QuantinuumのHeliosで量子誤り訂正が前進、99.9995%を測った条件

大きさの異なる三つの三角形の網が、それぞれ中央の柔らかな光を包む淡色の抽象画。

量子コンピューターで長い計算を行うには、途中で生じる誤りを繰り返し見つけ、情報を保つ必要があります。ただし、そのために量子ビットや操作を増やせば、故障する機会も増えます。保護を厚くしたとき、本当に誤りが減るのか。これが量子誤り訂正の重要な試験です。

Quantinuumは2026年10月19日、イオントラップ型量子計算機Heliosで、カラーコードという誤り訂正符号の保護を強めるほど、論理的な誤りが減ったと発表しました。原論文は10月16日提出のプレプリントです。発表にある99.9995%という論理メモリ忠実度は、誤り検査1周期あたりの推定値であり、任意の計算全体がその確率で成功するという意味ではありません。

簡単にまとめると?

  • Heliosの実験では、カラーコードの符号距離を3、5、7と大きくすると、保存した量子情報の論理誤り率が下がりました。
  • 最も小さい値は、20周期の検査を行う試行29,000回で3回の失敗を観測し、1周期あたりへ換算した約100万分の5です。
  • 情報を保つメモリ試験、論理ゲートの試験、誤りを読み解く処理の速さは、それぞれ別の条件で評価されています。実用的な計算を一通り完遂した実証ではありません。

量子ビットを増やす効果が、追加の誤りを上回る

量子誤り訂正では、複数の物理量子ビットにまたがって一つの論理量子ビットを表します。量子状態そのものを直接読み出す代わりに、複数の量子ビットの関係を検査し、誤りの手がかりとなるシンドロームを得ます。検査結果から起きた誤りを推定する処理が、デコードです。

今回使われた三角形のカラーコードは、符号距離dを大きくすると、より多くの誤りに耐えられる構成です。距離3、5、7のメモリ実験には、情報を持つ量子ビットと検査用を合わせて、論理量子ビット一つにつき13、37、73個の物理量子ビットを使いました。

ただ増やすだけで有利になるわけではありません。追加した検査自体にも誤りがあるため、物理的な操作の精度が足りなければ、かえって結果を悪くします。実験では、Tesseractというデコーダーを使ったとき、1周期あたりの論理誤り率が、距離3で約0.055%、距離5で約0.0038%、距離7で約0.0005%へ下がりました。三つの測定点を当てはめた抑制係数Λは12で、距離を2増やすごとに誤りが約12分の1になる傾向を示しています。

カラーコードの符号距離3、5、7に対する1周期あたりの論理誤り率。Helios-1の実測点は距離が増すほど下がり、距離7の点には大きな不確かさの幅がある。縦軸は対数目盛。
原論文の図1(c)。緑の四角がHelios-1の実測、金色の丸がシミュレーションです。縦軸は誤り率の対数目盛で、同じ縦幅が同じ比率を表します。Ali Lavasani et al., Quantum error correction well below the color code threshold, arXiv:2610.24077v1, Fig. 1(c), CC BY 4.0。図1からパネル(c)を切り出し、説明を日本語で付記。

「100万分の5」は、どのように求めたのか

メモリ試験では、三つのパウリ基底に対応する六つの量子状態から一つを用意し、シンドロームの検査を20周期繰り返した後、保存した論理状態を読み出しました。距離7では、各基底を合わせた29,000回の試行のうち、Tesseractで読み解いた結果に3回の論理的な失敗がありました。

論文は、この試行全体の失敗割合を20.5で割り、1周期あたりの誤り率を近似しています。20に0.5を加えるのは、初期状態を用意する誤りを検査の半周期分として扱うためです。計算すると、(3 ÷ 29,000) ÷ 20.5 ≈ 5.0 × 10−6となります。20周期ずつの試行を集めた推定なので、100万周期を途切れずに実行し、最後まで正しく保てたという実験ではありません。

少数の失敗から求めた値には幅があります。距離7の論理誤り率は、1σに相当する約68%のWilson信頼区間で、100万分の3〜9と報告されています。中心値の桁数だけを見て、性能が細かく確定したと受け取らないことも大切です。抑制係数Λにも10〜15の幅があり、測定した距離より大きな符号で同じ改善が続くかは、今後の確認事項です。

誤りの連鎖を抑えた二つの対策

Heliosが使うバリウムイオンには、量子ビットの0と1に使う二つの状態のほかにも、移ってしまう可能性のある状態があります。この計算に使う範囲からの逸脱を、リーケージと呼びます。逸脱したイオンをそのまま次の操作へ使うと、ほかの量子ビットにも誤りを広げることがあります。

研究チームは、光でイオンを計算に使う状態の範囲へ戻す処理と、情報を担う役割を検査用量子ビットへ順次移し、役割を終えた側を測定・初期化する回路を組み合わせました。前者が装置側、後者が回路側の対策です。ここで状態の範囲へ戻すことは、失われた量子情報をそのまま取り戻すことではありません。長く残ってほかへ波及する誤りを抑え、符号で対処しやすくする役割があります。

メモリから、実際の計算へ残る段階

情報を保存できても、計算の操作を加えた際の精度は別に調べる必要があります。論文は二つの論理量子ビットにCliffordゲートという一群の操作をランダムに重ね、最後に元へ戻す操作を加える試験も行いました。距離5では、二量子ビットCliffordゲート一つあたりの論理誤り率が約7 × 10−5となりました。この値を、メモリ検査1周期あたりの5 × 10−6と同じ単位の性能として並べることはできません。

ゲート試験の符号距離は3と5です。距離7で二つの符号ブロックを使うにはHelios-1の量子ビット数が足りず、実験対象に含まれていません。また、この研究のデコードはすべて実験後に行われました。シンドロームを1周期ずつ与えて処理時間を測り、実時間処理に間に合う可能性を示していますが、今回の量子回路を動かしながらデコードして制御した実証とは分ける必要があります。

さらに、汎用的な計算にはCliffordゲート以外の操作も必要です。論文は、Tゲートに必要となるマジック状態の準備と、実時間デコードを組み込んだ回路を次の課題に挙げています。今回の前進は、保護を厚くするほど誤りが減ることを、メモリと一部の論理操作で確かめた点にあります。今後の発表を読む際は、誤り率の分母、物理量子ビット数、デコードの実行時点、実証された操作の範囲をそろえると、計算機として何が進んだのかを捉えやすくなります。

Heliosを開発する企業の背景は、CyclewaveのQuantinuumの企業解説で紹介しています。量子計算の技術と会社全体の事業をつなげて読むための案内です。

出典