仮想マシンの保存先を二重化していても、サーバーからそこへ届く道が一本しかなければ、その道の故障で読み書きは止まります。ストレージに二つのコントローラーがあることと、利用中の仕事が続くことの間には、いくつかの条件があります。
Synology PAS7700は、二つのコントローラーが同時に働くActive-Active構成のNVMeストレージです。OCP Korea Tech DayでABLESTORのYUNWON HAN氏が紹介した資料を、Synologyの運用ガイドと照らすと、「何を引き継ぎ、どの経路で使い続けるか」が見えてきます。[1][4]
簡単にまとめると?
- PAS7700は、故障した側の保存領域や通信の役割を、もう一方のコントローラーへ引き継ぎます。
- 利用側にも複数の経路と適切な設定が必要で、二重に配線するだけでは十分ではありません。
- 切替中の待ち時間、片側での処理能力、復帰後の状態を確かめ、バックアップは別に備えます。
二つが働いていても、保存領域には担当がある
コントローラーは、サーバーから届く要求を受けてストレージの読み書きを管理する部分です。PAS7700ではDual Poolという保存領域を二つのコントローラーへ分け、ボリュームを作る際に担当を選びます。Active-Activeは、一つのボリュームの全要求を常に半分ずつ処理する、という意味ではありません。[2]
片側が利用できなくなると、保存領域などの管理を相手側へ移します。この切替がfailoverです。元の側が復旧した後、役割を戻して二つが働く状態へ戻す処理をgivebackと呼びます。[3]
たとえば、仮想マシン用の保存領域をA側、別の業務の保存領域をB側が担当する構成を考えます。A側の保守中には、B側が元の仕事に加えてA側の分も受け持ちます。平常時に両方を使い切る設計では、この引き継ぎ先に余裕がありません。最高速度を比べる前に、片側だけになったときに必要な仕事を処理できるかを見る理由です。

保存先の引き継ぎと、そこへ届く経路を分ける
図1では、システムの切替より上に、通信とプロトコルの層が置かれています。保存領域をB側が引き継いでも、利用側がA側への接続しか持たなければ、新しい担当へ要求を届けられないからです。
IPネットワークでは、両側のインターフェースをfailover groupにまとめ、必要なときにサービス用IPアドレスを移せるようにします。一方、ストレージの所有者の移転とIPの移転は、常に一組ではありません。公式ガイドは、ネットワークの問題ならIPだけ、保存領域の問題ならストレージ側だけを切り替える場合も説明しています。[3]
iSCSI、Fibre Channel、NVMe-oFのブロックストレージでは、MPIO(Multipath I/O)が、利用側から保存先への複数の道を扱います。Synologyが挙げる条件は、両コントローラーへの冗長な接続、異なるポートなどを使った複数の接続経路、そしてホスト側でのMPIO有効化と動作方針の確認です。[2]
「ケーブルは二本ある」という見方を、実際の故障へ置き換えてみます。二本とも同じスイッチを通るなら、そのスイッチが止まる場合をカバーできません。違うスイッチを通っていても、ホストが残った道を使える設定になっているかは別に確かめます。試験では、抜いたケーブルの本数ではなく、どの故障を再現し、どの道で読み書きが続いたかを記録すると判断しやすくなります。
自動で再開することと、待ち時間がないことは違う
ファイル共有では、装置の切替後にクライアントが処理を続けられるかも重要です。公式ガイドのSMB更新時の表では、Continuous Availabilityを有効にし、クライアントがpersistent handleに対応している場合、転送は一時停止してから自動再開します。どちらかが欠ける場合は、手動で再開する必要があると説明されています。[2]
ここから読めるのは、「自動再開」と「一度も待たない」を同じにしないことです。仮想マシンやデータベースを評価するなら、ストレージの管理画面が正常に戻った時刻だけでは足りません。アプリケーション側で処理が失敗していないか、待ち時間が許容範囲か、再試行の後もデータが整合しているかまで観察します。
切替時間は負荷、管理対象の数、影響するサービスによって変わると、Synologyは記しています。本記事では固定の秒数を約束する値として扱いません。[3]
「片側で動いた」の次に、元へ戻るところまで見る
片側でサービスが続いている間は、冗長性が元どおりに戻ったわけではありません。公式ガイドでは、復旧したコントローラーへのgivebackは自動で始まり、移行中に性能へ影響する場合があるため、復帰の作業は利用が少ない時間帯に行うよう勧めています。[3]
導入時の試験を「故障を起こして、応答が返った」で終えず、復帰後に負荷が両側へ戻るかまで追うと、運用手順になります。平常時、片側運転、復帰中の三つを同じ負荷で比べれば、可用性のためにどれだけ余裕を残すかも考えやすくなります。これは製品の測定結果ではなく、公開された切替の仕組みから導く評価の進め方です。
二重化で守る範囲と、バックアップで戻す範囲
登壇資料はキャッシュ保護も別の層に置いていますが、その内部同期方式や、書き込み完了を返す時点までは説明していません。図の一項目から、あらゆる電源断で未保存データを失わないと広げて読むことはできません。[1]
また、コントローラーを切り替える仕組みは、誤って消したファイルを過去の状態へ戻す仕組みとは役割が違います。講演も、装置内の可用性とは別に、複製と外部バックアップの構成を示しています。[1]
PAS7700を検討するときは、何が止まっても残したい処理を先に決めます。そのうえで、引き継ぐ保存領域、利用側からの道、片側の処理余力、復帰、過去へ戻す手段を対応させる。Active-Activeという構成名が、実際の仕事を続けられる設計へつながるのは、その条件がそろったときです。
参考資料
2026年10月10日確認。公開登壇資料の全26ページと、Synologyの下記公式ガイドを照合しました。製品の実機試験や講演動画の質疑を行った記事ではありません。ガイドのページ番号はPDFの先頭を1ページと数えています。
- YUNWON HAN(ABLESTOR)「A New Standard for Virtualization Infrastructure: Synology PAS7700」 — OCP公式掲載スライド、全26ページ。構成はpp.9、12、可用性の層はp.19、保護の構成はpp.21–22。
- Synology「PAS7700 Best Practices Guide」 — 2026年9月21日版、全48ページ。Dual Poolとボリュームはpp.15–17、片側運転の余力はpp.25、29、MPIOはp.32、SMB更新時の再開条件はpp.35–36。
- Synology「PAS Failover Guide」 — 2026年5月8日版、全11ページ。切替対象と条件はpp.3–5、復旧と確認はpp.6–7。
- Open Compute Project「2026 OCP Korea Tech Day」 — 演題、登壇者、公式配布資料へのリンク。
