タグ: 高電圧直流

  • デルタ電子が示すSST、高周波変圧器の小型化と絶縁・放熱の課題

    デルタ電子が示すSST、高周波変圧器の小型化と絶縁・放熱の課題

    大きな電力を扱う変圧器を小さくできれば、AIデータセンターの電源設備にも余裕が生まれます。ただ、小型化するほど、内部の絶縁を保ち、発生した熱を外へ逃がす設計が重要になります。

    OCP APAC 2026の公開資料で、Delta Electronics(デルタ電子)が取り上げたのが、SST(Solid-State Transformer、ソリッドステート変圧器)です。高周波変圧器とパワー半導体による電力変換を組み合わせ、中圧の交流から直流へ電力を供給する構成を説明しています。部品を小さくする技術と、電源設備として使うための条件を、一緒に見ていきます。[1]

    簡単にまとめると?

    • SSTは半導体の変換回路と高周波変圧器を組み合わせ、磁気部品の小型化を図ります。
    • 小型化には、絶縁を保つ構造と熱を外へ逃がす構造の両立が必要です。
    • 資料の効率比較は特定の構成例で、設備や負荷が違っても同じ効果が出るとは限りません。

    高周波化で磁気部品を小さくする

    一般的な電力用変圧器は、商用周波数の交流を受け、巻線と磁心によって電圧を変えます。SSTでは、その前後に半導体の電力変換回路を置き、変圧器をより高い周波数で動かします。資料は、これによって磁気部品の小型化を進められると説明しています。[1]

    高周波変圧器は、入力側と出力側を電気的に絶縁しながら電力を渡す部分です。変換回路の制御には、電圧や電流を調整する役割もあります。資料の構成例では、SSTが中圧交流を800 V直流へ変換し、その先の別のDC-DC変換器が、サーバーや半導体に必要な電圧まで下げます。SSTだけでチップの電源電圧まで変換する図ではありません。[1]

    複数の変換モジュールをどう組み合わせるか

    資料は、SSTの代表的な回路構成としてISOP(入力直列・出力並列)と、MMC(モジュラー・マルチレベル・コンバーター)を用いる構成を並べています。ISOPの図では、交流を直流に変える段と、変圧器を含む絶縁型DC-DC段を持ったモジュールが複数並びます。入力を直列につなぎ、出力を並列にまとめる構成です。[1]

    一方、MMC側の図では、交流から共通の中圧直流バスを作り、そこから複数の絶縁型変換回路へ電力を渡しています。資料は、この共通バスを利用した接続や制御の選択肢、変圧器の部分放電に関わるストレスを抑える点を挙げています。その半面、AC-DC段のサブモジュール数が増える課題も示しています。[1]

    両方に共通する課題は、直流部分の電圧を支えるDCリンクコンデンサーが大きくなることです。磁心だけを小さくしても、SST全体が同じ割合で小さくなるとは限りません。変圧器、半導体、コンデンサーを含む構成として考える必要があります。

    密度を上げるほど、絶縁と熱の逃げ道が問われる

    高周波変圧器では、磁心の材料と巻線の作り方が重要です。資料は、PCB(プリント基板)を用いた巻線による高密度化とともに、交流での巻線損失が大電力化の制約になることを示しています。小さく収まる形だけでなく、そこで生じる損失も見なければなりません。[1]

    絶縁には、空間を隔てる空間距離と、絶縁物の表面に沿った沿面距離の確保が関わります。資料は、これらの要求を満たし、絶縁の一部で局所的に生じる「部分放電」を起こさない設計を課題に挙げています。部品を近づけて詰め込むだけでは、小型化は成立しません。[1]

    同じページでは、電力密度を高めると放熱に使える表面積が小さくなり、熱設計が難しくなる関係も示しています。高い変換効率と、扱いやすい温度は別の確認項目です。絶縁を保つ構造と、熱を外へ運ぶ構造を両立させるところに、SSTの設計の難しさがあります。[1]

    故障時の保護と、負荷変動への対応を分けて考える

    半導体で電流を制御できることは、故障時の設計にも関わります。資料は、直流バスの短絡に対してSSTが電流を制御し、遮断器を動作させる構成を説明しています。また、ラックへ向かう分岐回路には、半導体遮断器による素早い保護を挙げています。SSTの制御と、故障箇所を切り離す遮断器を組み合わせる考え方です。[1]

    通常運転中の急な負荷変動には、別の役割分担があります。資料のESS(エネルギー貯蔵システム)との協調例では、蓄電側が変動分を支え、SSTは電力系統から受け取る電力を滑らかにする役割を担います。[1]

    掲載された400 Vバスの波形例では、キャパシタートレーを停止した後にバス電圧の揺れが大きくなり、資料はSSTの応答の遅さと結び付けています。これは、その構成での協調の必要性を示す例です。あらゆるSSTの応答性能や、800 V設備での挙動をそのまま示すものではありません。[1]

    性能の数値は、構成例と開発目標を分けて読む

    資料は、1.2 MWのSSTを用いる構成例について、従来の変圧器とAC-DC変換器の組み合わせと比較しています。次の値は、この資料に掲載された比較です。[1]

    比較項目変圧器+AC-DC変換器SST
    重量5.8 t4 t
    設置面積4.96 m²3.39 m²
    50%負荷時の効率95.5%97.5%
    出典:資料[1]18ページ。1.2 MWの構成例。効率の差は2パーセントポイントです。

    このページには、入力電圧や冷却条件など、比較を再現するための条件がそろっていません。表の効率は比較対象の電力変換部分の値で、電力系統からチップまでの総合効率とも異なります。設備や負荷率が変わっても同じ効果が出る、と読むことはできません。

    さらに資料は、電力密度400〜1,000 kW/m³、効率98.5%超を、今後の目標として掲げています。先ほどの構成例の値と混ぜず、高い電圧に対応するSiC(炭化ケイ素)半導体、熱を伝えやすい絶縁材料、損失の小さい磁性材料、変換回路と制御の改良に結び付けて示しています。[1]

    SSTを見るときは、小さな高周波変圧器だけでなく、周囲のコンデンサーや絶縁構造、熱の逃げ道、保護と蓄電の分担まで追うと、設備としての姿が見えてきます。小型化や効率の数値を、その成立条件と一緒に読むことが大切です。

    デルタ電子の会社全体については、cyclewaveの企業記事で紹介しています。

    参考資料

    1. Delta Electronics, Enabling Scalable AI Data Centers Through Solid-State Transformer Technology(OCP APAC 2026公開スライド)。構成と高周波化:4〜5・9・11ページ、磁気部品と絶縁・放熱:12〜13ページ、保護と蓄電協調:15〜17ページ、構成例の比較と目標:18〜19ページ。
    2. OCP APAC 2026公式プログラム・公開資料一覧。本記事は掲載PDFに基づきます。PDFの作成・更新日は2026年9月2日(UTC)で、8月11〜12日の会場投影版と同一かは確認できていません。
  • MicrosoftのDiablo 400検証案、800V高電圧直流の負荷変動と給電切り替えを確かめる

    MicrosoftのDiablo 400検証案、800V高電圧直流の負荷変動と給電切り替えを確かめる

    AIラックの電源は、負荷が短時間で変わるときにも、交流入力が失われるときにも、必要な電力を届け続けることが求められます。複数の電源装置や蓄電装置を組み合わせるほど、装置同士が切り替わる瞬間や、故障から復帰する順序までが大切になります。

    2026年8月のOCP APAC SummitでMicrosoftが示したのは、高電圧直流(HVDC)を使うDiablo 400のシステム検証です。個々の部品から一つのラック、さらに複数ラックへと範囲を広げ、負荷変動・電源喪失・保護動作を確かめる考え方が紹介されています。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • Microsoftは800V級の給電を、部品、単一ラック、複数ラックの順に検証する考え方を示しました。
    • 負荷変動だけでなく、給電の切り替え、故障時の停止と復帰までが検証対象です。
    • 検証の「100%」は試験範囲の目標であり、故障しない確率や達成済みの結果ではありません。

    ±400V/800Vの電源構成を、ITラックと分けて考える

    発表の前提は、電源をITラックから切り離して配置する、±400V/800VのHVDC電源ラックです。目標として挙げられる電力密度は、ITラックあたり約1MW。これは資料が示す設計上の目標値であり、この発表で達成済みの運転性能を示す数値ではありません。[2]

    電源を分けると、電力の変換を担うPSU、蓄電と給電の切り替えに関わるCBU、電力を分配するPDU、電流を流す母線(バスバー)を、ラックをまたぐ一つのシステムとして扱う必要があります。資料は、電気的な乱れがこれらの装置やIT側の負荷へ伝わり得る点を、検証の出発点に置いています。[2]

    L10・L11・L12で、確かめる範囲を広げる

    Microsoftの検証フレームワークは、三つの段階に分かれています。資料中のL10・L11・L12は、今回の検証範囲を区別する呼び方です。[2]

    段階検証する範囲主な対象
    L10構成部品PSU、CBU、PDU、バスバーなどの個別の適合性
    L11単一ラック給電、電源異常時の運転継続、故障の切り離し
    L12複数ラックを含むシステム製品構成や実際のワークロードを踏まえた相互動作

    たとえば、PSU単体が試験に合格していても、それを複数台並べ、別のラックへ給電したときの応答まで同じとは限りません。部品の結果を土台にしながら、配線や蓄電装置、負荷を組み合わせた状態へ確認を進める。その順序が、この三段階の役割です。

    負荷の大きさに加え、変化の速さと繰り返しを試す

    電気的な検証では、入力電源の振る舞い、直流出力の安定性、効率などに加えて、急な負荷変動への応答を調べます。資料に挙がるのは、高い頻度で繰り返す負荷ステップ、大きな過渡変動、電圧のオーバーシュート・アンダーシュートです。目標値から一時的に上へ外れるか、下へ外れるかを含め、変化の最中を見ます。[2]

    ここで気を付けたいのが、複数の電源モジュールの電流分担(Ishare)です。発表は、急激な負荷変化の初期には制御の応答が追い付かず、分担が崩れるリスクを挙げています。試験設備を含む配線の電気的特性も応答へ影響し、負荷を変化させる周波数によっては共振が生じ得る、としています。[2]

    そのため、一定の負荷を一度かけるだけでは見えない振る舞いがあります。負荷の変え方や繰り返しの周波数をそろえ、電気計測とテレメトリーを突き合わせる。テレメトリーは装置から取得する状態情報ですが、資料はその測定誤差を抑えるため、事前の校正も重視しています。[2]

    交流入力の喪失から復帰まで、PSUとCBUの連携を見る

    電源が一時的に乱れたとき、給電を維持して運転を続ける能力はライドスルー(ride-through)と呼ばれます。今回のCBUの検証は、交流入力の喪失、復帰、給電の切り替えを、一連のシナリオとして扱います。[2]

    対象には、蓄電と電力の受け渡し、蓄電状態のバランス、負荷変動の平滑化、PSUとCBUの相互動作が含まれます。蓄電装置があることに加え、電源が失われたときにどう引き継ぎ、戻ったときにどう通常の状態へ移るかを確かめるわけです。資料はこうした検証項目を示していますが、運転を維持できる時間の保証値は示していません。[2]

    保護動作は、止める範囲と復帰の振る舞いまで確認する

    安全性の検証でも、構成部品、ラック、複数ラックという段階を使います。接地、絶縁、保護機能を調べ、故障を模擬的に与える故障注入試験によって、停止と復帰の振る舞いを確認する方針です。装置が残す状態情報やイベントの記録も、想定した応答との照合に使います。[2]

    資料は、高いインピーダンスを使う接地方式や、保護接地(PE)の接続を、複数ラック構成で注意する点に挙げています。ここから読み取れるのは、ラックの内側だけで安全を完結させず、接続先も含めて故障の影響を追う必要があるということです。特定の接地方式を、すべての設備へそのまま適用するための説明ではありません。[2]

    「100%」は、試験で扱う範囲を広げる目標

    発表はシステム統合検証の100%カバレッジを目標に掲げ、標準化された試験、設計固有の条件、実際の使い方を組み合わせています。この100%は、故障が起きない確率や、すでに達成した検証結果を表すものではありません。対象に選んだ構成とシナリオを、どこまで試験で扱うかという計画の話です。[2]

    800Vの電源構成を読み解くときは、容量や変換効率と一緒に、負荷変動、給電の切り替え、故障時の停止と復帰にも目を向ける。Microsoftの発表は、それらを部品からシステムへ順に積み上げて確かめる道筋を示しています。

    Microsoftの事業をもう少し知る

    Azureを含むクラウド、業務ソフト、Windowsなど、Microsoft全体の事業についてはcyclewaveの企業解説にまとめています。

    参考資料

    2026年8月11〜12日開催のOCP APAC Summitの公式掲載資料を使用し、2026年9月28日に保存済みスライドの全16頁を確認しました。検証の対象・方針と、性能の実測結果を分けて記述しています。

    [1]Open Compute Project「2026 OCP APAC Summit」発表一覧

    [2]Microsoft「Validating HVDC AI Rack Platforms with Complex Architecture: Diablo 400 System」公式掲載スライド。電源構成と目標はp.4、検証の段階と計画はpp.5–6、電気・ライドスルー・保護の検証はpp.9–11、リスクと校正はp.12、検証範囲を広げる提案はpp.13–15。公式一覧では「Validating High-Power AI Rack Platforms with complex architecture: Lessons from Mt. Diablo 400 System Qualification」として掲載されています。

  • Advanced EnergyのORv3電源棚、高電圧DCへの対応と故障への備え

    Advanced EnergyのORv3電源棚、高電圧DCへの対応と故障への備え

    AIサーバーが必要とする電力が増えると、電源ユニットを大きくするだけで足りるでしょうか。ラックへ届くまでの電圧、複数のユニットの分担、異常を見つける仕組みも、合わせて考える必要があります。

    2026年8月のOCP Korea Tech Dayで、Advanced EnergyのMelvin Choi氏は、Open Rack V3(ORv3)向けの電源群を紹介しました。従来の約50Vを出す電源棚から、高電圧の直流を受けて50Vへ下げる大容量の棚まで、電気の届け方の変化が見える発表です。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • ORv3電源棚では、ユニットや棚の定格と、予備を含めた使用可能な電力を分けて見ます。
    • 高電圧DC入力で電流を抑える構成でも、絶縁・保護と50Vへの変換を一緒に設計します。
    • 容量を増やすだけでなく、複数の棚の監視や交換のしやすさもラック設計の対象です。

    まず、交流から50Vをつくる棚

    基本となる構成では、施設から来る交流を電源ユニットが50Vの直流に変え、ラック内の機器へ渡します。資料にある3kWのユニットは50V・60Aの出力です。これを六つ収める18kWの棚は、一つを予備にする5+1構成では15kWの供給として示されています。棚の最大値と、故障に備えたときに使える値は同じではありません。[2]

    電源ユニットの効率にも、読むときの条件があります。資料の測定例では、交流入力277Vの3kWユニットはピーク効率97.83%、定格負荷で96.94%。冷却ファンの損失も含めた測定値です。これはそのユニットの、その入力条件での数字であり、ラック全体の効率ではありません。[2]

    高電圧DCを受ける棚へ

    発表の後半には、高電圧の直流を受け、低電圧の直流へ変える棚が出てきます。示された構成例には100kWと160kWの棚があり、入力の接続数や出力コネクタが異なります。いずれも18kWの電源ユニットを使う設計として示され、接続部や外部バスバーの温度を監視する仕組みも載っています。[2]

    高い電圧でラックの近くまで運ぶと、同じ電力を低い電圧で運ぶ場合より、配線を流れる電流を抑えられます。ただし、実際の配電では入力の形式、絶縁・保護、コネクタ、そして50Vへ下げる変換器を一続きで設計します。資料の配線図にある「+400V・-400V」は、この発表の構成例です。すべてのORv3電源がこの入力を使うわけではありません。[2]

    電源の状態を、棚をまたいで見る

    電源が一台から複数の棚へ増えると、どのユニットが働き、どこに異常があるかを知ることも大切です。発表は、棚をまたいで状態を集める監視モジュールと、Ethernet経由で診断情報を伝える管理モジュールを挙げています。電源の容量だけでなく、予備の持ち方と、交換・監視のしやすさまで含めてラックを考えるためです。[2]

    Advanced Energyの資料は、50Vの電源棚から高電圧DC入力の棚へと、製品例を段階的に並べています。数字を比べるときは、ユニットの定格、棚の定格、予備を含めた使用可能な電力を分けて読む。その区別が、ラック全体の設計を理解する近道になります。

    発表したAdvanced Energyの事業全体は、cyclewaveの企業記事にまとめています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。本文は公開スライドをもとにしています。100kW・160kWはAdvanced Energyが示した製品構成例です。資料の別ページには11ユニット構成を200kWと記した箇所もあるため、本稿ではその数字を採用していません。

    1. Open Compute Project「2026 OCP Korea Tech Day」発表一覧 — 「ORV3 and HVDC Power Systems for AI datacenter」、Melvin Choi(Advanced Energy)。
    2. 同発表の公式掲載スライド — 全17ページを確認。本文は主に3・6〜8・16ページ。
  • LITEONの電源ラック案、パワーシェルフをITラックから分ける

    LITEONの電源ラック案、パワーシェルフをITラックから分ける

    AIサーバーを収めるラックに、電源装置も一緒に積み続ける。消費電力が増えても、しばらくはそれで対応できます。ただ、計算用の機器や冷却の部品も増えると、ラックの中で場所を取り合うようになります。

    2026年8月のOCP APAC Summitで、LITEONのRafael Lee氏が示したのは、電源を別の「Power Rack」にまとめ、計算用の「IT Rack」へ電気を渡す構成です。電圧を上げる話だけでなく、どこで電気を変換し、どこに蓄電の備えを置くかを一緒に考える発表でした。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • LITEONの案は、電源棚をITラックからPower Rackへ移し、高電圧で運んでサーバーの近くで降圧する構成です。
    • ITラックの空間を確保しやすくなる一方、配線と追加の変換器の損失を合わせて評価します。
    • 容量やバックアップの有無は発表の構成例で、施設の条件や停電・交換時の動きに合わせて選びます。

    電源を置く場所が変わる

    従来の構成例では、ITラックの中にパワーシェルフを収め、交流を約50Vの直流に変えていました。パワーシェルフは複数の電源ユニットを並べる棚です。サーバーが使う電気をまとめてつくり、部品の交換や予備の確保もここで行います。

    LITEONの次の構成例では、その棚をPower Rack側へ移します。Power Rackで交流を800Vの直流に変えてITラックへ送り、ITラック側で50Vへ下げる流れです。低い電圧のまま大きな電力を遠くへ運ぶと、電流が増え、配線や接続部の負担が大きくなります。そこで、ラック間は高い電圧で運び、サーバーの近くで必要な電圧へ変えます。[2]

    この配置なら、ITラックには計算機器や冷却のための場所を残しやすくなります。一方で、変換器が一段増えるため、配線の損失だけでなく変換器の損失も合わせて見る必要があります。「800Vだから全体が必ず高効率」とは言えません。

    110kWの棚を六つ並べた構成例

    発表に載るPower Rackの例は、110kWのパワーシェルフを六つ置く660kW構成です。バッテリーバックアップユニット(BBU)を組み込む例と、組み込まない例が並んでいます。どちらもPower Rackから800Vの直流を送り、ITラック側のDC/DC変換器で50Vに下げます。これはLITEONが示した構成例で、すべてのOCPラックが同じ容量や配線になるという意味ではありません。[2]

    BBUは、施設側からの給電が途切れたときに短時間の電力を支えるための部品です。組み込むかどうかで、Power Rack内の機器の配置、保守する部品、停電時に何を守るかが変わります。必要なバックアップ時間や施設側の無停電電源との役割分担は、この図だけでは決められません。

    大きなラックほど、運用も一緒に設計する

    電源棚の数が増えれば、一つのユニットを止めて交換する場面も増えます。どの棚を予備として持つか、電源の異常をどこで検知するか。ラックへ電気を届ける方法は、運用の仕方ともつながっています。

    LITEONは、パワーシェルフに加えてBBU、電圧を下げるモジュール、冷却設備までを発表の中で並べています。これらは同社の提案する製品群であり、導入先ごとに必要な組み合わせは違います。製品を比べるときは、棚単体のkWだけでなく、Power RackからITラックまでの電気の通り道と、停電・交換時の動きを確かめたいところです。[2]

    LITEONの事業全体は、cyclewaveの企業記事にまとめています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。本文は公開スライドをもとにしています。講演動画の発言や質疑は確認対象に含めていません。容量・配置はLITEONの発表例で、OCP共通の仕様値としては扱いません。

    1. Open Compute Project「2026 OCP APAC Summit」発表一覧 — 「Powering AI Infrastructure: From Power Shelf to Rack-Level Power Architecture」、Rafael Lee(LITEON)。
    2. 同発表の公式掲載スライド — 全11ページを確認。本文は主に6〜10ページ。
  • Vertivが示す800V DC、AIサーバーへの給電はどう変わる?

    Vertivが示す800V DC、AIサーバーへの給電はどう変わる?

    AIサーバーを増やすとき、必要になるのは計算用のチップや冷却装置だけではありません。電気を届ける配線と電源装置にも、もう少し余裕がほしくなります。

    そこで進んでいるのが、ラックへ電気を送る直流の電圧を高める設計です。2026年8月、台北で開かれたOCP APAC Summitで、VertivのHenrik Nilén氏は800V DCへの移行を、電源の置き場所や変換の仕方まで含めて紹介しました。[1・2]

    この発表を読むと、電圧だけでなく、どこで変換し、どの区間を高い電圧のまま運ぶかが大切だと分かります。

    簡単にまとめると?

    • 同じ電力なら電圧を上げるほど電流を減らせますが、配線の太さを同じ比率で減らせるわけではありません。
    • 800Vをチップへ直接加えず、ラックやサーバー側のDC/DC変換で必要な低電圧へ下げます。
    • 全体の効率は電圧だけでは決まらず、変換段と、どこからどこまでを測るかが重要です。

    電圧を上げると、配線にはどんな余裕が生まれる?

    直流の電力は、電圧と電流を掛けた値です。同じ電力を届けるなら、電圧を上げるほど必要な電流を減らせます。

    たとえば300kWを送る場合、変換損失をいったん除いて計算すると、50Vでは6,000A、800Vでは375Aになります。電圧が16倍になるので、電流は16分の1です。

    300kWを送るときの電圧単純計算した合計電流
    50V DC6,000A
    800V DC375A

    これは電圧と電流の関係をつかむための計算です。実機では複数の経路に分けて配電するため、この値がそのままケーブル1本を流れるわけではありません。

    配線の抵抗が同じなら、そこで熱になる電力は電流の2乗に比例します。電流を減らせると、発熱や電圧降下を抑えやすくなり、太い銅の導体をどれだけ使うかにも選択の余地が生まれます。高電圧の直流配電が、ラック内のスペースや銅の使用量と一緒に議論される理由です。[3]

    もちろん、ケーブルの太さを16分の1にできる、という意味ではありません。温度、接続部、保護装置、絶縁などの条件も満たす必要があります。

    電源をラックの外へ移す、その先に800Vがある

    もう一つ変わるのが、電源装置の置き場所です。

    発表では、サーバーと同じラックに置いていた電源や蓄電装置を、隣の専用ラックへ移す構成が示されています。この隣接する電源ラックが「サイドカー」です。まず50Vのまま電源を外へ出し、その後、ラック間の配電を800Vへ変える流れとして描かれています。[2]

    ラックの中を計算用の機器に使いやすくすることと、ラックへ電気を運びやすくすること。二つの課題を、配置と電圧の両方から解いていくわけです。

    ただし、800Vをそのままチップへ加えるわけではありません。ラックやサーバー側で、直流の電圧を変えるDC/DC変換を行い、チップが使う低い電圧へ段階的に下げます。800V対応サーバーになっても、この役割は残ります。[3]

    同じ「800V」でも、接地の仕方が違う

    資料では、0〜800V DCと±400V DCが分けて扱われています。±400Vは、接地した中点に対して片側がプラス400V、もう片側がマイナス400Vとなる構成です。両端の差は800Vでも、負極を接地する0〜800Vの構成とは、接地に対する電圧が異なります。[2]

    受け取る機器から見れば、端子間の電圧だけが合っていればよい、とは限りません。どこを接地の基準にするのかによって、絶縁や保護の設計も変わります。「800V対応」という表示を読むときは、その電源方式までそろえて見る必要があります。

    効率は「800Vだから高い」とは決められない

    発表の比較例には、少し立ち止まって見たい数字があります。

    交流の配電幹線から受電する構成で、ラック内に50V電源と蓄電装置を置く例の電力供給経路の効率は約96.5%。一方、800Vのサイドカーから送り、ITラック側にDC/DC変換器を置く例は約96%です。800Vを受け取るサーバーまで含めた構成では、96.5%超が示されています。[2]

    いずれも発表中の構成例の値で、負荷率や細かな測定条件はスライドに示されていません。それでも、電圧を上げるだけで全体の効率が決まらないことは読み取れます。

    配線で減らせる損失があっても、途中で電圧を変える装置にも損失はあります。電源単体の効率、ラックへ届くまでの効率、チップが使える電圧まで含めた効率は、同じ指標ではありません。

    新しい構成を比べるときには、「何Vか」に続けて、どこからどこまでを測り、間にどんな変換を挟んでいるかを見る。そうすると、数字の意味がずっとつかみやすくなります。

    電気の通り道を、ラック全体から見直す

    800V化で得たいのは、大きな電力を無理なく届けるための余裕です。電流を減らし、電源の置き場所を変え、必要な変換を整理する。その組み合わせで、サーバーを収める場所と電気の通り道を整えていきます。

    今回の発表から見えてくるのは、電源装置だけを高性能にする発想から、ラックへ届くまでの仕組みをまとめて考える設計への広がりです。配線、接地、変換段、効率の測定範囲を一緒に眺めると、800Vという数字の先にある工夫が見えてきます。

    発表したVertivの事業全体は、cyclewaveの企業記事にまとめています。

    参考資料

    2026年9月22日確認。発表の解説は公開スライドをもとにしています。動画内の発言や質疑応答は、本記事の根拠には含めていません。

    1. Open Compute Project「2026 OCP APAC Summit」発表一覧 — 「800V DC Power Trends」、Henrik Nilén(Vertiv)。
    2. Henrik Nilén「800V DC Power Trends」公式掲載スライド — pp.7–9。接地方式、配置の変化、電力供給経路の効率。
    3. NVIDIA Technical Blog「NVIDIA 800 VDC Architecture Will Power the Next Generation of AI Factories」 — 2025年5月20日。高電圧配電とラック内DC/DC変換の背景説明に使用。