Quantum Sea

タグ: OCP APAC 2026

  • OCP APAC 2026 | AIチップ同士をつなぐSUE-Tは、何をそろえるのか

    OCP APAC 2026 | AIチップ同士をつなぐSUE-Tは、何をそろえるのか

    AIの計算を複数のチップに分けると、それぞれのチップが持つデータを、ほかのチップへ素早く渡す必要があります。この近い距離のやり取りを担うのが、スケールアップの通信です。データセンター全体を結ぶネットワークとは、求めるものが少し違います。

    OCP APAC Summit 2026でBroadcomのBhaskar Chinni氏とMehak Mahajan氏が紹介した「SUE-T」は、Ethernetを使うスケールアップ網で、チップやネットワークカードの端に何を持たせるかを検討する取り組みです。新しいケーブルの名前ではありません。チップから出るメモリーの読み書きをどう運び、届いたデータをどう正しく扱うか。そこに焦点があります。[1・2]

    同じAIクラスタにも、距離の違う通信がある

    発表資料は、計算チップ(xPU)が近くでつながる「スケールアップ」、データセンター内のノードをつなぐ「スケールアウト」、建物やキャンパスをまたぐ「スケールアクロス」を描き分けています。SUE-Tが主に見ているのは、チップ同士がメモリーのデータをやり取りする、最も近い領域です。[2]

    資料には、チップ100万個のキャンパスならスケールアップ側だけで14.4Eb/s、といった試算も出てきます。ただし、これは通信量の桁をつかむための仮定を積み重ねた計算です。実際にその規模の施設で測った速度ではありません。数字そのものより、チップ間の通信が、離れたノード間の通信に比べて非常に大きくなりうるという設計上の問題に注目したいところです。[2]

    メモリーの操作を、そのまま線に流せるわけではない

    計算チップは、別のチップにあるデータを読みたい、書きたいという操作をします。Ethernetを使うなら、その操作の意味を保ちながら、送れる単位であるパケットに収めなければなりません。さらに受け取る側では、届いたものを元の操作として解釈する必要があります。

    通常のネットワークで使うRDMAやTCPには、離れた相手とも通信できるための仕組みがあります。一方、発表者は、同一のスケールアップ領域には近い距離・限られた参加者という条件があり、既存方式をそのまま持ち込むと、チップ内の面積や電力を余分に使う可能性があると説明します。既存方式が「使えない」という話ではなく、近い距離の通信に何を残し、何を軽くできるかという問いです。[2]

    小さなやり取りを、どう詰めて送るか

    端点側の仕事として、資料は「transaction packing」を例に挙げています。チップから出る複数の操作を、宛先ごとのキューに並べ、Ethernetで送るパケットに収める考え方です。一つずつ送れば扱いやすい反面、パケットごとのヘッダーが増えます。まとめすぎれば、送るまで待つ時間が生じます。資料の図は、この両方を見ながら、送れるものからパケットを作るスケジューラーを示しています。[2]

    ただし、どの操作でもまとめればよいわけではありません。発表資料は、想定する操作の大きさや上位の方式に応じて、この機能を使い分ける設計を提案しています。どれだけ速くなるかという実測結果は、このスライドには示されていません。

    速さだけでなく、順番と確かさも

    近くにあるチップ同士なら、通信の順番や再送の方法を、その範囲に合わせて設計できます。資料では、リンク単位の再送や流量制御を持つEthernetの仕組みを「ESUN」と呼び、その上でチップ側が、操作の順番、信頼性、詰め方などを扱う構成を描いています。SUE-Tは、そのチップ側・ネットワークカード側の要件をOCPのワークストリームで検討するものです。[2・3]

    ここが大切です。SUE-Tは、2026年9月時点でも端点の要件を検討している取り組みです。前身となるSUEの仕様書は公開されていますが、その名前だけで、すべてのAIサーバーに同じ機能や相互運用が備わるわけではありません。設計を比べるときは、チップが出す操作をどうパケットへ変え、届いた操作の順番と再送をどう扱うかまで見ると、単なるポート速度以上の違いが見えてきます。[3]

    発表したBroadcomの事業全体や収益のしくみは、cyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。本文は公開スライドとOCPワークストリームの説明に基づきます。講演動画の発言と質疑は確認対象に含めていません。資料中の大規模ネットワークの値は概算モデルです。

    [1]Open Compute Project:2026 OCP APAC Summit 発表一覧。Broadcomの「Scale-Up Ethernet Transport (SUE-T)」を掲載。

    [2]Bhaskar Chinni / Mehak Mahajan(Broadcom):Scale-Up Ethernet Transport (SUE-T) 発表スライド。全26ページ。主に12〜23ページを参照。

    [3]Open Compute Project:Networking / SUE-T ワークストリーム。端点側の検討範囲と作業状況。

  • OCP APAC 2026 | Ayar Labsが描く光I/O、組み替えられるAIクラスタへ

    OCP APAC 2026 | Ayar Labsが描く光I/O、組み替えられるAIクラスタへ

    AIの処理を増やすとき、GPUを一か所に詰め込むだけでは足りなくなってきました。推論を担う計算機、道具を動かすCPU、途中の情報を置くメモリーは、それぞれ必要な量も増え方も違います。必要なものを組み合わせながら使うには、機器の間をどうつなぐかが大切です。

    2026年8月のOCP APAC SummitでAyar LabsのMark Wade氏が示したのは、光の接続を使い、ラックの作り方そのものを単純にしようという構想でした。主役は「速いケーブル」だけではありません。半導体のそばから光で信号を取り出し、計算機を収めるシャーシを、組み合わせやすい単位に変えようとしています。[1]

    ラックの中に閉じ込めない

    これまで高い帯域が必要な機器どうしは、短い電気配線で結ぶため、同じシャーシやラックの近くに置く設計が中心でした。距離を伸ばすほど信号を保つのが難しくなり、配線や電力、冷却の制約も一緒に増えます。発表者は、この事情が大型で複雑なラックを生んでいると説明します。[1]

    提案は、GPUなどのアクセラレータやスイッチの近くに光エンジンを置き、シャーシから出る信号を光にすることです。CPO(Co-Packaged Optics)は、その光エンジンを半導体のパッケージの近くへ組み込む設計を指します。長い電気配線に頼る区間を減らし、離れたシャーシどうしを光ファイバーで結びます。[1]

    「組み替えられる」とはどういうことか

    ここでいう組み替えは、動いているGPUを物理的に頻繁に差し替えるという意味ではありません。計算、CPU、メモリー、スイッチを、それぞれ必要な数のシャーシとして増やし、共通の接続で一つのクラスタにまとめる考え方です。負荷ごとに必要な資源が違っても、ラックごと特別な配線を作り直さずに済む可能性があります。これは発表資料を踏まえた設計上の狙いで、すべての設備で実現済みという意味ではありません。[1]

    Ayar LabsとWiwynnが示した構成例では、一つの計算トレーにAI向け半導体を二つとCPUを置き、光エンジンと外部の光源を組み合わせます。資料は、この共通の部品から約1,000基規模のアクセラレータを結ぶ構成を描いています。両社の公開説明では、32トレーを収めるラックを16台つなぐ、1,024基超を想定した参照設計です。構成可能な規模の提示であり、一般の顧客環境で1,024基が稼働しているという報告ではありません。[1・2]

    光エンジンの置き場所には選択肢がある

    発表資料は、光エンジンを基板の上、半導体と同じパッケージ内、さらに近い中間基板上に置く三つの例を並べています。配置が違えば、半導体から光エンジンまでの電気信号の距離も変わります。一つの「CPO」という言葉だけで性能や修理のしやすさを決められない理由です。[1]

    Ayar Labsは、TeraPHY光エンジンと、別の場所に置くSuperNova光源を製品の組み合わせとして紹介しています。レーザーを光エンジンから離すのは、熱と交換作業を考えた設計です。ただし、光ファイバーの取り回し、コネクター、光源の冷却、故障した部品へのアクセスまで設計して初めて、ラック全体として扱いやすくなります。[1・3]

    共通の境界をどこに置くか

    もう一つの要点は、光を使うだけでは組み替えやすいシステムにならないことです。資料は、論理的な通信方式、光の波長、コネクター、シャーシの形など、層ごとに接続の約束事をそろえる必要を示しています。既存のORv3ラックやOCP NIC 3.0などを使いながら、シャーシ間の光接続は今後さらに標準化を進めたい領域として挙げています。[1]

    光接続の利点は、機器を自由に遠ざけられる魔法ではありません。届く距離や電力だけでなく、接続先を変えたときに動作するか、故障した光源やコネクターを直せるかも重要です。今回の発表は、CPOを部品単体の競争から、シャーシを繰り返し使える単位にするための接続設計へ広げて考える手がかりになります。[1]

    この構想を発表したAyar Labsがどんな会社かは、cyclewaveで事業全体を紹介しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。本文はOCP公式掲載の18ページのスライドを中心にまとめました。講演動画の発言や質疑応答は根拠に含めていません。Ayar Labsの将来の構想や自社モデルを、製品の導入実績や保証値として扱っていません。

    [1]Open Compute Project:2026 OCP APAC Summitの発表一覧/Mark Wade「Co-Packaged Optics and the Composable AI Cluster」公式掲載スライド(主にpp.3–5、8–16)。

    [2]Ayar Labs・Wiwynn「Building a Production-Ready Optically Connected Rack for AI Scale-Up」(2026年5月27日。ラック・トレー数は参照設計の説明)。

    [3]Ayar Labs:CPO製品の公式説明(TeraPHYとSuperNovaの役割)。

  • OCP APAC 2026 | AIクラスタの接続を、距離と役割で考える

    OCP APAC 2026 | AIクラスタの接続を、距離と役割で考える

    AIの計算機どうしをつなぐとき、「一番速い接続方法は何か」と考えたくなります。でも、一枚の基板の近くを結ぶのか、ラックの中を結ぶのか、列をまたいで結ぶのかで、必要な距離も、使える電力も変わります。

    2026年8月のOCP APAC Summitで、MicrochipのMatt Holdrege氏は、PCIe、ESUN、銅線、光接続を並べてAI向けネットワークの選び方を説明しました。発表から読み取れるのは、どれか一つに統一する答えではなく、接続する相手と距離に合わせて、組み合わせを変える考え方です。[1・2]

    「PCIeか、銅線か」という比べ方では足りない

    最初に整理したいのは、発表の四つの言葉が同じ種類の選択肢ではないことです。PCIeは機器をつなぐ規格、ESUNはAIアクセラレータ間のネットワーク向けにEthernetを発展させるOCPの取り組みです。一方、銅線と光ファイバーは信号を運ぶ手段で、CPOは光学エンジンをスイッチの半導体の近くに置く構成を指します。つまり、接続の仕組みと、その信号をどう運ぶかを分けて考えます。[2・3]

    この違いを押さえると、銅線がPCIeの「対抗技術」ではないと分かります。短い距離のPCIe接続に銅線を使うこともあれば、Ethernet系の接続で銅線や光を選ぶこともあります。

    近くをつなぐPCIeと、広げるためのESUN

    発表はPCIe 6.0を、筐体内やラック内で計算機とメモリー、ストレージをつなぐ候補として挙げています。短い距離での低遅延に強みがある一方、電気信号のまま遠くへ伸ばすには限界があります。資料にある「64GT/s」は1レーンの信号転送速度を示す値で、アプリケーションがそのまま使える通信速度ではありません。[2]

    ラックを超えて多くのアクセラレータを結ぶ話では、Ethernetを土台にしたESUNが登場します。通常のEthernetをそのままつなぐという意味ではありません。OCPのESUN作業では、短いメッセージで生じるヘッダの負担や、混雑・エラーをどう扱うかが検討され、2026年3月には1.0仕様が公開されています。発表者は、既存のEthernetの技術や運用経験を生かしながら、接続する機器の数を増やす道として紹介しています。[2〜4]

    銅線が届く距離と、光で広げる距離

    短い距離では、銅線は費用と消費電力を抑えやすく、構成も比較的単純です。ただし信号が高速になるほど、銅線だけで届く距離は厳しくなります。発表も、ラック内のような数メートル程度を得意な場面として整理しています。[2]

    列や部屋をまたぐ規模になると、光接続が候補になります。CPOは光学エンジンをスイッチの半導体の近くに置き、長い電気配線で生じる損失を減らそうとする設計です。DWDMは、一つの光ファイバーで異なる波長の信号を多重化する方法です。両者を組み合わせれば、届く距離や接続密度を広げる余地があります。[2]

    光なら必ず有利、というわけでもありません。発表資料は、費用、熱の管理、ほこりへの対策、故障した部品の交換しやすさを制約として挙げています。通信の数字だけでなく、設置してから直せるかどうかまで含めて比べる必要があります。[2]

    選ぶ順番は、距離・遅延・保守から

    発表では、比較的小さな自社設備やエッジ側にはPCIeと銅線、大規模施設にはESUNと光接続を組み合わせる配置例が示されています。これは発表者が示した設計の見取り図で、各方式の実装や性能を一律に保証するものではありません。[2]

    まず、何をつなぐのか。次に、どこまで離れるのか。そして、遅延、信号を運ぶための電力、故障時の交換、費用を順に見る。そうすると「一番速い線」探しから、AIクラスタ全体で使い続けられる接続の設計へ、視点を移せます。

    発表したMicrochipの事業全体は、cyclewaveの企業記事にまとめています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。発表の解説はOCPが公開した14ページのスライドをもとにしています。動画内の発言や質疑応答は本文の根拠に含めていません。

    1. Open Compute Project「2026 OCP APAC Summit」発表一覧 — 「AI Fabric Architecture Options: PCIe, ESUN, Copper, and Co-Packaged Optics」、Matt Holdrege(Microchip)。
    2. Matt Holdrege「AI Fabric Architecture Options」公式掲載スライド — pp.3–11。方式ごとの強み・制約、配置例。
    3. Open Compute Project「Networking/ESUN」 — ESUNが担うネットワーク側の作業領域。
    4. Open Compute Project「The OCP ESUN 1.0 Specification has been released!」 — 2026年3月10日。1.0仕様の公開と主な変更点。
  • OCP APAC 2026 | LITEONの電源ラック案、パワーシェルフをITラックから分ける

    OCP APAC 2026 | LITEONの電源ラック案、パワーシェルフをITラックから分ける

    AIサーバーを収めるラックに、電源装置も一緒に積み続ける。消費電力が増えても、しばらくはそれで対応できます。ただ、計算用の機器や冷却の部品も増えると、ラックの中で場所を取り合うようになります。

    2026年8月のOCP APAC Summitで、LITEONのRafael Lee氏が示したのは、電源を別の「Power Rack」にまとめ、計算用の「IT Rack」へ電気を渡す構成です。電圧を上げる話だけでなく、どこで電気を変換し、どこに蓄電の備えを置くかを一緒に考える発表でした。[1・2]

    電源を置く場所が変わる

    従来の構成例では、ITラックの中にパワーシェルフを収め、交流を約50Vの直流に変えていました。パワーシェルフは複数の電源ユニットを並べる棚です。サーバーが使う電気をまとめてつくり、部品の交換や予備の確保もここで行います。

    LITEONの次の構成例では、その棚をPower Rack側へ移します。Power Rackで交流を800Vの直流に変えてITラックへ送り、ITラック側で50Vへ下げる流れです。低い電圧のまま大きな電力を遠くへ運ぶと、電流が増え、配線や接続部の負担が大きくなります。そこで、ラック間は高い電圧で運び、サーバーの近くで必要な電圧へ変えます。[2]

    この配置なら、ITラックには計算機器や冷却のための場所を残しやすくなります。一方で、変換器が一段増えるため、配線の損失だけでなく変換器の損失も合わせて見る必要があります。「800Vだから全体が必ず高効率」とは言えません。

    110kWの棚を六つ並べた構成例

    発表に載るPower Rackの例は、110kWのパワーシェルフを六つ置く660kW構成です。バッテリーバックアップユニット(BBU)を組み込む例と、組み込まない例が並んでいます。どちらもPower Rackから800Vの直流を送り、ITラック側のDC/DC変換器で50Vに下げます。これはLITEONが示した構成例で、すべてのOCPラックが同じ容量や配線になるという意味ではありません。[2]

    BBUは、施設側からの給電が途切れたときに短時間の電力を支えるための部品です。組み込むかどうかで、Power Rack内の機器の配置、保守する部品、停電時に何を守るかが変わります。必要なバックアップ時間や施設側の無停電電源との役割分担は、この図だけでは決められません。

    大きなラックほど、運用も一緒に設計する

    電源棚の数が増えれば、一つのユニットを止めて交換する場面も増えます。どの棚を予備として持つか、電源の異常をどこで検知するか。ラックへ電気を届ける方法は、運用の仕方ともつながっています。

    LITEONは、パワーシェルフに加えてBBU、電圧を下げるモジュール、冷却設備までを発表の中で並べています。これらは同社の提案する製品群であり、導入先ごとに必要な組み合わせは違います。製品を比べるときは、棚単体のkWだけでなく、Power RackからITラックまでの電気の通り道と、停電・交換時の動きを確かめたいところです。[2]

    LITEONの事業全体は、cyclewaveの企業記事にまとめています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。本文は公開スライドをもとにしています。講演動画の発言や質疑は確認対象に含めていません。容量・配置はLITEONの発表例で、OCP共通の仕様値としては扱いません。

    1. Open Compute Project「2026 OCP APAC Summit」発表一覧 — 「Powering AI Infrastructure: From Power Shelf to Rack-Level Power Architecture」、Rafael Lee(LITEON)。
    2. 同発表の公式掲載スライド — 全11ページを確認。本文は主に6〜10ページ。
  • OCP APAC 2026 | Vertivが示す800V DC、AIサーバーへの給電はどう変わる?

    OCP APAC 2026 | Vertivが示す800V DC、AIサーバーへの給電はどう変わる?

    AIサーバーを増やすとき、必要になるのは計算用のチップや冷却装置だけではありません。電気を届ける配線と電源装置にも、もう少し余裕がほしくなります。

    そこで進んでいるのが、ラックへ電気を送る直流の電圧を高める設計です。2026年8月、台北で開かれたOCP APAC Summitで、VertivのHenrik Nilén氏は800V DCへの移行を、電源の置き場所や変換の仕方まで含めて紹介しました。[1・2]

    この発表を読むと、電圧だけでなく、どこで変換し、どの区間を高い電圧のまま運ぶかが大切だと分かります。

    電圧を上げると、配線にはどんな余裕が生まれる?

    直流の電力は、電圧と電流を掛けた値です。同じ電力を届けるなら、電圧を上げるほど必要な電流を減らせます。

    たとえば300kWを送る場合、変換損失をいったん除いて計算すると、50Vでは6,000A、800Vでは375Aになります。電圧が16倍になるので、電流は16分の1です。

    300kWを送るときの電圧単純計算した合計電流
    50V DC6,000A
    800V DC375A

    これは電圧と電流の関係をつかむための計算です。実機では複数の経路に分けて配電するため、この値がそのままケーブル1本を流れるわけではありません。

    配線の抵抗が同じなら、そこで熱になる電力は電流の2乗に比例します。電流を減らせると、発熱や電圧降下を抑えやすくなり、太い銅の導体をどれだけ使うかにも選択の余地が生まれます。高電圧の直流配電が、ラック内のスペースや銅の使用量と一緒に議論される理由です。[3]

    もちろん、ケーブルの太さを16分の1にできる、という意味ではありません。温度、接続部、保護装置、絶縁などの条件も満たす必要があります。

    電源をラックの外へ移す、その先に800Vがある

    もう一つ変わるのが、電源装置の置き場所です。

    発表では、サーバーと同じラックに置いていた電源や蓄電装置を、隣の専用ラックへ移す構成が示されています。この隣接する電源ラックが「サイドカー」です。まず50Vのまま電源を外へ出し、その後、ラック間の配電を800Vへ変える流れとして描かれています。[2]

    ラックの中を計算用の機器に使いやすくすることと、ラックへ電気を運びやすくすること。二つの課題を、配置と電圧の両方から解いていくわけです。

    ただし、800Vをそのままチップへ加えるわけではありません。ラックやサーバー側で、直流の電圧を変えるDC/DC変換を行い、チップが使う低い電圧へ段階的に下げます。800V対応サーバーになっても、この役割は残ります。[3]

    同じ「800V」でも、接地の仕方が違う

    資料では、0〜800V DCと±400V DCが分けて扱われています。±400Vは、接地した中点に対して片側がプラス400V、もう片側がマイナス400Vとなる構成です。両端の差は800Vでも、負極を接地する0〜800Vの構成とは、接地に対する電圧が異なります。[2]

    受け取る機器から見れば、端子間の電圧だけが合っていればよい、とは限りません。どこを接地の基準にするのかによって、絶縁や保護の設計も変わります。「800V対応」という表示を読むときは、その電源方式までそろえて見る必要があります。

    効率は「800Vだから高い」とは決められない

    発表の比較例には、少し立ち止まって見たい数字があります。

    交流の配電幹線から受電する構成で、ラック内に50V電源と蓄電装置を置く例の電力供給経路の効率は約96.5%。一方、800Vのサイドカーから送り、ITラック側にDC/DC変換器を置く例は約96%です。800Vを受け取るサーバーまで含めた構成では、96.5%超が示されています。[2]

    いずれも発表中の構成例の値で、負荷率や細かな測定条件はスライドに示されていません。それでも、電圧を上げるだけで全体の効率が決まらないことは読み取れます。

    配線で減らせる損失があっても、途中で電圧を変える装置にも損失はあります。電源単体の効率、ラックへ届くまでの効率、チップが使える電圧まで含めた効率は、同じ指標ではありません。

    新しい構成を比べるときには、「何Vか」に続けて、どこからどこまでを測り、間にどんな変換を挟んでいるかを見る。そうすると、数字の意味がずっとつかみやすくなります。

    電気の通り道を、ラック全体から見直す

    800V化で得たいのは、大きな電力を無理なく届けるための余裕です。電流を減らし、電源の置き場所を変え、必要な変換を整理する。その組み合わせで、サーバーを収める場所と電気の通り道を整えていきます。

    今回の発表から見えてくるのは、電源装置だけを高性能にする発想から、ラックへ届くまでの仕組みをまとめて考える設計への広がりです。配線、接地、変換段、効率の測定範囲を一緒に眺めると、800Vという数字の先にある工夫が見えてきます。

    発表したVertivの事業全体は、cyclewaveの企業記事にまとめています。

    参考資料

    2026年9月22日確認。発表の解説は公開スライドをもとにしています。動画内の発言や質疑応答は、本記事の根拠には含めていません。

    1. Open Compute Project「2026 OCP APAC Summit」発表一覧 — 「800V DC Power Trends」、Henrik Nilén(Vertiv)。
    2. Henrik Nilén「800V DC Power Trends」公式掲載スライド — pp.7–9。接地方式、配置の変化、電力供給経路の効率。
    3. NVIDIA Technical Blog「NVIDIA 800 VDC Architecture Will Power the Next Generation of AI Factories」 — 2025年5月20日。高電圧配電とラック内DC/DC変換の背景説明に使用。
  • OCP APAC 2026 | ラックから建物へ、液冷を広げるCDUと配管の設計

    OCP APAC 2026 | ラックから建物へ、液冷を広げるCDUと配管の設計

    サーバーラックをもう一列増やしたい。置く場所と電源には余裕があっても、冷却液を届ける配管まで、そのまま使えるとは限りません。

    一つのラックを冷やす設計と、何列ものラックを動かし続ける設計。その間には、冷却装置の台数だけでは埋まらない違いがあります。

    2026年8月のOCP APAC Summitで、nVentのMing Tien氏が取り上げたのは、この規模の広がりです。公開スライドをもとに、冷却液を循環・調整する装置「CDU」と配管を、建物側の設備までつなげて見ていきます。[1・2]

    ラックごとに置くか、何台かで共有するか

    CDUの置き方には、ラックの中へ組み込む「インラック」と、ラック列のそばに置いて複数ラックを受け持つ「インロー」があります。発表では、複数ラックをひとまとまりにしたPODへ液冷を広げるとき、後者の集約しやすさに注目しています。[2]

    ラックごとにCDUを置けば、IT機器側の冷却回路をラック単位で分けられます。一方、ラックを増やすたびに、装置の設置や建物側の配管接続、監視・保守の対象も増えていきます。複数ラックでCDUを共有する構成なら、こうした運用をまとめやすくなります。[2]

    ただ、共有するほど、どこまでが一つの冷却系統なのかをはっきりさせる必要があります。まとめると運用しやすい部分と、分けておくと不具合を閉じ込めやすい部分。その両方から配置を考えると、装置の大きさだけでは見えなかった違いが分かります。

    発表の比較は、大きなAIクラスタを念頭に置いたものです。インローならいつでも安く、信頼性も高いと決まるわけではなく、既存設備や増設の単位に合わせて選ぶ必要があります。

    二つの回路を分けて、熱を渡す

    ここで、液体の通り道を整理しておきます。今回扱う液体同士で熱を交換するCDUでは、建物側を流れる一次回路と、サーバー側を巡る二次回路が分かれています。資料にあるFWSは建物側の水系統、TCSはIT機器側の冷却系統を指します。[2・3]

    サーバーで温まった二次側の冷却液は、CDUへ戻り、熱交換器を通じて一次側へ熱を渡します。二つの液体を混ぜずに熱を受け渡すことで、サーバーへ送る液体の品質や圧力を、建物側と分けて管理できます。[2・3]

    回路を分けても、建物側に頼らず冷やせるわけではありません。一次側がどの温度で、どれだけの流量を供給できるかは、CDUの働きに関わります。発表では、建物側からCDUへ供給温度・流量・差圧などを伝え、CDUからは戻り温度や受け渡す熱量、異常の状態を返す関係が示されています。[2]

    配管の接続位置だけでなく、互いに何を伝え、どちらが調整するかまで決める。設備担当とIT担当の境目に、CDUが置かれる意味はここにもあります。

    冷却能力の合計より、必要な場所へ流れるか

    ラックの数が増えると、冷却液の行き先も増えます。CDUの冷却能力を足し合わせて十分な値になっていても、それぞれのラックへ必要な流量を届けられるかは、もう一つの問題です。

    資料では、必要な冷却能力と流量から台数を考えたうえで、系統に必要な圧力と流量の組み合わせ、つまり「P-Qの運転点」でCDUを選ぶと説明しています。Pは圧力、Qは流量です。配管やサーバーを通る際の圧力損失を補いながら、必要な量を流せるかを確かめます。[2]

    nVentが示した構成例では、配管を環状につなぎ、CDUを分散して配置しています。狙いは流量と圧力の偏りを抑えることです。ただし、輪にしただけで均等になるわけではありません。実際の配管寸法、接続するラック、装置の運転条件を合わせて検討する必要があります。[2]

    増設の相談で大切なのは、「あと何kW冷やせるか」に加えて、「追加したラックまで、どの経路で必要な流量を届けるか」です。冷却能力と液体の通り道を別々に見ないことが、拡張の出発点になります。

    予備を持つことと、切り離せることは別

    故障に備えて、必要な能力を担うN台に予備の1台を加える。これがN+1という冗長化の考え方です。発表でも、CDUの配置と一緒に冗長性が取り上げられています。[2]

    ここで確かめたいのは、何を予備にしているかです。たとえばポンプに予備があっても、共有配管を修理する間の別経路まで自動で用意されるわけではありません。装置の台数に続けて、故障した部分をどこで切り離せるかを見ていきます。

    資料が重視するのも、一次・二次回路の分離、弁の位置、保守する範囲の決め方です。正常に流れている状態だけでなく、漏れや停止が起きたときに影響がどこまで及ぶかを、配管の構成として考えます。[2]

    監視にも同じ視点が必要です。発表では、ネットワークが途切れた場合にも機器側の制御でIT機器を守れること、センサー故障やポンプ停止時の動作をあらかじめ決めることが挙げられています。画面で状態が見えることと、通信がなくても安全に対処できることは、分けて設計したい部分です。[2]

    増設しやすさは、配管を作る前に決まる

    将来のラック追加に備えるなら、空きスペースを残すだけでは足りません。配管の取り出し位置やCDUを運び込む通路、床が支えられる重さも、後の工事に関わります。

    発表では、ラック配置と接続寸法を先に固め、配管を工場で組み立ててから搬入する方法が紹介されています。現場での切断や溶接を減らし、出荷前には耐圧・清浄度・溶接の検査を行う。設置後には、現地で改めて確認する流れです。[2]

    事前に作る範囲が広がるほど、最初に決める寸法や接続位置の確かさが大切になります。後からラックの並びを変えると、あらかじめ用意した配管が合わなくなるかもしれません。増設の単位を決めることは、建物とIT機器の計画を早い段階で合わせることでもあります。

    また、将来の余裕は熱を受け取る能力だけでなく、流量や圧力にも必要です。主配管の大きさや系統の分け方を先に考えておけば、増設のたびに大きな配管工事や床の改修へ戻る事態を避けやすくなります。[2]

    冷却を広げるなら、止まったときから考えてみる

    新しいラックを加えたとき。CDUを一台点検するとき。配管の一部で不具合が起きたとき。それぞれの場面で、どこから液体を送り、どこを切り離し、誰が調整するのかをたどると、設備のつながりが具体的になります。

    液冷を大きくする設計は、高性能な装置を並べるだけでは完結しません。必要な流れを届け、影響を小さく区切り、次の増設を受け止められること。ラックから建物へ視野を広げると、この三つを一緒に整える大切さが見えてきます。

    nVentの事業について

    nVentは冷却だけでなく、電気をつなぐ部品や、機器を保護する筐体なども手がけています。会社全体の事業と収益のしくみは、cyclewaveにまとめています。[4]

    参考資料

    2026年9月23日確認。講演の公開スライドをもとに、設備を広げる際の考え方を整理しました。配置の比較や構成例はnVentの発表によるもので、設備ごとの条件に合わせた検討が必要です。

    [1]Open Compute Project:2026 OCP APAC Summit 発表・資料一覧。台北、2026年8月11〜12日開催。Ming Tien(nVent)の講演を収録。

    [2]nVent「From Rack to Facility: Designing Scalable CDU-Based Liquid Cooling System」公開スライド。4〜7ページ:拡張と配置、9ページ:配管と運転点、10〜13ページ:施工・保守・制御、15ページ:将来の余裕。

    [3]nVent「Rack Level High Density Liquid Cooling」。6ページ:一次・二次回路と、液体を混ぜずに行う熱交換の説明。

    [4]cyclewave:nVentはどんな会社? 電気設備を支える事業と収益のしくみ。公開本文を確認して参照。

  • OCP APAC 2026 | AVCが示すコールドプレート、微細流路と圧力損失

    OCP APAC 2026 | AVCが示すコールドプレート、微細流路と圧力損失

    チップの熱を受け取るコールドプレート。その中に細かな流路を増やすと、冷却液へ熱を渡す面積を広げられます。小さな部品の改良に見えますが、液体を送り出すポンプや、汚れを取り除くフィルターにも新しい条件が生まれます。

    2026年8月のOCP APAC Summitで、AVCのFang-chou Lin氏が取り上げたのは、このつながりでした。今回は公開スライドから、冷やす面積を増やすことと、液体を流し続けることの両立を見ていきます。[1・2]

    45°Cの入口温度で、集中する熱を受け取る

    発表が背景に置くのは、先端的な半導体パッケージで熱が一部に集中する状況です。同氏は、局所的な熱流束が7W/mm²に近づく例を示しています。1mm²という小さな面積に、7W近い熱負荷がかかるイメージです。チップ全体の平均とは異なり、特に熱い場所をどう冷やすかが課題になります。[2]

    そこで紹介されるのが、45°Cの冷却液が入ってくる条件に合わせたコールドプレートです。内部の薄いひれ「フィン」を細かく並べ、熱を受け渡す面積を増やします。資料には、フィンのピッチを150µmから100µm、さらに80µmへと小さくする方向が示されています。ピッチはひれが繰り返し並ぶ間隔で、液体が通る隙間の幅そのものとは区別します。[2]

    ポンプには、流量と圧力の両方が必要になる

    細かな流路には、液体が通る際の圧力損失との兼ね合いがあります。圧力損失とは、流れに伴って入口から出口へ圧力が下がること。ポンプはその分を補いながら、冷却に必要な流量を送り続ける必要があります。[2]

    そのため、ポンプの最大流量だけを見ても、組み合わせたときの性能は分かりません。流路で生じる抵抗に対して、どれだけ圧力を出し、そのとき何L/分を送れるかが大切です。コールドプレートの面積を増やした効果も、必要な液体が届いてこそ生きてきます。

    発表では、液体を複数の領域に振り分けるマニホールドも紹介されています。図では供給口と排出口を分けて配置し、流れる道筋を短くしています。フィンを細かくする工夫に、熱い場所へ液体を配る工夫を組み合わせる設計です。[2]

    圧力損失のグラフには、フィンの高さや隙間を変えた計算例も載っています。ただ、流量や冷却液などの比較条件は十分に示されていません。特定の寸法ならどの製品でも同じ性能になる、と読むことはできません。

    25µmのフィルターは、数字の先まで見る

    流路が細かくなると、冷却液に混じる粒子にも敏感になります。資料が挙げるのは金属粒子、金属以外の異物、微生物による付着物です。流路がふさがれば、熱が集中する場所へ必要な液体が届きにくくなります。[2]

    Lin氏は、冷却液の温度や流れを整えるCDUに、従来の50µmから25µmへと細かいろ過を求める方向を示しています。稼働中に交換できるフィルターも併せて紹介しています。これはAVCの発表に示された設計の考え方で、すべてのCDUに共通するOCPの規格値として受け取らないことが大切です。[2]

    製品を比べる場面では、「25µm」の表記に加えて、どの大きさの粒子をどの程度取り除けるのか、必要な流量でどれだけ圧力が下がるのかまで知りたくなります。これらは今回のスライドだけでは確認できないため、実際のフィルター仕様と組み合わせて読む部分です。

    流れを速くする設計には、耐久性の宿題もある

    発表の最後には、まだ解くべき課題も残されています。一つは、サーバー側の冷却回路で許容する粒子の大きさや清浄度を、実用的な条件として定めること。もう一つは、コールドプレート内の流速を高めたときの侵食を調べることです。[2]

    侵食は、流れなどによって材料が少しずつ削られる現象です。同氏は研究の必要性を挙げていますが、安全な流速の上限や寿命を示したわけではありません。流量を増やして熱を運ぶ設計にも、長く使うための検証が伴います。

    この発表から読み取れるのは、コールドプレートの寸法、ポンプの流量と圧力、冷却液の清浄度を一緒に決める必要があるということです。熱を受け取る面を細かく作り込むほど、その面まで液体を届け、汚れを抑え、流路を保つ設計が重要になります。微細化は、冷却回路全体を見直すきっかけでもあるのです。

    AVCについて、もう少し

    AVC(奇鋐科技)は、台湾に本社を置き、冷却部品やファン、システム全体の放熱設計を手がける企業です。事業の広がりや決算は、cyclewaveの企業記事で紹介しています。[3]

    参考資料

    2026年9月23日確認。発表の解説は公開スライドをもとにしています。寸法や条件は発表内の例として紹介しています。

    1. Open Compute Project「2026 OCP APAC Summit」発表一覧 — Cooling Environments、Fangchou Lin(AVC)。開催日は2026年8月11〜12日。
    2. Fang-chou Lin「Advanced Thermal Management for High-Density AI Servers: Cold Plate Optimization and CDU Specification Requirements」公式掲載スライド — 4〜7・10ページ。局所発熱、フィンと流路、圧力損失、ろ過、今後の課題。
    3. AVC:会社紹介・製品分野 — 企業の輪郭を確認。
  • OCP APAC 2026 | AIサーバーを冷やし続けるための液冷設計

    OCP APAC 2026 | AIサーバーを冷やし続けるための液冷設計

    AIサーバーを液体で冷やす。そう聞くと、まず気になるのは「どれくらい冷やせるのか」という性能かもしれません。

    では、そのサーバーが何台も並び、毎日動き続ける場所ではどうでしょう。冷却液をきちんと行き渡らせるには。部品を交換するときは。そして、どこかに不具合が起きたら。

    そんな「使い続ける場面」まで考えると、液冷の見え方が少し変わってきます。

    2026年8月に台北で開かれたOCP APAC Summitでは、AVCとnVentが、こうした液冷の設計に関わる発表を行いました。今回は公式動画と資料をたどりながら、冷却液を送り出すCDUと、サーバー側の部品のつながりを見ていきます。[1]

    冷やすしくみの間をつなぐ「CDU」

    まず押さえておきたいのが、CDUという装置です。正式にはCoolant Distribution Unit。今回の発表では、施設側の冷却設備とサーバー側の冷却回路の間に入り、冷却液の温度や流れを整える役割が紹介されています。[2]

    nVentのMing Tien氏が説明するのも、この「間に入る」という役割です。温度や流量、圧力、冷却液の品質を管理しながら、設備とサーバーをつなぐ。さらに、配管や弁を含めた設計によって、不具合が起きたときの影響をどこまでに抑えるかを考えます。CDUだけを見ていたときより、周りの設備との関係が見えてきます。[2]

    装置を選ぶときも、冷却能力の数字と一緒に、流路で失われる圧力を補いながら、必要な量の液体を送れるかを確かめます。通信が途切れたり、センサーが故障したりしたときの動きも、あらかじめ考えておく。そのような運転中の備えまで、同氏の資料では取り上げられています。[2]

    チップの近くから、液体の通り道をたどる

    今度は、サーバーの中へ少し目を移してみます。

    発熱する部品に接し、その熱を冷却液へ渡すのが「コールドプレート」です。AVCのFang-chou Lin氏は、この部品の細かな流路と、CDUに求められる条件を説明しました。[3]

    細かな流路で熱を受け取る設計には、液体が流れるときに生じる圧力の低下、つまり「圧力損失」との兼ね合いがあります。さらに、粒子が流路をふさがないよう、冷却液の清浄さやフィルターにも気を配る必要があります。チップのすぐそばにある部品の話が、液体を循環させる設備の話につながっていくわけです。[3]

    二つの発表を合わせて読むと、コールドプレート、ポンプ、配管、フィルターを一続きで見ることの大切さが伝わってきます。たとえば部品を変えるなら、液体の流れや、メンテナンスの仕方にはどんな影響があるのか。そんなふうに視野を広げると、製品資料から知りたいことも具体的になります。

    製品紹介を読むときに、気にしておきたいこと

    ここからは、今回の発表をもとにQuantum Seaで整理した読み方です。次に液冷の製品紹介を見るときは、こんな点にも目を向けてみてください。

    その性能は、どんな条件で出るのか

    同じ冷却能力の数字でも、入口の温度や冷却液の種類、流量が違えば、比較の前提も変わります。数字のそばに書かれた条件まで読むと、使いたい環境に合うかを考えやすくなります。

    部品を交換するとき、どこまで止めるのか

    ポンプやフィルターを交換するとき、ほかのサーバーは動かし続けられるでしょうか。普段の性能に加えて、手入れや故障対応の場面を想像すると、設備の使い勝手が見えてきます。

    変化に気づき、対応するのは誰か

    温度や流れに異常が出たとき、設備の担当者とサーバーの担当者は、それぞれ何を確認するのか。冷却液の状態を誰が管理するのか。機器の仕様と一緒に、人の動きも考えておきたいところです。

    「冷やせる」の先にある、使い続けるための工夫

    たとえば、今ある設備にサーバーラックを追加する場面。冷却装置を増やすほかに、配管を変えたり、保守の手順を見直したりする必要はあるでしょうか。こうした問いが、今回の発表を自分の関心や現場に引き寄せて読む入口になります。

    講演だけで個々の製品の使い勝手までは判断できませんが、仕様や導入事例を調べるときの手がかりにはなります。次に液冷の製品紹介を見るときは、冷却能力の数字と一緒に、液体の通り道やメンテナンスの仕方にも目を向けてみてください。そこに、使い続けるための工夫が見つかるかもしれません。

    今回登場した2社を、少しだけ

    技術を追っていくうちに、つくっている会社にも関心が向いた方へ。今回の2社には、それぞれ次のような事業の広がりがあります。

    nVent:電気をつなぎ、機器や設備を保護する製品を手がける企業です。冷却に加え、機器を収める筐体や電力まわりの製品も扱っています。[4]

    AVC(奇鋐科技):台湾に本社を置く冷却ソリューションの企業です。冷却部品やファン、システム全体の放熱設計などを手がけています。[5]

    参考にした動画・資料

    対象は2026年8月11〜12日開催のOCP APAC Summitです。9月21日までに確認した資料のうち、液冷に関する二つの発表を取り上げました。紹介した設計の考え方は各社の発表に基づくもので、OCPの共通規格として紹介するものではありません。

    [1]OCP公式開催報告 / 講演・資料一覧

    [2]nVent「From Rack to Facility」:講演動画(9月18日公開、10:08・12:04・18:48付近)/ CDU設計のスライド(7・9・12・13ページ)。

    [3]AVC:コールドプレートとCDU要件のスライド(5〜7ページ)。

    [4]cyclewave:nVentはどんな会社? 電気設備を支える事業と収益のしくみ。

    [5]AVC公式サイト:会社概要・製品分野(台湾本社、製品分野)。