Q-STARとVTTが量子技術で協力、研究と製造をつなぐ合意の範囲

淡い緑と桃色の段状の台を、小さな白い板がつなぐ抽象アート。異なる研究・製造の力を結びつける協力を表す。

量子技術を製品にするには、優れた量子ビットに加えて、それを作り、周辺部品と組み合わせ、動作を確かめる技術が必要です。そうした仕事を担う企業や研究機関を、国を越えて結びつける動きが進んでいます。

日本の産業団体Q-STARと、フィンランドの研究機関VTTは、2026年10月7日に協力の覚書、MoUを締結しました。VTTは10月19日にこの合意を公表しています。両国の量子技術に関わる組織が情報を共有し、協力を進めるための枠組みです。[1、2]

簡単にまとめると?

  • Q-STARとVTTの合意は、企業・研究機関などを結びつけ、量子技術の開発と事業化を進めるためのものです。新しい量子計算機の完成発表ではありません。
  • 背景には、量子チップを作る工程だけでなく、光学部品や配線との接続、評価までを産業として支える課題があります。
  • 公表資料では、個別設備の利用枠や料金、共同事業の開始時期は示されていません。協力の枠組みと、実際に使える設備・サービスを分けて読む必要があります。

二つの組織がつなごうとしているもの

Q-STARは「量子技術による新産業創出協議会」で、企業や研究機関などが参加する日本の産業団体です。一方のVTTは、フィンランドの応用研究を担う研究機関です。VTTの発表では、同機関がフィンランドの量子分野の連携組織InstituteQに属する産業ネットワーク、BusinessQも主導していると説明されています。[1、2]

今回つなぐ対象は、このような企業・研究者のつながりです。量子通信回線を日本とフィンランドの間に敷く、という意味の「接続」ではありません。両者は今後の共同活動を通じ、企業、研究者、投資家、公的機関の関係者が協力する機会を作るとしています。[1、2]

研究成果を持つ側と、製品に必要な部品や工程を持つ側が出会う機会を増やす。技術開発の観点では、そのような役割を期待する合意と読むことができます。ただし、公表された発表文は協力の方向を示すもので、具体的な共同開発案件がすでに始まったことを列挙するものではありません。

量子チップの周りにも、開発すべき技術がある

この動きの背景を知る手がかりが、VTTが9月14日に公開した、量子技術を支える製造基盤の解説です。そこでは、量子プロセッサーの周囲に、材料、半導体加工、光学技術、検出器、冷却、制御、実装、検査などが必要になると説明しています。実装とは、チップや部品を組み合わせ、電気や光をやり取りできる形に仕上げる仕事です。[3]

たとえば、光を使う部品を試作できても、光ファイバーや検出器と接続した状態で必要な性能を保てなければ、装置の中では使いにくくなります。チップ単体の特性と、周辺部品を含めた装置の特性を分けて確かめる必要がある、ということです。これは製品化の課題を説明する例で、今回のMoUで発表された実験結果ではありません。

VTTの解説は、欧州で進む複数の試作・製造基盤も紹介しています。VTTが調整役を担うSUPREMEは超伝導量子技術を対象とし、再現性のある製造工程やチップの集積技術を開発します。P4Qは光を使う量子チップとその組立て、CHAMP-IONは捕獲イオン方式の量子チップの産業化を対象にしています。方式が違えば必要な部品も変わるため、すべてを同じ工程で作る計画ではありません。[3]

共通する問いは、研究室で得られた結果を、繰り返し作り、組み合わせ、評価できる形へどう移すかです。今回の国際連携を考えるときも、量子計算機の完成品だけでなく、その周辺を支える技術に目を向けると、参加する組織の役割が見えやすくなります。

協力合意と、設備を利用できることは別に確かめる

VTTは同じ解説で、欧州の研究基盤を結び、企業や研究者が実験的な製造能力へアクセスできるようにするQu-Pilotにも触れています。自前で設備をすべて整える負担を減らし、試作を進めるための取り組みです。[3]

ただし、Q-STARとVTTのMoUが、そのままQu-Pilotや各製造基盤の利用権を与えると公表されたわけではありません。今回確認した発表文には、設備の利用対象、予約枠、費用、成果物の扱いといった条件は示されていません。欧州側の試作基盤が存在することと、日本側の参加者がどの条件で使えるかは、別の情報です。

技術担当者が今後の共同活動を検討するなら、まず「何を試したいか」を具体化すると判断しやすくなります。たとえば、チップの加工を試すのか、光学部品との接続を評価するのか、低温での動作を確かめたいのか。次に、その工程や測定を受け入れる設備と、試料・データを渡す条件が公表されているかを確認します。

同じ「量子技術の連携」でも、交流の場ができた段階、個別の試作計画が決まった段階、測定結果が出た段階では、判断できることが違います。今回確認できたのは、連携を進める枠組みの合意です。今後は、共同活動の対象や利用条件、具体的な試作・評価の結果が公表されるかを追うことで、合意が技術開発へどうつながったかを確かめられます。

参考資料

  1. Q-STAR — Q-STAR and VTT strengthen quantum technology collaboration between Japan and Finland(覚書締結は2026年10月7日)。
  2. VTT — Q-STAR and VTT strengthen quantum technology collaboration between Japan and Finland(2026年10月19日)。[1]と同じ合意についての当事者発表です。
  3. VTT — Towards Quantum Industry: VTT’s Role in Quantum Enabling Technologies(Sara Pourjamal、2026年9月14日)。製造基盤の背景資料であり、今回の合意に基づく新規事業の一覧ではありません。資料確認:2026年10月27日。