AIサーバーをラックに収めるには、箱の大きさが合うだけでは足りません。機器へ電気を届け、発生した熱を運び出し、交換時には決まった位置へ確実に戻せる必要があります。NVIDIAがOCPへ提供した「MGX Accelerated Computing Rack and Trays Specification」の1.2.0版は、この給電・液冷・取り付けを、ラックと機器の間でそろえるための設計仕様です。
簡単にまとめると?
- MGX 1.2は、機器を載せるトレーとラックの間で、給電・液冷・固定の接続位置や構造を定めます。
- 大電流に対応するため、電気の通り道であるバスバーにも液冷を組み込みます。最大5000Aには温度や設置高度などの条件があります。
- 旧MGX 1.1とは完全な互換性がなく、電源装置や冷却水の供給装置、機器同士の通信までを一式保証する仕様ではありません。
機器を交換するとき、電気と冷却の位置も合うようにする
ラックは、サーバーなどを積み重ねて設置する骨組みです。MGXの仕様では、その中へ出し入れする計算機器やスイッチのトレーについて、外形やスライドレール、接続部の位置などを定めています。異なる機器でも接続の基準を共有できれば、ラック側の設計を毎回作り直す範囲を減らせます。
ここで使うのが、機器を奥へ差し込む動作に合わせて接続する「ブラインドメイト」です。裏側の接続部を一つずつ手でつなぐ代わりに、トレーの移動と接続を組み合わせます。ただし、電気の接点も液体の継ぎ手も、位置がずれたまま押し込めばよいわけではありません。仕様には、位置合わせを助ける構造や、接続部が少し動いてずれを受け入れるフロート機構、トレーを固定する仕組みが含まれます。
例えば、計算トレーを交換する場面では、外形だけでなく、給電の接点と液冷の継ぎ手がラック側の相手に合うことが必要です。MGXが共通化しようとしているのは、このような「機器がラックへ収まるときの接続条件」です。差し込めることと、その機器を含むシステム全体が動くことは、確認する範囲が異なります。
大電流を運ぶバスバー自体も液体で冷やす
バスバーは、多くの電流をまとめて運ぶ金属の導体です。MGX 1.2では、ラック内のバスバーを公称48Vの直流で使い、電圧範囲を40〜59.5V、対応電流を最大5000Aとしています。既存のOpen Rack V3(ORV3)のバスバーと幅をそろえながら、奥行きを増やし、液冷に対応させる構造です。
電流が通る導体にも抵抗があり、電気の一部が熱になります。AI機器へ多くの電力を届けるには、半導体だけでなく、その手前の給電経路が熱くなりすぎないことも重要です。導体を大きくする工夫と、熱を液体へ逃がす工夫を組み合わせることで、限られたラック内に大電流の通り道を設けます。MGXでは給電と冷却を同じラック設計の中で扱う理由が、ここにあります。
5000Aという値には条件があります。仕様の電気要件は、周囲温度40℃、標高3050m、周囲の空気が自然対流する条件で、触れられる部分の温度に関する安全要件と、IT機器側の接触部品であるバスバークリップの温度定格を満たすことを求めています。周囲空気の条件を示しているのであって、液冷を使わなくてよいという意味ではありません。
そのため、最大電流の数値だけを見て、どのラックでも同じ電力を供給できるとは判断できません。実際には電源装置、接触部品、冷却液の温度や流量などを合わせて確認します。この仕様の数値は設計要件であり、特定のデータセンターで測定された運転実績ではありません。
共通設計が決めるところ、製品ごとに確かめるところ
MGX 1.2の範囲を整理すると、部品選びや比較で何を見るべきかが分かります。次の表は仕様の第3.1節・第4節・第6節をもとに整理したものです。
| 対象 | 仕様で定めること | 別に確認すること |
|---|---|---|
| トレーの取り付け | 外形、レール、位置合わせ、固定の構造 | 採用する機器の版と実装、ラック側との適合 |
| 給電と液冷の接続 | バスバーの設計、継ぎ手の位置や取り付け構造など | 電源装置と冷却液の供給条件、接点の温度定格 |
| トレー同士の通信 | 接続用の空間や取り付け位置 | 電気・機械的な接続方式の詳細と、機器同士の動作 |
特に、電源をまとめたパワーシェルフ、ラック上部のネットワーク機器や管理用スイッチ、冷却液を供給・調整するCDU、信号・電源ケーブルの設計は、この仕様の範囲外です。通信のための場所が用意されていても、その場所に載る接続方式まで一つに決められているわけではありません。
また、仕様書はMGX 1.1をもとにした設計である一方、完全な互換性はないと明記しています。「MGX対応」という名称だけで既存ラックへ交換部品を選ぶのではなく、1.2.0などの版、給電・液冷・取り付けの各条件を照合する必要があります。共通化は比較の基準を作りますが、版の違いや実装の違いをなくすものではありません。
今回確認したのは、2026年10月6日付の1.2.0仕様です。AIラックの機器を選ぶときには、計算性能に加えて、何を共通の接続として利用でき、どこから先を組み合わせて検証するのかを見ると、導入や交換に必要な作業を具体的に捉えられます。
NVIDIAの事業と製品群の位置づけは、CyclewaveのNVIDIA企業ガイドでも紹介しています。
出典
- NVIDIA/Open Compute Project「MGX Accelerated Computing Rack and Trays Specification 1.2.0」(2026年10月6日)。第3.1節、第4節、第6節、第7節を参照。2026年10月26日確認。
