QED-Cが指摘する量子デバイス製造の課題、試作と量産の間に足りない支援

ばらばらの半透明の小石と整列した小石を、珊瑚色の支柱で支えた細い橋がつなぐ、試作から繰り返し製造できる工程への移行を表す抽象画。

量子デバイスの試作品が動いたあと、同じ性能のものを繰り返し作れるようにするには何が必要でしょうか。微細な構造を加工する装置に加えて、工程を調整する技術者、部品をつなぐ実装技術、使用環境で確かめる試験が必要になります。

QED-C(Quantum Economic Development Consortium)が2026年10月に公開した報告書「U.S. Federally Funded Quantum Infrastructure」は、米国の連邦資金で支えられた量子技術の開発設備を、この利用者側の視点から調べています。SRIによる調査が示すのは、設備の一覧が充実していても、企業が必要な工程を使えるとは限らないという課題です。研究用の試作から、安定して製品を作る工程へ進む間に、どんな支援が足りないのかが主題になっています。

簡単にまとめると?

  • QED-Cの新報告書は、米国の量子開発設備について、装置の性能だけでなく、技術支援・契約・納期まで含めた使いやすさを評価しています。
  • 会員調査では、試作品を繰り返し作れる製造工程へ育てる支援と、組立て・先端パッケージングで、満たされていない需要が目立ちました。
  • 設備を選ぶときは、対応する材料や加工に加え、工程を変更できるか、使用温度で試験できるか、結果を次の試作へ戻せるかが判断材料になります。
  • 共通の利用契約や試験条件、柔軟な小ロット製造への投資はQED-Cの提言です。政府の採択や、発行済みの統一規格を示すものではありません。

試作品の成功と、繰り返し作れる工程の間

この報告書の対象は、量子コンピューターだけではありません。量子センサーや量子ネットワーク、その部品を支える製造・試作・評価の施設やプログラムも含みます。施設の調査、訪問、提供者への聞き取りに加え、QED-C会員の137組織に属する307人から回答を集めています。会員の経験を捉えた調査であり、量子産業全体を統計的に代表するものではありません。

調査で満たされていない需要が特に多かったのは、プロセス開発・スケールアップと、組立て・先端パッケージングでした。プロセス開発とは、加工条件を調整し、出来上がる部品のばらつきを減らしていく仕事です。スケールアップでは、作る個数やロットを増やしても、品質を保てるかが問われます。単に、より大きな装置を導入することとは異なります。

一度うまく動いたデバイスも、次の試作では材料や加工のわずかな違いで性能が変わることがあります。製造条件を記録し、測定結果と照らし合わせ、次の加工へ反映する。その繰り返しを支える場所が必要です。報告書は、初期の研究・試作に強い施設と、成熟した工程や一定の生産量を求める商用ファウンドリー(受託製造事業者)の間に、この支援の不足があると指摘しています。

同じ装置でも、利用できる仕事は違う

たとえば、同じ種類の微細加工装置を持つ二つの施設を考えてみます。片方は決められた材料と加工条件で試作するサービスに強く、もう片方は少量の試作を重ねながら、利用者と工程を調整できる施設だとします。これは違いを説明するための仮想例です。

既に設計と加工方法が固まっている部品なら、前者の標準化されたサービスが適しているかもしれません。一方、新しい材料や構造を試したい場合は、条件変更の相談ができることが重要です。装置の型番や加工精度が同じでも、引き受けられる作業と技術者の支援範囲が違えば、開発に使える能力は変わります。

今回の提供者への聞き取りでも、広く一律に設備容量が不足しているという説明ではなく、特定の装置や工程、技術支援・保守・予約を担う人員が、実際に利用できる量を制約していました。施設が掲げる研究目的に合う仕事かどうかも、受入れに関わります。空いている装置があることだけでは、希望する試作を始められるとは判断できません。

利用者側の聞き取りでは、技術的に適合する施設を選んだあと、納期、費用、担当者の支援、知的財産の扱い、契約の進めやすさが比較されていました。高性能な装置を持つ施設でも、次の設計変更に間に合う時期に結果が戻らなければ、開発計画に組み込みにくくなります。

パッケージングと試験を、加工の後回しにしない

先端パッケージングは、できたチップを箱へ収めるだけの工程ではありません。電気や光の入出力をつなぎ、機械的に固定し、必要な温度や周囲の環境に対応させます。報告書が挙げる作業には、チップの接合、光ファイバーの取付け、配線接続、異なる材料や部品の集積、熱管理などがあります。

量子技術では、こうした接続のあとにも、光の損失や電気的な応答、熱の伝わり方など、デバイスに必要な性質を保つことが求められます。加工だけを別の施設へ頼み、実装や試験を後から考えると、それぞれの工程の条件が合わない可能性があります。

仮に、低温環境で使う部品を開発するなら、室温の特性表だけでは使用時の性能を確かめきれません。どの温度で、どの接続状態で測定したかを、試験結果と一緒に受け取る必要があります。報告書の聞き取りでも、供給者の仕様が量子技術の使用条件を十分に含まないことや、測定条件が違って結果を比較しにくいことが、利用企業による再試験の理由として挙げられています。

施設へ相談するときには、「何を作れるか」に加えて、「接続した状態で何を測れるか」「条件を変えた次の試作へ結果を返せるか」までを一続きにすると、必要な支援が具体的になります。すべてを一か所で済ませる必要はありませんが、工程をまたいで引き継ぐ条件と記録は欠かせません。

新しい設備への投資と、使える形にする投資

QED-Cは、この調査を基に、施設一覧の整備、利用契約の共通化、柔軟な製造・プロセス開発能力の拡充、試験方法や結果の記録の整合、政府需要を通じた初期市場の支援を提言しています。いずれも報告書からの提案であり、資金配分の決定や、共通規格の発行を報告したものではありません。

とりわけ製造支援では、すぐに大量生産へ進むことよりも、小ロットを繰り返し、加工条件を変更し、歩留まり(作ったもののうち要求を満たす割合)を改善できる中間段階の役割を重視しています。既存施設の拡充を検討する際も、装置だけでなく、技術者、保守、材料、運転時間、利用者支援へ資金を振り向けるよう求めています。

試作を外部へ依頼する企業にとって、この報告書は施設の優劣を決めるランキングではありません。使いたい材料と工程、変更できる条件、担当者の支援、試験環境、納期と契約を一緒に比べるための視点を示しています。量子技術を研究から製品へ進めるとき、設備の数と同じように、試作の結果を次の改善へつなげられる運営が重要になります。

出典

  1. Quantum Economic Development Consortium / SRI, U.S. Federally Funded Quantum Infrastructure(2026年10月、公式概要)。
  2. 同報告書 全文PDF。印刷ページ15〜21(会員調査・開発工程)、29〜35(利用条件と提言)、37(調査方法)。45頁のPDFではそれぞれ20〜26、34〜40、42頁に相当します。