AIの計算機をつなぐネットワークには、違う距離と役割の接続が重なっています。近くのアクセラレーター同士が細かなデータをやり取りする接続と、離れたデータセンターへ通信を運ぶ接続では、同じEthernetを使っていても、考えるべきことが変わります。
2026年8月のOCP APAC Summitで、BroadcomのMohan Kalkunte氏は、こうしたAI基盤の接続を、スケールアップ、スケールアウト、スケールアクロスの三つに分けて説明しました。発表には、ラック内の通信規約から、多経路でデータを運ぶMRC、拠点間ネットワークまでが登場します。[1・2]
近くの計算機と結ぶ、たくさんの計算機へ広げる
この発表でのスケールアップは、アクセラレーター同士を密に結び、まとまった計算資源として使うための接続です。資料の出発点となる図では、ラック内の接続として描かれています。
スケールアウトは、複数のラックにまたがる計算ノードをつなぎ、AIクラスターを広げる接続です。さらに、別のデータセンターにある計算資源へつなぐ領域を、スケールアクロスとして扱っています。[2]
ただし、ラックの内か外かだけで、厳密に区切れるわけではありません。資料は光接続の取り組みとしてOCI(Optical Compute Interconnect)も紹介し、スケールアップを複数ラックや複数列へ広げる方向を示しています。物理的な距離に加えて、どのように計算資源を結びたいかを見るための分類です。
共通のEthernetの上で、何をそろえるか
スケールアップの説明では、ESUNとSUE-Tが並んで登場します。どちらもEthernetをAI計算向けに使うための取り組みですが、資料の構成図では受け持つ層が違います。[2]
ESUNは、小さなメッセージを効率よく運び、複数のスイッチを経由する構成にも対応するための、Ethernet側の仕組みを扱います。信頼性の高い通信や、混雑時の制御が、その土台に置かれています。
SUE-Tは、その上でアクセラレーター間のデータやメモリー操作を運ぶ、トランスポートの役割を担います。図では、共通のEthernetの物理層・データリンク層の上に、SUE-Tとほかのトランスポートが並んでいます。共通の配線やスイッチ基盤を使うことと、上位の通信方式まで同じであることは、分けて考える必要があります。
運用するためのソフトウェアも関わります。資料は、スイッチOSのSONiCと、スイッチ機能をソフトウェアから扱うSAIについて、仕様、実装、検証を進める項目を紹介しています。オープンな仕様があるだけでなく、実際の機器でどこまで実装され、組み合わせて確かめられているかが重要になります。[2]
多くの計算ノードへ広げるなら、経路の使い方も変える
スケールアウトでは、通信量が増えるにつれて、一部の経路へ負荷が偏ることが問題になります。高速なスイッチを入れても、使われていない経路が多ければ、ネットワーク全体の余力を使い切れません。
そこで紹介されているのが、MRC(Multipath Reliable Connection)です。資料ではRoCEv2を拡張する仕組みとして位置づけられています。RoCEv2は、Ethernet上のIPネットワークを通して、離れた計算機のメモリーへ効率よくデータを転送するRDMAを扱う方式です。[2]
MRCは、パケット単位で通信を複数の経路へ振り分けます。経路が分かれると、送った順番と届く順番が入れ替わることがあります。そのため資料では、順不同のデータ配置と、届かなかった部分だけを送り直す選択的再送を、経路の制御や混雑の制御と組み合わせています。[2]
道を増やすだけでなく、順序の違いや欠落を受け止められるようにする。スケールアウトの通信を考えるときには、ポート速度とあわせて、データが届くまでの振る舞いを見る必要があります。
拠点をまたぐと、距離と保護も設計に入る
スケールアクロスの領域では、拠点間を結ぶ通信の制御に加え、暗号化による保護も扱われています。資料はJericho4を使う構成を例に、広いネットワークの端から端までを対象とした混雑制御を挙げています。[2]
拠点間では、通信が物理的な距離を移動する時間も必要です。資料にある大規模構成の説明を、遠くの計算機をラック内と同じ遅延で使える、という意味には読めません。どの処理を近くにまとめ、どの処理を拠点の外へ広げるかは、ワークロードと通信の特性をあわせて考えることになります。
この発表から見えてくるのは、Ethernetという共通の土台の上にも、役割に応じた設計があることです。近い計算資源を密に結ぶこと、多くの計算ノードへ広げること、拠点間をつなぐこと。それぞれに必要な通信方式と運用の仕組みを確かめると、AIネットワークの構成を整理しやすくなります。
発表企業の事業を知る
Broadcomのネットワーク半導体と、そのほかの半導体・ソフトウェア事業については、cyclewaveの企業解説から読めます。
参考資料
2026年9月27日確認。仕様や実装の状況は、2026年8月の講演資料に基づきます。
[1]Open Compute Project「2026 OCP APAC Summit」発表一覧
[2]Mohan Kalkunte/Broadcom「Open Ethernet Fabrics for AI Training and Inference」公式掲載スライド。接続の分類はp.3、ESUN・SUE-T・OCIとソフトウェアはpp.5–7、MRCはpp.11–12、拠点間の構成はp.14。

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