森の根には、多くの菌類や細菌が暮らしています。その中から、生き物の組み合わせ全体と強く関わるものをどう探すか。京都大学・理化学研究所などの研究チームは2026年10月29日、根の微生物データを確率の「地形」として表し、その形の変化からキーストーンとなる微生物の候補を絞る手法を発表しました。数の多さだけでは見えにくい役割に、統計解析から近づく研究です。
簡単にまとめると?
- 森林で集めた1,270点の根の試料から、微生物の組み合わせが現れる確率を推定しました。
- 特定の微生物が多い場合と少ない場合で、集団がまとまりやすい状態がどう変わるかを比べ、重要な働きを持つ候補を選びます。
- 欧州の別データでも、候補と菌根の形成との関係を調べています。ただし、候補を投入・除去して森の状態を変えた実証ではありません。
多い微生物と、組み合わせを左右する微生物
キーストーン種とは、存在量に比べて生態系へ大きな影響を及ぼす種を指します。石のアーチを支える要石になぞらえた名前です。微生物の集団でも、ある一員の働きが他の多くの一員へ波及する可能性があります。しかし、DNAを調べて数の多いものを見つけるだけでは、その役割は決まりません。
たとえば二つの微生物が一緒に現れていても、直接助け合っているとは限りません。どちらも同じ植物や土壌条件を好むために、同時に増えていることも考えられます。今回の手法は、一対一の関係だけを見るのではなく、微生物の集団全体がどんな組み合わせになりやすいかを調べます。得られるのは、因果関係を次に確かめるための候補です。
根のデータを、確率の山と谷に置き換える
研究チームは、日本の冷温帯林に生育する6種類の植物から、根の先端1,270点を採取しました。DNA配列による分類では、菌類2,249、細菌・古細菌12,479のOTUが得られています。OTUは、配列の似ているものをまとめた解析上の分類単位です。この数を、そのまま厳密に同定された種の数と読み替えることはできません。
集団の状態は、「この分類群がいる・いない」という組み合わせで表します。ただし、全OTUをそのまま組み合わせると、考えられる状態数が巨大になります。そこで今回の地形の解析では、統計的に選んだ菌類34群、細菌・古細菌45群について、より大きな分類である「科」の単位で在・不在を扱いました。
その組み合わせが現れる確率を推定するために使ったのが、統計物理学のイジングモデルに基づく方法です。微生物間の関連に加え、宿主となる植物の違いをモデルへ組み込みます。現れやすい組み合わせは低い場所、現れにくい組み合わせは高い場所として表すと、確率分布を山や谷のように読むことができます。
ここでいうエネルギー地形は、地面の高低や微生物が消費するエネルギーを測った地図ではありません。観測から推定した確率の表現です。また、谷が見つかっても、自然界で長く安定する状態が証明されたとは限りません。短い期間だけとどまる状態や、観測の偏りも谷として見える可能性があります。
一員の量と、集団全体の地形を比べる
候補を選ぶときには、注目する微生物の相対的な量を、モデルの条件として取り出します。そして、その微生物を解析上「いない」と扱う条件と、検出された試料の中で中間的な量にある条件で、残りの集団の地形を比べます。「いない」は量のしきい値による分類で、厳密なゼロとは限りません。実物の微生物を取り除く実験ではなく、観測データから組み立てたモデル上の比較です。
評価には二つの見方があります。一つは、谷の底に当たる微生物の組み合わせや、まとまり方がどれほど変わるか。もう一つは、集団の行き先が少数の谷に偏るのか、多くの谷へ分かれるのかという違いです。研究では、推定した地形上で集団が変わるシミュレーションを行い、無作為化した場合とも比較して候補を選びました。
| 調べるもの | 読み取れること | 残る確認 |
|---|---|---|
| DNAから推定した構成 | どんな分類群が一緒に現れるか | 生体内での働きや直接の相互作用 |
| 量の違いに伴う地形の変化 | 集団全体の変化と強く関連する候補 | 投入・除去による因果関係 |
| 別地域での菌根形成との関係 | 他のデータでも関係が見られるか | 地域や宿主を越えた適用範囲 |
目立たない内生菌が候補に挙がった
解析では、植物の組織内に暮らす内生菌のうち、OidiodendronやPhialocephalaなどの属が候補に挙がりました。菌根をつくる主要な菌類だけに目を向けると見落としやすい存在です。菌根とは、植物の根と菌類がつくる共生の仕組みで、養分の受け渡しなどに関わります。
たとえばカエデ属の植物を背景とした解析では、Oidiodendronの量の違いと、アーバスキュラー菌根に関わる集団の状態から、外生菌根菌が多い状態への変化との関連が見られました。これは、その菌を加えれば必ず共生の型が切り替わるという意味ではありません。どの菌を、どんな宿主や条件で実験にかけるべきかを考える手掛かりになります。
研究チームはさらに、欧州で採取された独立した根のデータを用い、候補の属と、顕微鏡で評価された菌根の形成との関係を調べました。一部の候補では、菌根の形成度との有意な関連が確認されています。別地域のデータで関係を調べた点は有用ですが、同じ論文の中での検証であり、候補の機能を実験で再現したものではありません。
次の実験を選ぶための統計解析
この手法の価値は、多数の微生物を一つずつ試す前に、集団全体と関わりの深そうな候補へ実験を絞れることです。候補を苗へ接種し、後から入ってくる微生物の組み合わせや植物への影響を測れば、統計的な関連から実際の働きへ進めます。
一方、今回のモデルには宿主植物の違いを含めていますが、根の周囲のpHや植物が放出する物質など、十分に含められていない環境条件もあります。科ごとの在・不在へまとめたことで、細かな量や種ごとの違いも省かれています。森林の回復にそのまま使える微生物の一覧が完成した、という段階ではありません。
「目立つ微生物を探す」ことから、「集団の組み合わせが変わる条件を調べる」ことへ。確率の地形は、複雑な生態系を実験しやすい問いへ分けるための道具になります。
