AI用のチップを1台のラックへ高密度に収めると、計算機だけでなく、そこへ電気を届ける部分にも余裕が必要になります。電源装置を増やす場所はあるか。太く重い導体を収められるか。既存の設備からどう移行するか。これらは別々に見えて、つながった設計課題です。
2024年のOCP Global Summitでは、ラックと電源を扱う「Rack & Power」で複数の方式が紹介されました。ここでは、末尾に掲載した締めのセッションに関連するGoogleの±400V DC配電案と、TE Connectivity・Metaの液冷バスバー資料を読み、どこを変える提案なのかを整理します。以下は2024年の発表内容であり、現在の製品仕様や全方式の採用状況を示すものではありません。[1–3]
簡単にまとめると?
- ラックの電力を増やすと、電源装置の占有空間だけでなく、バスバーや接続部の発熱・寸法も制約になります。
- Googleの±400V案は、電源変換と蓄電池を計算用ラックの外へ移し、既存設備との接続を段階的に変える考え方です。
- TE Connectivity・Metaの液冷バスバーは導体を冷やして電流を増やす別のアプローチで、冷却条件や給電位置、安全性の確認が欠かせません。
なぜ電源を増設するだけでは足りないのか
Googleの資料は、チップの消費電力と搭載密度の伸びに、電源や蓄電池の小型化が追いつかない点を挙げています。電源とバックアップ用蓄電池をラック内に増やせば、その分、計算用機器を置く場所が減ります。資料の「100kW超の48Vラック」の説明では、この空間の競合に加え、バスバーの大型化、重量、コネクターの容量、冷却が課題とされています。100kWをあらゆる48Vシステムの一律の上限とする説明ではありません。[2:pp.4–6]
バスバーは、ラック内で大きな電流を運ぶ導体です。同じ電力なら電圧が低いほど必要な電流が増え、同じ抵抗を通る電流が増えるほど発熱も増えます。そのため、電源装置の定格だけを増やしても、導体、接続部、設置スペースがその電力を扱えなければ、ラック全体の容量は増やせません。
Googleの±400V案は、電源の置き場所も変える
±400V DCは、基準となる電位に対して正側が+400V、負側が−400Vとなる直流の構成です。正負の両端間は800Vになりますが、単に0–800Vの2線方式と同じ接続という意味ではありません。Googleの比較では、±400V方式は電力を送るために3線を使い、負荷を均等に配分する制御が必要だとされています。[2:p.8]
狙いは、配電の電圧を上げることで、交流を直流に変えるAC/DC電源と蓄電池を計算用ラックの外へ移せるようにすることです。計算用ラックでは、DC/DC変換器が機器に必要な電圧へ変換します。電源設備と計算用ラックを分ければ、計算用機器のための空間を確保しやすくなります。[2:pp.8–9]
ただし、既存のデータセンターも一度に高電圧直流へ変えられるわけではありません。そこで資料は、既存の416/480V交流を受けるサイドカー電源ラックを、移行手段として示しています。計算用ラックのそばに電源変換を担うラックを置く方式で、施設側のバックアップ構成に応じて蓄電池の有無を選ぶ考え方です。従来の48V機器を使い続けるための400V DC→48V DC変換も、別に必要になります。[2:pp.10–11・17]
この違いを設計上の問いで並べると、次のようになります。資料の構成案を、本記事で整理した表です。
| 方式 | 変える部分 | 残る確認事項 |
|---|---|---|
| ラック内の低電圧配電 | 電源・蓄電池と計算用機器を同じラックに収める | 電源の占有空間、導体・接続部の電流容量 |
| ±400Vサイドカー | AC/DC電源や蓄電池を計算用ラックの外に置く | 床面積、直流の接続・保護、既存48V機器との変換 |
| 施設側からの±400V配電 | 電源変換・バックアップを施設側へまとめる | 建物側の配電、安全、機器互換性、導入・保守 |
ラック内の空間を空けても、サイドカーには床面積が必要です。また、高電圧化すれば、必ずデータセンター全体の効率が大幅に上がるとは限りません。同資料は、ラック内PSU+蓄電池の構成とサイドカーの構成について、ラック配電損失まで含めると端から端までの効率が近くなると説明しています。比較には、変換段数と配電損失を含め、どこからどこまでの効率かをそろえる必要があります。[2:pp.12–14]
TE Connectivity・Metaは、バスバーを液体で冷やす方向も示した
同じ会議で示された別の方法が、ORv3/ORv3 HPR向けの液冷バスバーです。こちらは、導体から熱を取り除いて電流を扱う能力を高める設計で、高電圧配電への変更とは着目点が異なります。資料では温度上昇や電圧降下に加え、重量、交換のしやすさ、冷却液と銅導体の接触を防ぐこと、漏れを防ぐことが設計項目に挙げられています。[3:pp.4–8]
「液冷なら何kWまで使える」と容量だけを読むのは不十分です。資料の容量比較には、ラックの上部と下部に電源を置く条件が付いています。さらに、熱解析と実験は別々に示され、下部から給電する試験と、給電を分ける試験では構成も異なります。導体が同じでも、どこから電流を入れ、どこで負荷へ分けるかによって、温度や電圧降下の確認条件が変わります。[3:pp.9–13]
採用を考える際は、電流容量だけでなく、給電位置、冷却条件、絶縁、漏れ試験を一組で確認する必要があります。液冷バスバーは、既存の液冷設備を活用できる可能性がある一方、電気の設計へ冷却配管とその保守が加わる方式でもあります。[3:pp.4–8・14]
提示された設計と、まだ解くべき課題を分ける
2024年の資料で具体的に示されているのは、電源をラック外へ移す構成、既存機器とつなぐ変換器、液冷バスバーの設計・解析・試験です。これらの提示を、データセンター全体の共通仕様が確定したことや、あらゆる製品同士の互換性が保証されたことと同じには扱えません。
Googleは、直流配電の安全上の課題としてアークフラッシュや接地を挙げ、機器互換性、設計・導入・保守の複雑さと費用も残るとしています。TE Connectivity・Metaの資料は、当時の掲載製品がOCP仕様へのライセンス済み貢献ではないことを注記し、仕様を開発中と説明しています。[2:pp.15・17、3:pp.5–9・14–15]
読者が設備や部品を比べるときの出発点は、まず「計算用ラック内の空間」「配電経路の電流と発熱」「既存設備との接続」のどこが制約になっているかを分けることです。そのうえで、構成案の数値、特定条件の試験結果、採用する製品の保証仕様を区別すると、必要な確認を絞りやすくなります。
元の締めのセッション「Rack & Power Wrap Up」は、次の動画から確認できます。
企業の事業全体については、cyclewaveのAlphabet(Google)の企業解説とMetaの企業解説も参照できます。
参考資料
- Open Compute Project「2024 OCP Global Summit」公式発表一覧、Rack & Power。https://www.opencompute.org/events/ocp-summit/2024-ocp-global-summit//同「Rack & Power Wrap Up」。https://www.youtube.com/watch?v=KlZEtXWDVqQ
- Google「+/-400Vdc Rack for AI/ML Applications」、OCP Global Summit 2024、pp.4–17。https://drive.google.com/file/d/1BCiJ5XJg1bbhF7l_BKvnSzjoUClUdGk2/view
- TE Connectivity・Meta「ORv3 & ORv3 HPR Liquid Cooled Bus Bar Assembly」、OCP Global Summit 2024、pp.4–15。公式一覧の題名は「Beyond ORV3 Hpr Rack Vertical Busbar: Next Gen Rack Busbar Enabling >200Kw AI Racks」。https://drive.google.com/file/d/1x_Jt7FnQws_AA9f9hisC__c8UOE1LFVs/view
