QED-Cなどが量子産業の供給網を調査、国をまたぐ調達は何を示すか

三つの淡い陶器の島に小さなプリズムや輪が置かれ、桃色とミント色の細い帯でつながる抽象画。国をまたぐ量子技術の部品供給を表現。

量子コンピューターや量子センサーをつくるには、量子を扱う装置だけでなく、レーザー、光学部品、電子回路、冷却設備、材料やソフトウェアが必要です。こうした部品やサービスを、企業はどこから調達しているのでしょうか。

米国のQED-C、欧州のQuIC、Quantum Industry Canada、UKQuantum、日本のQ-STAR、韓国のKQIAは2026年9月、共同報告書「Global Quantum Supply Chain Flows」を公表しました。企業の回答から見えてくるのは、量子産業を支える国境を越えたつながりです。ただし、この調査が数えたのは取引額や部品の個数ではありません。

簡単にまとめると?

  • 2026年3〜4月に実施した調査に、15か国を本拠地とする160社が回答しました。世界の量子産業全体を網羅した統計ではありません。
  • 調達先の国を挙げた146社では、1社当たりの国数の中央値は3でした。ここには自国も含みます。
  • 国をまたぐ関係の広がりは分かりますが、取引金額や、ある部品を代替できるかまでは分かりません。供給網の強さを判断するには、別の情報も必要です。

部品を買う国、製品を売る国、製造する国を分けて聞く

サプライチェーン、つまり製品をつくって届けるまでの供給網は、一つの会社の中だけでは完結しません。例えば量子コンピューターの開発企業が、自国で装置を組み立てながら、レーザーを別の国から調達し、さらに別の国の顧客へ販売する場合があります。調達先、顧客、製造場所は、それぞれ異なる関係です。

今回の調査は、その三つの所在地を国単位で尋ねました。対象は、量子分野の部品やシステムを扱う企業、製造・加工・試験サービスを提供する企業、量子技術へのアクセスをサービスとして提供する企業などです。量子用途以外にも使える部品を含む一方、広く入手できて容易に代替できる汎用品は対象から外しています。研究機関は回答対象に含めていません。

調査は業界団体を通じ、2026年3月から4月に実施されました。三つの所在地の質問のうち少なくとも一つに答えた適格企業が160社です。報告書の公表は9月ですが、回答が示す時点は春であり、その後の調達先の変更まで追った結果ではありません。

「中央値3か国」は、海外3か国という意味ではない

三つの質問には、同じ数の企業が答えたわけではありません。回答を読む際は、国数とともに、それぞれの回答社数を確認する必要があります。

尋ねた所在地 回答した企業 1社当たりの国数の中央値
調達先 146社 3か国
顧客 133社 3か国
製造場所 116社 1か国

報告書3ページの集計を基に整理。国数には自国も含みます。

中央値は、回答した企業を国数の少ない順に並べたときの中央の値です。調達先の中央値3か国は、「典型的な企業が海外3か国から輸入している」という意味ではありません。自国と海外2か国を挙げた企業も、3か国として数えられます。

報告書は、該当する質問の回答企業の90%が少なくとも一つの海外調達先を、74%が少なくとも一つの海外顧客を挙げたとしています。国境を越えた関係が広く存在することを示す割合ですが、「部品の90%を輸入している」「売上の74%が海外」という意味にはなりません。

一方、製造場所の中央値は1か国でした。報告書では、自国だけで製造する企業が多いと説明しています。海外から部品を調達することと、海外に製造拠点を置くことは別です。この二つを混ぜると、供給網のどの部分が国境を越えているのかを見失います。

図の太い線は、大きな取引額を表しているのか

報告書には、企業の本拠地と調達先・顧客の国を線で結んだ図があります。線の太さは、ある本拠地の回答企業のうち、相手国を挙げた企業の数を表します。お金や部品の量を流れとして描いたものではありません。

例えば、ある企業が日本とドイツを調達先として挙げれば、二つの国との関係が記録されます。しかし、日本の1社から買っているのか10社から買っているのか、どちらの国への支払いが大きいのかは、この回答からは分かりません。これは集計の読み方を示す例で、特定企業の実際の取引ではありません。

調達先として挙がった国は全回答を合わせて36か国、顧客の所在地は49か国、製造場所は25か国でした。これらは重複を除いた所在地の広がりです。各国の量子産業の市場規模、技術力、製造能力の順位を示す数字ではありません。

供給網の広がりから、代替のしやすさまでは分からない

部品を複数の国から買っていても、不可欠な一つの部品だけは一社に頼っているかもしれません。逆に、調達先が少なくても、必要なときに切り替えられる部品なら影響は異なります。供給網の広がりと、調達が止まったときの耐えやすさは、同じ指標ではありません。

今回の調査では、相手国ごとの取引先数、具体的な調達品目、取引量を集めていません。そのため、読者が量子装置の調達や開発計画を比較する際には、この報告書で国をまたぐ関係を把握したうえで、必要な部品の仕様、納期、代替候補、試験や再調整にかかる時間を個別に確認する必要があります。国数が多いという理由だけで、供給が安定しているとは判断できません。

回答範囲にも限界があります。中国の企業は招待されず、オーストラリアの業界団体は参加できなかったため、両国に本拠地を置く企業の回答はありません。ただし、他国の企業が挙げた調達先や顧客などの所在地として、両国は集計に現れます。本拠地の回答がないことを、その国に量子産業がないという意味で読んではいけません。

また、回答160社は各業界団体が見積もった適格会員企業の約3分の2に当たるとされていますが、これは世界の量子企業の約3分の2を調べたという主張ではありません。会員を中心とする調査であり、質問ごとの未回答もあります。

国際的なつながりを、具体的な部品の確認へつなげる

この報告書の価値は、「量子産業は国際的だ」という大きな説明を、企業が挙げた調達先・顧客・製造場所に分けて見せた点にあります。装置をつくる国と、その装置を支える部品が届く国は、必ずしも同じではありません。

報告書は、重要な技術を保護しながら必要な調達先へアクセスできる貿易政策を求めています。これは共同作成した団体の提言であり、政府が決めた新しい制度ではありません。また、複数団体による共同報告は一つの調査です。団体の数を、その結論を独立に確かめた調査の数として数えることもできません。

国境を越える線が示すのは、企業同士の関係があるということです。その線の先にどの部品があり、どこが止まると開発に響くのか。今回の調査は、その具体的な確認へ進むための見取り図として読むと役立ちます。

出典