AIラックの電源は、負荷が短時間で変わるときにも、交流入力が失われるときにも、必要な電力を届け続けることが求められます。複数の電源装置や蓄電装置を組み合わせるほど、装置同士が切り替わる瞬間や、故障から復帰する順序までが大切になります。
2026年8月のOCP APAC SummitでMicrosoftが示したのは、高電圧直流(HVDC)を使うDiablo 400のシステム検証です。個々の部品から一つのラック、さらに複数ラックへと範囲を広げ、負荷変動・電源喪失・保護動作を確かめる考え方が紹介されています。[1・2]
±400V/800Vの電源構成を、ITラックと分けて考える
発表の前提は、電源をITラックから切り離して配置する、±400V/800VのHVDC電源ラックです。目標として挙げられる電力密度は、ITラックあたり約1MW。これは資料が示す設計上の目標値であり、この発表で達成済みの運転性能を示す数値ではありません。[2]
電源を分けると、電力の変換を担うPSU、蓄電と給電の切り替えに関わるCBU、電力を分配するPDU、電流を流す母線(バスバー)を、ラックをまたぐ一つのシステムとして扱う必要があります。資料は、電気的な乱れがこれらの装置やIT側の負荷へ伝わり得る点を、検証の出発点に置いています。[2]
L10・L11・L12で、確かめる範囲を広げる
Microsoftの検証フレームワークは、三つの段階に分かれています。資料中のL10・L11・L12は、今回の検証範囲を区別する呼び方です。[2]
| 段階 | 検証する範囲 | 主な対象 |
|---|---|---|
| L10 | 構成部品 | PSU、CBU、PDU、バスバーなどの個別の適合性 |
| L11 | 単一ラック | 給電、電源異常時の運転継続、故障の切り離し |
| L12 | 複数ラックを含むシステム | 製品構成や実際のワークロードを踏まえた相互動作 |
たとえば、PSU単体が試験に合格していても、それを複数台並べ、別のラックへ給電したときの応答まで同じとは限りません。部品の結果を土台にしながら、配線や蓄電装置、負荷を組み合わせた状態へ確認を進める。その順序が、この三段階の役割です。
負荷の大きさに加え、変化の速さと繰り返しを試す
電気的な検証では、入力電源の振る舞い、直流出力の安定性、効率などに加えて、急な負荷変動への応答を調べます。資料に挙がるのは、高い頻度で繰り返す負荷ステップ、大きな過渡変動、電圧のオーバーシュート・アンダーシュートです。目標値から一時的に上へ外れるか、下へ外れるかを含め、変化の最中を見ます。[2]
ここで気を付けたいのが、複数の電源モジュールの電流分担(Ishare)です。発表は、急激な負荷変化の初期には制御の応答が追い付かず、分担が崩れるリスクを挙げています。試験設備を含む配線の電気的特性も応答へ影響し、負荷を変化させる周波数によっては共振が生じ得る、としています。[2]
そのため、一定の負荷を一度かけるだけでは見えない振る舞いがあります。負荷の変え方や繰り返しの周波数をそろえ、電気計測とテレメトリーを突き合わせる。テレメトリーは装置から取得する状態情報ですが、資料はその測定誤差を抑えるため、事前の校正も重視しています。[2]
交流入力の喪失から復帰まで、PSUとCBUの連携を見る
電源が一時的に乱れたとき、給電を維持して運転を続ける能力はライドスルー(ride-through)と呼ばれます。今回のCBUの検証は、交流入力の喪失、復帰、給電の切り替えを、一連のシナリオとして扱います。[2]
対象には、蓄電と電力の受け渡し、蓄電状態のバランス、負荷変動の平滑化、PSUとCBUの相互動作が含まれます。蓄電装置があることに加え、電源が失われたときにどう引き継ぎ、戻ったときにどう通常の状態へ移るかを確かめるわけです。資料はこうした検証項目を示していますが、運転を維持できる時間の保証値は示していません。[2]
保護動作は、止める範囲と復帰の振る舞いまで確認する
安全性の検証でも、構成部品、ラック、複数ラックという段階を使います。接地、絶縁、保護機能を調べ、故障を模擬的に与える故障注入試験によって、停止と復帰の振る舞いを確認する方針です。装置が残す状態情報やイベントの記録も、想定した応答との照合に使います。[2]
資料は、高いインピーダンスを使う接地方式や、保護接地(PE)の接続を、複数ラック構成で注意する点に挙げています。ここから読み取れるのは、ラックの内側だけで安全を完結させず、接続先も含めて故障の影響を追う必要があるということです。特定の接地方式を、すべての設備へそのまま適用するための説明ではありません。[2]
「100%」は、試験で扱う範囲を広げる目標
発表はシステム統合検証の100%カバレッジを目標に掲げ、標準化された試験、設計固有の条件、実際の使い方を組み合わせています。この100%は、故障が起きない確率や、すでに達成した検証結果を表すものではありません。対象に選んだ構成とシナリオを、どこまで試験で扱うかという計画の話です。[2]
800Vの電源構成を読み解くときは、容量や変換効率と一緒に、負荷変動、給電の切り替え、故障時の停止と復帰にも目を向ける。Microsoftの発表は、それらを部品からシステムへ順に積み上げて確かめる道筋を示しています。
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参考資料
2026年8月11〜12日開催のOCP APAC Summitの公式掲載資料を使用し、2026年9月28日に保存済みスライドの全16頁を確認しました。検証の対象・方針と、性能の実測結果を分けて記述しています。
[1]Open Compute Project「2026 OCP APAC Summit」発表一覧
[2]Microsoft「Validating HVDC AI Rack Platforms with Complex Architecture: Diablo 400 System」公式掲載スライド。電源構成と目標はp.4、検証の段階と計画はpp.5–6、電気・ライドスルー・保護の検証はpp.9–11、リスクと校正はp.12、検証範囲を広げる提案はpp.13–15。公式一覧では「Validating High-Power AI Rack Platforms with complex architecture: Lessons from Mt. Diablo 400 System Qualification」として掲載されています。

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