Watt-Bit連携、電力に合わせて計算の場所と時間を変える

透明な建築の層を淡青の流れがつなぐ抽象作品。電力・冷却・建物を一緒に設計するイメージ。

電力に余裕がある地域と、計算をたくさん使いたい地域は、必ずしも重なりません。電気を需要地へ送る設備を整えるだけでなく、通信網を使って計算処理を電力のある側へ動かせないか。Watt-Bit(ワット・ビット)連携は、データセンターをどこに置き、いつ動かすかを、電力と通信の両方から考える取り組みです。

東京大学の江崎浩氏は、2026年8月のOCP APAC Summitで、日本のデジタルインフラを国土規模で設計する視点を示しました。発表の中心には、脱炭素電源、分散した計算拠点、光通信、そしてワークロードシフトがあります。ここでは、講演が示す設計上の方向性と、政府が公表した取り組みの段階を分けて見ていきます。[1]

簡単にまとめると?

  • Watt-Bit連携は、電力網・通信網・データセンターの配置と運用を一緒に考える取り組みです。
  • ワークロードシフトは、条件の合う計算処理の場所や時間を変え、電力の使い方を調整する手段になります。
  • 光通信でも距離による遅れはなくならないため、移せる処理と利用者の近くに残す処理を分ける必要があります。
  • 政府の取りまとめや実証採択は進んでいますが、全国で計算が自在に移動できる仕組みが完成したことを示すものではありません。

立地を決める前に、電力と通信をつなぐ

データセンターは、サーバーを収める建物だけでは動きません。電力を受ける設備と、利用者やほかの拠点につながる通信回線が必要です。計算能力を大きくしても、必要な電力を届けられなかったり、通信の条件が合わなかったりすれば、その能力を使い切れません。

経済産業省と総務省は2025年3月から官民懇談会を開き、同年6月12日に「ワット・ビット連携官民懇談会取りまとめ1.0」を公表しました。公表資料が重視するのは、電力・通信・データセンターの事業者が連携してインフラを整備することです。個々の施設の省エネだけに閉じず、電源と通信網を含めた配置を考える枠組みになっています。[2]

江崎氏の発表では、大規模なデータセンター群、東京・大阪以外の戦略的な拠点、さらに分散した拠点へと、時間軸を分けて方向性を示しています。これは各地域に同じ設備を均等に置くという話ではありません。電力を供給できる場所と、計算を必要とする場所を、通信でどう結ぶかという設計です。[1]

ワークロードシフトは、電気の使い方を動かす

ワークロードは、計算機が実行する仕事や処理の負荷を指します。ワークロードシフト(Workload Shift、WLS)は、その仕事を実行する拠点や時間帯を変えることです。建物やサーバーを毎回移動するのではなく、処理の割り当てを変えます。

たとえば、期限までに終わればよい計算に実行時刻の余地があり、別の拠点にも必要なデータと計算資源があるとします。その仕事を電力の条件が合う時間帯や拠点へ割り当てられれば、需要が集中する場所や時間を調整する選択肢になります。これは仕組みを説明する例であり、すべてのAI処理を同じように移せるという意味ではありません。

発表はWLSを、デマンドレスポンス(Demand Response、DR)と組み合わせて扱います。DRは電力の需給などに応じて需要側の使い方を変える考え方です。WLSが調整するのは計算処理の配置であり、それを通じて電力需要を調整する道筋が生まれます。両者は関係しますが、同じ言葉ではありません。[1]

この設計で確認したいのは、移動先に空きがあるかだけではありません。仕事を終える期限、データを送る時間、利用できるソフトウェア、処理を中断できるかといった条件も必要です。電力が余っている場所へ送れば自動的に得になるのではなく、計算とデータを移す負担も含めて判断することになります。

計算を移しても、電力網の整備は残る

発表15ページの図は、脱炭素電源への移行、再生可能エネルギーの変動への対応、電力インフラへの投資などを、複数の施策へ結びつけています。注目したいのは、再エネの変動への対応から、WLSだけでなく、電力供給経路・費用分担・規制の検討にも矢印が伸びていることです。計算の移動と電力側の整備を、組み合わせる課題として描いています。[1]

江崎浩氏の発表15ページ。脱炭素電源、再生可能エネルギーの変動対応、電力インフラ投資などの課題を、ワークロードシフトや供給経路・費用分担の検討へ矢印で結んだ図
図1 電力とデジタル基盤を組み合わせる施策の関係。Hiroshi Esaki「Watt-Bit Integration Government Strategy for the Design and Development of National Digital Infrastructure in Japan」、2026 OCP APAC Summit、15ページ「Balancing Energy Security and Digital Economic Security」。原資料。原スライドを画像化。図を拡大する

図には、データセンター事業者による電力会社への投資、新しい事業モデル、国際的なインフラも並びます。発表者が示す広い検討課題として読む部分です。この図だけを根拠に、特定の投資制度が適用済みであるとか、費用分担のルールが全国で確定したと捉えることはできません。

技術上の狙いも、消費電力の総量を必ず減らすことだけではありません。ある処理を別の場所や時間へ移しても、同じ計算を行うための電力は必要です。評価では、電力需要の集中をどの程度和らげられたか、利用できる電源がどう変わったか、通信や移動先を含む全体の負担がどうなったかを分けて見る必要があります。

光通信でも、遠くへ送れる仕事には条件がある

発表が挙げるAPN(All Photonic Network)は、光技術を活用して拠点間を結ぶネットワークです。江崎氏は光通信の小さな遅延の揺らぎなどを利点として挙げる一方、光の伝わる速さにも限界があることを強調しています。回線を高速化しても、遠くへ信号を届ける時間そのものはなくなりません。[1]

そのため、計算量だけで配置を決めることはできません。完了時刻に余地のある処理と、利用者の操作や機械の動きへすぐ応答する処理では、許容できる待ち時間が異なります。後者では、利用者や装置の近くで処理するエッジの役割が残ります。さらに実際の応答時間には、回線上の移動だけでなく、混雑やサーバーでの処理時間も加わります。

分散した拠点を結ぶことと、遠隔の設備を一台の計算機のように自由に使えることは別です。何を移動でき、どこにデータを置き、どの処理を近くに残すか。その切り分けが、電力と通信を一緒に設計する際の要点になります。

政策の公表と、実証で確かめることを分ける

取り組みは講演の構想だけにとどまりません。総務省の実証事業の事務局は2026年7月15日、APN等による分散データセンター運用と、高度なワークロードシフトを対象とする実証事業の選定を公表しています。選定結果には、電力情報に基づいてAIの処理先を変える検証や、発電予測・電力需給・計算資源の利用状況などを合わせてWLSの可能性を確かめる計画が含まれます。[3]

この発表から確認できるのは、対象となる実証が選ばれたことです。採択の事実を、そのまま費用削減や排出削減の達成、全国への導入完了と読み替えることはできません。講演の方向性、政府の取りまとめ、個々の実証とその結果は、それぞれ別の証拠として確かめる必要があります。

Watt-Bit連携を読むときは、データセンターがどこに増えるかに加えて、計算を動かす条件がどう整えられるかを見ると、技術の輪郭がつかみやすくなります。電源の条件、通信の遅れ、仕事の期限を一緒に扱い、動かせる計算を見極める。その積み重ねが、電力と計算基盤を国土規模で結ぶ設計につながります。

参考資料

[1]Hiroshi Esaki「Watt-Bit Integration Government Strategy for the Design and Development of National Digital Infrastructure in Japan」、2026 OCP APAC Summit、2026年8月11–12日。全35ページ。8・13–18ページ:電力と計算拠点、WLSとAPN、15ページ:施策の関係、25–26ページ:光通信と遅延。OCP公式資料一覧に掲載。

[2]経済産業省・総務省「『ワット・ビット連携官民懇談会取りまとめ1.0』を公表します」、2025年6月12日。官民懇談会の目的と、電力・通信・データセンター事業者による連携の位置付け。

[3]総務省「ワット・ビット連携関連実証」事務局(三菱総合研究所)「『ワット・ビット連携関連実証』における実証事業の選定について」および「選定結果」、2026年7月15日。実証区分と採択された検証内容。本文では採択時点の公表事実を扱っています。

政策資料の確認日:2026年10月8日。