COMPASSの地磁気記録約140万枚、画像を探し、並べて読む仕組み

巻いたフィルムの先に淡い色の資料カードと丸いレンズが並ぶ抽象画

昔の磁気嵐を調べようとしても、その日にどこで何が観測されたかを、すぐに数値表で取り出せるとは限りません。紙やマイクロフィルムに残った線を読み直す必要がある場合があります。京都大学、名古屋市立大学、名古屋大学などの研究グループは2026年10月30日、そうした地磁気の記録約140万枚を扱うポータル「COMPASS」を発表しました。システムを説明する論文は9月11日に公開されています。

簡単にまとめると?

  • 世界121か所の観測所に由来する、100年以上にわたる地磁気などの記録画像を、観測所や年から探せます。約140万枚は画像の数で、独立した磁気嵐の件数ではありません。
  • IIIFという画像公開の共通仕様を使い、高解像度で拡大したり、別の観測所の記録を並べたりできます。
  • 公開されたのは原記録を読むための基盤です。画像の線をすべて数値へ変換したデータベースや、磁気嵐の予測精度を実証したシステムとは区別します。

紙に残る線が、今も観測の一次資料になる

地球の磁場は時間とともに変わります。古い観測装置では、磁石に付けた鏡で光を反射させ、ゆっくり回るドラムの印画紙に光の位置を焼き付けていました。磁石の向きの変化が線として残り、地磁気の時間変化を読む記録、マグネトグラムになります。

保存のためにマイクロフィルムへ複写された資料が多く、COMPASSの画像も、そのフィルムをデジタル化したものが中心です。発表では41か国・121観測所の記録を含み、最も古いものは1844年のヘルシンキの手書き観測表までさかのぼるとしています。すべての観測所に同じ期間の連続記録がそろっているという意味ではありません。

画像には、読み取った数値だけでは失われる情報もあります。観測者の書き込み、基準線、目盛り、記録線の太さや薄さです。後から数値化に疑問が生じたとき、元の画像へ戻って確認できること自体が研究を支えます。

画像を公開するだけでなく、見つけて比較できるようにする

従来の公開サービスでは、一部の画像が階調を減らした形で提供され、検索や比較にも制約がありました。今回の論文によると、約140万枚のうち画像数で約37%が新規公開分です。同じ紙の記録を濃淡などの条件を変えて複数回スキャンしたものもあるため、それらを同じ記録としてまとめると、新規公開分は記録数の約20%になります。この二つの割合は、数えている単位が異なります。

COMPASSは、図書館や美術館などで使われてきたIIIF、International Image Interoperability Frameworkを採用しています。画像の受け渡し方と、画像をどの順番でどの説明とともに見せるかを共通化する仕組みです。独自の画像フォルダの並べ方を利用者が読み解く負担を減らせます。

その役割は大きく二つに分かれます。Image APIは、画像の領域や大きさを指定して表示用の画像を受け取る窓口です。画面で必要な部分を読み込むので、大きな原画像を毎回一枚丸ごと開かなくても拡大できます。Presentation APIは、画像の順番や観測所などの説明を、マニフェストと呼ぶJSON形式の文書で渡します。マニフェストは画像の案内書に当たり、磁場の数値時系列そのものではありません。

実装では、観測所、データの種類、年という階層をたどって資料へ進みます。閲覧にはMiradorというソフトウェアを使い、複数の画像を一つの作業画面に並べられます。並列表示は閲覧ソフトの機能で、その材料となる画像と説明を共通の形式で渡すのがIIIFの役割です。

一つの磁気嵐を、異なる地点から読み直す

論文は、1959年7月15日の磁気嵐を調べる例を示しています。アルジェリアのタマンラセットと南極のモーソンの記録を同じ画面に置き、異なる場所での変化を比較します。論文の例では、対象の観測記録は画像としては存在していても、数値時系列への変換が済んでいません。

まず観測所と年を指定し、該当する画像群を開く。その中から日付を確かめて対象の紙面を選び、別の観測所の画像と並べる、という流れです。現時点でも画像を選んで比較する判断は利用者が担います。論文では、個々の紙面の日付による索引付けも作業中とされているため、日付検索だけで全資料を漏れなく拾えるとは限りません。

画像を見つけられた後にも、読むための条件確認が必要です。たとえば記録線の1 mmがどれだけの磁場変化に対応するかは、装置の感度によって変わります。WDC京都の説明では、感度の値が月初の記録や別紙に記載される場合があります。時間の目印、成分の種類、フィルム化で生じたゆがみなども、線の位置を数値へ移す際の確認点です。

使う段階 分かること・必要な確認
資料を探す 観測所・種類・年から所在を絞る。欠けた期間や、日付の索引がまだ付いていない画像に注意する。
画像を並べて見る 線の形や同時期の変化を比較する。時刻、磁場の成分、基準線をそろえて読む。
数値として解析する 線の位置を読み、感度や時刻目盛りを使って変換する。画像公開だけで完了する工程ではない。
結果を確かめ直す 元画像と注記へ戻り、抽出した数値の誤りや不明点を検証する。

表示用の画像と、元のスキャンを使い分ける

滑らかな拡大表示のため、システムは複数の解像度を持つタイル状のTIFFを作り、容量を抑えるJPEG圧縮も使っています。一方、現在のポータルは、保存された元のスキャン画像を再圧縮せずに取得するダウンロード機能も案内しています。画面で場所を探す用途と、原画像に戻って細部を確かめる用途を分けられます。

データの利用条件も確認が必要です。ポータルはCC BY-NC 4.0を掲げ、利用時には資料提供元とWDC京都への謝辞および論文の引用を求めています。商用利用は該当機関への問い合わせを案内しています。この記事では原記録や論文の図を転載せず、公開元へのリンクを示しています。

今後の構想には、画像上の現象や目盛りへの注釈、AIによる数値抽出があります。これらは既に全記録で実現した処理結果ではありません。COMPASSが現在提供する価値は、取り直せない過去の観測を、探し、拡大し、別の記録と比べ、必要なら元に戻って検証できる状態へ整えたことにあります。

出典

  • S. Imajoほか「Comprehensive magnetogram portal and archive service system (COMPASS): an IIIF-based portal for over 1.4 million historical magnetogram records」Earth, Planets and Space 78, 202(2026年9月11日)。論文本文。データ構成、IIIF実装、公開割合、比較例と限界。
  • 名古屋大学「紙とフィルムに眠っていた地磁気の記録140万枚をオンライン公開」(2026年10月30日)。観測所数・収録期間。論文と同じ研究グループの発表。
  • WDC京都「COMPASS公式ポータル」(2026年10月31日確認)。利用方法、感度の読み方、元画像の取得と利用条件。