量子デバイスの性能を確かめるとき、測定できる施設があることと、別の場所で得た結果を比べられることは、別の課題です。同じ部品でも、温度や接続方法、評価の手順が違えば、数字の違いが部品によるものなのか、測り方によるものなのかを見分けにくくなります。
EuroHPC共同事業体(EuroHPC JU)が2026年8月13日に開始した量子試験インフラの公募は、欧州の試験設備をつなぎ、測定方法と結果の扱いをそろえることを目指しています。公募名は「Quantum-Testing Infrastructure for Quantum Technologies」。10月27日の確認時点では募集中で、締切は11月17日17:00 CETです。新しい量子コンピューターの性能記録ではなく、部品や装置を確かめる共通基盤への投資を求める動きです。
簡単にまとめると?
- EuroHPCは、複数の欧州諸国にある量子試験設備の拡充・連携と、共通の試験方法を整える提案を募集しています。
- 対象は量子プロセッサーだけでなく、センサー、フォトニクス、制御系など。測定結果を設計や製造の改善へ戻す仕組みも含みます。
- 遠隔利用のためのデジタル基盤と、量子状態を伝える通信網は別のものです。公募が求めるのは試験計画・実行・結果報告を支える入口です。
- 現段階は提案募集です。新施設の稼働、認証サービスの完成、国際規格の発行が確認されたわけではありません。
施設の数だけでなく、測り方をつなぐ
今回の公募には、複数国の試験施設を拡充して連携させることに加え、互いに対応できる試験方法、性能比較の手順、認証の手続きを整備することが含まれています。8月14日の公式発表では、この公募の予算を2000万ユーロとしています。これは公募全体の規模であり、一つの施設や利用企業への交付額を示す数字ではありません。
たとえば、開発中の部品を二つの施設で評価したところ、異なる結果が戻ったとします。片方だけが低温で測っていたり、周辺回路や測定時間が違ったりすれば、数値をそのまま並べても優劣は決められません。これは比較の難しさを説明するための仮想例です。どの条件をそろえ、どの違いを記録するかを決めて初めて、結果を次の設計判断に使いやすくなります。
共通の測定基盤は、すべての量子技術を同じ一つの点数へ置き換えることではありません。比較する対象と試験条件を明らかにし、別の施設でも結果の意味をたどれるようにすることです。専門性の異なる施設を一つの窓口へ集めるだけでは、この部分はそろいません。
Qu-Testの経験を、次の試験基盤へ
公募は、Qu-Testの枠組み協定の下で定めた行動計画のうち、試験に関わる部分を実施するよう求めています。Qu-Testは、量子計算・量子通信・量子センシングの三分野を扱ってきた欧州のプロジェクトです。参加機関であるイタリアの計量研究機関INRIMは、13のサービス提供者と11の産業利用者を結び、第三者による評価と、デバイスを特徴づけるパラメーターの共通化を目標に挙げています。
INRIMの掲載する従来プロジェクトの期間は、2023年4月から2026年9月までです。今回の2026年公募とは期間も募集対象も分けて読む必要があります。従来の活動があったことは、今回求められる設備や手順がすべて完成したことの証明にはなりません。
新しい公募の技術的な範囲には、量子プロセッサー、センサー、フォトニクス、制御系が含まれます。研究機関の既存設備に計測・検証の能力を組み込み、技術成熟度の目安であるTRL 4〜7を中心に支える方針です。この範囲は公募の重点を表しており、掲載された各部品が同じ成熟度や認証を既に達成したという意味ではありません。
遠隔利用でつなぐのは、試験の手順と記録
デジタル基盤も公募の対象です。利用者が試験を計画し、遠隔で実行し、結果を受け取れるようにすることが求められています。ここでいう設備の連携を、離れた量子コンピューターを量子通信で結ぶ計画と読み替えることはできません。公募の記述は、試験サービスを使うための連携を指しています。
利用者の立場では、試験を申し込める画面ができるだけでは十分ではありません。たとえば、送る試料の状態、施設側で行う設定、受け取るデータの形式を事前に合わせられれば、結果が出たあとに「この条件では設計と比較できない」と分かる行き違いを減らせます。これは公募の個別実装が確定したという説明ではなく、試験計画から報告までを一続きにする意味を考える例です。
さらに公募は、試験と設計・製造を結ぶフィードバックを求めています。不具合の有無だけを返すのか、条件を変えたときの挙動まで返せるのかで、開発側が次に直せる範囲は変わります。試験を開発の最後に一度だけ行う工程として扱うより、結果を次の試作へ戻せることに価値があります。
「認証を目指す」と「認証済み」を分けて読む
公募では、将来の標準化に沿った認証サービスも期待されています。ただし、共通の試験手順を作ること、標準化機関と調整すること、規格が発行されること、個々の製品が認証されることは、それぞれ別の段階です。この公募だけから、欧州共通の認証が既に使えるとは言えません。
「オープンアクセス」も、条件なしに誰でも直ちに設備を使えるという約束ではありません。ここで確認できるのは、外部利用を可能にする基盤の整備方針と、その提案募集です。新たな設備の利用条件や提供時期は、今後の実施内容として確認する必要があります。
量子部品を開発・調達する側がこの動きを見るときは、施設の所在地や装置名だけでなく、比較できるパラメーター、試験条件の記録、結果の受け渡し方、設計変更への戻し方に注目すると、基盤整備の意味が見えてきます。今回の変化は、量子技術の性能を主張するだけでなく、その性能を他者が確かめ、次の開発へ使える形にする仕組みを整えようとしている点にあります。
出典
- EuroHPC JU, Quantum-Testing Infrastructure for Quantum Technologies。2026年8月13日募集開始、公募番号HORIZON-JU-EUROHPC-2026-QTI-13。技術範囲・期待成果・締切を2026年10月27日に確認。
- EuroHPC JU, Six New Quantum Calls Launched by the EuroHPC Joint Undertaking(2026年8月14日)。量子試験インフラ公募の予算と位置づけ。
- INRIM, Qu-Test。従来プロジェクトの期間、参加構成、三つの試験分野と共通パラメーターの整備方針。
