要です。何を選ぶための比較なのかを先に決めると、スコアの使い道がはっきりします。
CPU 2017の点数から、CPU 2026へは換算できない
旧版と新版のスコアを並べて、その増減を性能向上率として読むことはできません。SPECは、CPU 2017とCPU 2026の結果を相互に換算する式はないと説明しています。プログラム、入力データ、実行規則に加え、スコアの基準となる参照機も変わっているためです。[4]
同じサーバーで新版の点数が小さくなっていても、それだけで性能が落ちたとは言えません。世代の異なるCPUを比較したいときも、両方を同じ版・同じ測定系で測った結果から出発するのが基本です。
電力を測るなら、仕事を終えるまでのエネルギーも見る
SPEC CPU 2026には、電力を測定してエネルギー指標を出すオプションがあります。これは全ての結果に自動で付くものではありません。規則に対応した電力計と温度センサーを使い、対象システムとは別の制御用システムで測定データを集めます。[3・5]
電力計を置くのは、AC電源と測定対象システムの間です。CPU単体の消費電力や、仕様表のTDPを示す数値ではありません。エネルギー指標は、実行時間の代わりに仕事に要したエネルギーを使い、参照機との比から計算します。[4・5]
電力とエネルギーは、見ているものも異なります。たとえば、ある処理中の平均電力が小さくても、終了までに長い時間がかかれば、その仕事で使うエネルギーは増える場合があります。性能とエネルギーの結果を並べることで、処理量を増やしたいのか、仕事あたりのエネルギーを抑えたいのか、目的に沿って考えやすくなります。
自分の仕事に近い測定から読む
SPEC CPU 2026は、計算を中心とする仕事を比べるための共通の基準です。ネットワークやストレージの性能を主に測るものではなく、機械翻訳が含まれるからといって、AIサービス全体の応答時間を表すわけでもありません。自分が使うアプリケーションの性能を、そのまま代わりに測れるものではないとSPECも説明しています。[4]
性能表に出会ったら、最初に点数の大きさを見る前に、名前を最後まで読んでみる。版、speedかrateか、整数か浮動小数点か、baseかpeakか。そして構成と実行条件へ進む。その順番で読むと、一つの数字が、自分の仕事に合うサーバーを考えるための手がかりになります。
参考資料
2026年9月26日確認。OCP公式掲載スライドとSPECの公開文書をもとに構成しました。講演動画の発言や質疑は未確認です。
[1]Open Compute Project「2026 OCP APAC Summit」発表一覧。演題・登壇者と公式資料への導線。
[2]David Reiner「SPEC CPU 2026 — What’s New, What’s Improved and Why it Matters」公式掲載スライド。全17頁。測定対象はp.8、世代差とワークロードはpp.10–12、分野別の例はpp.13–14。
[3]SPEC「SPEC CPU 2026」。四つの測定系、52ベンチマークと任意のエネルギー測定。
[4]SPEC「CPU 2026 Overview / What’s New?」。測定範囲、各スイートの本数、コピー・スレッド、指標の計算と旧版からの移行。
[5]SPEC「CPU 2026 Run and Reporting Rules」。base・peak、実行条件、測定機器、構成情報の開示。
[6]SPEC「SPEC Releases the SPEC CPU 2026 Benchmark Suites」。2026年5月5日の公開発表と変更点。
[7]SPEC「750.sealcrypto_r」。暗号化したデータベースと検索条件を使う準同型暗号のベンチマーク。
[8]SPEC「854.graph500_s」。幅優先探索と全点対最短経路を使うベンチマーク。
[9]SPEC「772.marian_r」。英語からドイツ語へのニューラル機械翻訳。

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