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  • GS CaltexのPG冷却液試験、濃度で変わる冷えやすさと材料の相性

    GS CaltexのPG冷却液試験、濃度で変わる冷えやすさと材料の相性

    液冷の話では、コールドプレートや配管に目が向きます。でも、その中を流れる液体は「よく冷える」だけで選べません。冷却液が少しずつ薄まったり、金属やゴムに触れ続けたりする数年間まで考える必要があります。

    2026年8月のOCP Korea Tech Dayで、GS Caltexはプロピレングリコール(PG)を混ぜた冷却液を取り上げました。PGは水より熱を運ぶ性能が低い一方、凍結や微生物の増殖を抑える助けになります。だから、濃度を下げれば必ず優れる、という単純な話にはなりません。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • PG濃度を下げると熱や流れの面で有利な試験例がありますが、凍結・腐食・微生物への備えも一緒に考えます。
    • 冷却液は材質との相性に加え、使用中の希釈や変質、洗浄・採水・交換まで含めて選びます。
    • GS Caltexの管理下の試験は、実設備の長期寿命や製品認証を保証する結果ではありません。

    冷えやすさと守りやすさの間で

    水は熱容量と熱伝導率に優れ、粘度も低く、流しやすい液体です。PGを加えると凍結に強くなり、微生物が増えにくい条件もつくれます。ただし粘度や熱の運び方は変わり、同じ流路・ポンプ・流量でも温度と圧力損失が違ってきます。発表資料はPG25、PG15、PG10を比較し、薄くするほど熱・流れの面では有利という測定例を示しました。その比較はGS Caltexの試験条件に限ります。[2]

    OCPが9月15日に公開した改訂ガイドラインは、PG25系の液体を、CDUからサーバーのコールドプレートへ至る閉ループで使う場合を主な対象にします。建物側の水系統まで同じ処方でよいという意味ではありません。この文書は推奨の枠組みで、現場の材質や運転条件に合わせて適合性を確かめるよう求めています。発表の後に公開された版なので、8月の講演時点で確定していた仕様として扱うこともできません。[3]

    「入れた時」と「使い続けた後」は違う

    運用中には、洗浄後に残った水や補給水で液が薄まることがあります。異物の混入、温度による変質、腐食防止剤の消耗も重なります。GS Caltexの発表は、この変化を前提に、PG濃度やpHだけでなく、腐食と微生物の両方を追う重要性を示しました。[2]

    同社は複数の金属を使った腐食試験と、3種類の菌を用いた試験結果を載せています。PG10やPG15でも抑制効果が見えたとしていますが、これは同社製品を使った管理下の試験です。配管の材質、表面にできる膜、補給水、運転期間まで含めた実施設備の長期結果ではありません。OCPの改訂ガイドラインも、液体と触れる金属・樹脂・シール材の適合、洗浄、ろ過、採水・分析をまとめて扱っています。[2・3]

    ひとつの数字で安全を決めない

    資料は電気伝導率の低さも強調します。ただ、導電率は添加剤や温度で変わります。OCPの改訂ガイドラインでは、防食剤入りPG液の導電率は主な合否指標ではなく、変化を追う補助的な値として位置づけています。導電率だけで腐食や漏れの安全性を判定することはできません。[2・3]

    温度の試験も読み方が大切です。GS Caltexが示した2台の250W CPUを使う系では、液の入口温度35〜50℃の範囲で測定値を記録しています。これだけで、別のCPU、流量、コールドプレート、室温でも同じ結果になるとは言えません。[2]

    選ぶ時は、液体だけを比べない

    まず冷却ループの範囲を分け、使う金属・樹脂・シール材、必要流量、温度範囲を決める。次に、その液を入れる前の洗浄と、入れた後の採水・補給・交換まで考える。この順番なら「冷えやすい液体」を選んだつもりが、保守しにくい設備をつくってしまうことを避けられます。

    GS Caltexは講演時点で、自社PG25製品がOCP-Inspired認証の手続き中と説明していました。PG10・PG15についても、OCPの標準化はまだだと明記しています。発表を製品の認証や実施設備の寿命保証へ読み替えず、設計と保守の条件を考える材料として使いたいところです。[2]

    冷却液を発表したGS Caltexが、エネルギー事業の中で何を扱う会社なのか。cyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。発表スライドと公開文書を区別して読み、発表者の試験値は実運用の保証とみなしていません。

    1. OCP「2026 OCP Korea Tech Day」 — 開催情報と発表一覧。
    2. WooKyun Synn(GS Caltex)冷却液発表資料 — pp.5–9、13–25。比較・菌・腐食・CPU試験はいずれも同社資料。
    3. OCP「Guidelines for Using Propylene Glycol-Based Heat Transfer Fluids in Liquid Cooled Racks」 — 2026年9月15日公開、Revision 2.0 v1.0.0。8月の講演より後の改訂版。
  • 128TB SSDの事前処理を約12日から約14時間へ――サンディスクの試験例

    128TB SSDの事前処理を約12日から約14時間へ――サンディスクの試験例

    128TBのSSDを一台試すだけで、準備に十数日。容量が大きくなるほど、製品の評価に入る前の時間まで長くなる――。OCP Korea Tech Dayでサンディスクが示したこの例は、大容量SSDの課題が「何TB入るか」だけではないことを教えてくれます。[1・2]

    ここでいう準備は、SSDを所定の状態まで書き込んでから性能や耐久性を測る事前処理(preconditioning)です。まっさらなSSDの一回限りの速さだけでは、データが出入りし続ける現場の性格をつかみにくいからです。

    簡単にまとめると?

    • サンディスクは、128TB SSDの事前処理を約12日から約14時間へ短縮する試験例を示しました。
    • 短くなるのは測定前の準備時間で、SSD自体の読み書きが速くなる話ではありません。
    • 管理情報をNANDへ移すDRAM削減案もあり、読み戻す待ち時間などとの交換条件を評価します。

    容量が増えるほど、試験の入口が遠くなる

    登壇資料では、従来の方法で128TBのSSDを事前処理すると約12日、256TBでは約24日という例が挙げられました。サンディスクは、書き込み方を工夫するオープンソースのSPRandomを使えば、128TBの例で約14時間に短縮できると説明しています。これは同社が提示した試験条件での比較で、すべてのSSDや評価項目で同じ時間になるという意味ではありません。[2・4]

    短くしたいのは「測定前の準備」です。SPRandomを使ったからSSDそのものの読み書きが速くなるわけではありません。試験する側は、事前処理後の書き込み分布が目的の負荷を再現しているか、同じ条件で別の個体にも適用できるかを確かめる必要があります。

    共通の仕様は、比較の土台になる

    OCPのDatacenter NVMe SSD仕様は、複数の事業者が必要とする要件を公開文書としてまとめています。発表で振り返られた現行のv2.7は、既存のNVMe規格に上乗せするデータセンター向けの条件を定めたものです。購入企業が独自に追加する要件もあり、この文書だけで全製品の適合や性能が決まるわけではありません。v2.8は講演時点で「Coming Soon」と記されていました。[2・3]

    仕様を共有すると、評価の入口もそろえやすくなります。実際、発表はMetaとGoogleの公開テスト例にも触れています。ただし、公開されたテストを走らせたことと、特定のシステムで長期に安定して動くことは別です。容量、書き込みパターン、故障時の振る舞いまで、自分の運用条件に引き寄せて読む必要があります。[2・3]

    SSDの中に置く「地図」を見直す

    発表の後半は、もう一つの隠れた費用に目を向けます。SSDのフラッシュ変換層、FTLは、外から見える保存場所とNANDの実際の置き場所を結びつける「地図」です。大容量になるほど地図も大きくなり、従来のようにDRAMへ置くと、装置全体で必要なメモリーが増えます。[2]

    サンディスクは、この管理情報の一部をNAND側へ置く構成を例示しました。24台のSSDを積むモデルでは、SSDあたりのDRAMを32GBから4GBとし、システム全体を864GBから192GBへ抑える計算です。1EBを配備すると約78%減という数字も同じ前提から出ています。設計例の計算であり、どのSSDでも無条件に節約できる値ではありません。NANDへ移せば、管理情報を取り出す待ち時間や書き換えの扱いも評価する必要があります。[2]

    大容量化で確かめるもの

    大きなSSDは、台数や配線を減らせる可能性があります。その一方、事前処理にかかる日数、試験の再現性、FTLの置き場所、メモリーとの交換条件が重要になります。容量の数字を見たあとで「どう確かめ、どう管理するか」へ視線を移す。今回の発表の価値は、その順番を示したところにあります。

    今回のSSD技術を発表したサンディスクの事業全体は、cyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。発表スライドと公開文書を区別して読み、発表者の試験値は実運用の保証とみなしていません。

    1. OCP「2026 OCP Korea Tech Day」 — 開催情報と発表資料一覧。
    2. Ross Stenfort(Sandisk)「Storage: Past, Present, Future」 — pp.3、7、9〜11。12日・14時間とDRAM削減は登壇資料の例。
    3. OCP「Datacenter NVMe SSD Specification Version 2.7」 — 公開仕様の範囲と追加要件。
    4. fio「sprandom.fio」 — 事前処理の公開実装例。
  • 標準ラックの個別設計、LegrandとSemiAnalysisが示す電力・冷却・搬入の条件

    標準ラックの個別設計、LegrandとSemiAnalysisが示す電力・冷却・搬入の条件

    「規格に合うラックを選べば、あとは機器を収めるだけ」。そう考えたくなりますが、高密度のAIシステムでは、その順番で決めると後から無理が出ることがあります。サーバーの幅が合っていても、電源の容量、冷却液の通り道、重い機器を搬入する経路まで、同時に成立しなければ使えません。

    2026年8月のOCP教育ウェビナーで、LegrandとSemiAnalysisは「共通規格」と「現場ごとのラック設計」をどう両立するかを取り上げました。ここでいう個別設計は、標準を捨てることではありません。標準で接続の土台をそろえたうえで、実際の設備に合わせて最後の取り合いを決めることです。[1]

    簡単にまとめると?

    • 共通規格はラックの接続の土台であり、実際の機器と施設に合わせた個別設計も必要です。
    • 電源・冷却・重量・搬入経路を早くから合わせ、寸法が収まるだけで設置可能とは判断しません。
    • 紹介された電流値や監視構成は製品例で、すべてのOCPラックに共通する必須条件ではありません。

    ラックを最後に選ぶと、何がぶつかる?

    資料は、従来なら建物の電力・空調を見て、IT機器を決め、最後にラックと配電ユニットを選ぶ順序だったと整理しています。AI向けの参照設計では、必要な電力密度、バスバーの電圧・電流、冷却液、機器の重さが早い段階で定まります。すると、ラック側で「収まるか」を先に確かめなければ、後から変更しづらくなります。これは登壇者が示した設計上の見方であり、すべての施設で手順が同じという意味ではありません。[1]

    たとえば、建物側の床荷重が足りても、搬入用の扉やエレベーターを通らない幅なら設置できません。電源が足りても、バスバーの許容電流やケーブルの出口に余裕がなければ、安全な接続が難しくなります。液冷のマニホールドやホースの場所は、電源線や保守のための空間とも重なります。資料が挙げるのは、こうした別々に決めると衝突する条件です。[1]

    共通規格は「完成した一台」ではない

    OCPのOpen Rackのような仕様は、取付け寸法や給電の考え方を共有する助けになります。一方、Legrandの資料には、19インチ機器とOCPの機器を混在させる筐体、複数のバスバーを使う筐体、上部や背面からケーブルを通す筐体などが並びます。同じ「OCPを使うラック」でも、何を載せるかで開口部や支持部材の形は変わります。[1]

    同社の製品例では、ラック内のバスバーを400A、700A、1400Aから選ぶ構成も示されています。これはLegrandが紹介する製品の選択肢であり、OCPラックすべての必須電流値ではありません。また、電源棚や配電ユニットの仕様を足し合わせれば、そのままシステム全体の許容電力になるわけでもありません。配線、保護装置、冷却、建物側の供給条件を合わせて確認する必要があります。[1]

    液冷は、配管だけで終わらない

    液冷をラックへ入れると、ホースの通路と漏液時の検知場所が増えます。資料には、温度、湿度、差圧、漏液、扉の状態を監視する例があり、ラックの48Vバスバーから監視装置へ給電する構成も紹介されています。これも一つの製品例です。すべてのラックに同じ数のセンサーや同じ制御装置が要るという説明ではありません。[1]

    設置後の保守も、設計条件です。背面のコネクターに手が届くか、電源系とホースを分けて作業できるか、異常をどの場所のセンサーが捉えたか。筐体の寸法を決める段階でここまで想定すると、交換時に慌てずに済みます。

    先に確認したい五つの境界

    今回の資料から実務の順序を取り出すなら、①搭載する機器の幅と重量、②建物からラックまでの電力とバスバー容量、③冷却液の接続と流路、④ケーブル・ホースの出入り口、⑤監視と保守の作業空間です。資料の図は製品ごとの条件を示すもので、将来の電力方式の比率予測を確定した市場実績としては使えません。[1]

    標準化の価値は、誰が作ってもまったく同じ一台になることではありません。共通の境界を持ちながら、施設と機器がぶつかる部分を早めに見つけられることです。ラックを「箱」として最後に選ぶのではなく、電力・冷却・保守を一緒に受け止める設計として考えると、今回の発表の意味が見えてきます。

    ラックを扱うLegrandの事業全体は、cyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。OCP公式掲載のスライド全31ページを確認。録画は登録が必要で未視聴です。本文は登壇資料の設計例を扱い、将来予測や編集メモが残る比較表の数値は採用していません。

    [1]OCP「Open Standards, Infinite Possibilities」ウェビナー/OCP・Legrand・SemiAnalysis公式掲載スライド。主にpp.7、11–15、19–26、28。

  • Stäubliの液冷QD、配管を外してつなぎ直す方式と交換の条件

    Stäubliの液冷QD、配管を外してつなぎ直す方式と交換の条件

    液冷ラックの接続部は、冷却液を通しているあいだだけ働けばよいわけではありません。サーバーを交換する際には、流路を外して、またつなぐ。その一回ごとに、残液をどう抑えるか、隣の部品に手が届くか、つないだあとに必要な流量を保てるかが問われます。

    2026年のOCP Korea Tech Dayの公式一覧に掲載されたStäubliの資料は、この着脱部品「クイックディスコネクト(QD)」を、手でつなぐ方式と、サーバーの挿入に合わせて接続する方式から見ています。資料のPDFはイベント後の9月1日作成版です。ここでは掲載版の内容を読み、開催当日の発言とは分けて扱います。[1]

    簡単にまとめると?

    • 液冷QDは、冷却中の流れやすさだけでなく、外した際の残液や繰り返し着脱の条件も確かめる部品です。
    • 手動接続とブラインドメイトでは作業方法が変わり、後者は位置ずれや挿入力もラック側と合わせて設計します。
    • UQDで接続形状が共通でも、異なるメーカーの部品は実際の冷却液や使用条件で組合せ確認が必要です。

    外すときも、流路を守る

    QDは、冷却液の配管を工具なしで切り離し、つなぎ直すための接続部です。中に弁を持つタイプなら、外したときに両側の流路を閉じられます。ただし「漏れを抑える」と「液体が一滴も残らない」は同じではありません。接続面に残る液、弁を動かす力、何度着脱できるかは、形状と試験条件で変わります。[1・2]

    もう一つは流れにくさです。同じ流量を通す場合、QDでの圧力損失が大きいほどポンプや流路設計に余裕が必要になります。最大流量の表示だけを見ず、使う冷却液の種類、温度、圧力、必要流量の組合せで選ぶ必要があります。OCPのUQD仕様も、流量、温度、圧力、着脱時の残液量などを評価項目に挙げています。[1・2]

    手でつなぐか、差し込む動きでつなぐか

    手動接続は、作業者が接続部を見て、位置を合わせて着脱します。ホースを使えば部品の取り回しには柔軟さが出ますが、その分だけホースや継ぎ目が場所を取り、確認箇所も増えます。

    ブラインドメイトは、サーバーなどをラックへ押し込む動きで接続する方式です。奥に手を入れる工程を減らせる一方、差し込む側と受ける側の位置がずれると、つながりません。だから製品の寸法だけでなく、ラックのガイド、許容される位置ずれ、差し込む力を一緒に設計します。Stäubliの資料はこの二方式の長所と条件を並べています。[1]

    OCPのMGXラック仕様に示された一例では、トレー側にUQD-04の挿入部、ラックのマニホールド側にUQDB-04の受け部を置き、位置ずれを吸収する仕組みを組み合わせます。これは特定の規格構成例であり、あらゆるラックや冷却液で同じ部品をそのまま使える、という意味ではありません。[3]

    「共通の形」だけでは交換しやすくならない

    以前はメーカーごとに接続形状が違い、片側だけを別会社のものへ替えにくい問題がありました。OCPのUQDは接続面の寸法と性能項目をそろえ、同じ呼び径の部品を複数社から選べる土台を作ります。Stäubliの資料も、供給元を増やすことを標準化の利点として挙げています。[1・2]

    ただし、共通形状は実際の組合せ試験を省ける証明書ではありません。シール材が冷却液に合うか、繰り返し着脱しても残液と圧力損失が許容範囲か、製造公差の重なりで接続が固くならないか。異なるメーカーの部品を組み合わせるなら、使用条件での確認が欠かせません。資料自身も「相互互換は可能だが検証が必要」と区別しています。[1・2]

    保守まで含めて接続部を選ぶ

    選定の順序は、まず冷却液と必要な流量・圧力・温度を決め、次に手動かブラインドメイトかを考え、最後に着脱の頻度、作業空間、調達先の組合せを試すことです。Stäubliが資料の結びに並べた条件も、製品名だけでは選べないことを示しています。[1]

    液冷の接続は、主役として目立つ部品ではありません。それでも、交換時に止まる時間や、冷却液を安全に循環させ続けられるかを左右します。冷やす性能と同じくらい、外して、戻して、また使える設計を見ておきたいところです。

    液冷の接続部を扱うStäubliが、ほかにどんな産業機器を手がけているのか。事業全体はcyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。OCP公式掲載PDF全27ページを確認。PDFの作成日は2026年9月1日で、8月21日の配布版と同一かは未確認です。講演動画・質疑は根拠に含めていません。

    [1]OCP「2026 OCP Korea Tech Day」発表一覧/Stäubli「Post liquid cooling connectivity for AI & HPC infrastructure (QD)」公式掲載PDF。主にpp.8–10、13–20、25。

    [2]Open Compute Project「Universal Quick Disconnect (UQD) Specification, Rev. 1.0」。手動接続の接続面と性能項目。

    [3]Open Compute Project「MGX Accelerated Computing Rack and Trays Specification, Rev. 1.1」。§10.1の液冷ブラインドメイト構成例。

  • Cooler MasterのCDU流路モデル、フィルター詰まりと気泡で冷却はどう変わるか

    Cooler MasterのCDU流路モデル、フィルター詰まりと気泡で冷却はどう変わるか

    液冷の配管で、水や冷却液が流れている。ポンプの表示も正常。それでも、チップの温度に余裕がなくなることがあります。流れの途中にあるフィルターや配管の細くなる場所が、少しずつ条件を変えているかもしれません。

    OCP APAC Summit 2026でCooler MasterのRay Hsieh氏は、フィルターの詰まりと、縮径部での気泡を一つの設計課題として取り上げました。どちらも冷却液を動かすために使える圧力の余裕に関係します。発表の試算を、運用中に何を測り、どう判断するかの手がかりとして読みます。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • フィルターの詰まりは、差圧だけでなく流量やチップ温度の余裕と合わせて判断します。
    • 急な縮径は局所的な圧力低下を招き、条件によって気泡やキャビテーションにつながります。
    • 資料の境界値は説明用の例であり、実際の流路モデルと計測に合わせて判断する必要があります。

    CDUは、二つの水路を分けている

    液体対液体のCDUでは、建物側の水と、チップを冷やす機器側の冷却液が熱交換器を挟んで流れます。熱は移しても液体は混ぜません。機器側にはポンプ、フィルター、分配管、コールドプレートがあります。フィルターは細い流路や継手へ異物が届くのを防ぐ一方、自身も流れの抵抗になります。OCPのCDU試験方法も、フィルターを流路制限と部品損傷から守る工程として扱います。[2・3]

    フィルターの差圧だけでは、交換時期を決めにくい

    フィルターに汚れがたまると、前後の圧力差が増えます。そこでポンプが回転を上げ、設定した差圧を保とうとする制御もあります。ただ、発表者の流路モデルでは、その補償をしてもコールドプレートへ届く流量が下がりました。ポンプの制御位置や配管構成によって結果は変わるため、すべてのCDUで同じ動きになると考えるべきではありません。[2]

    大切なのは、フィルター単体の差圧を、冷却の結果へつなげることです。流量が減れば、コールドプレートの熱抵抗や、チップ温度の余裕が変わります。発表のグラフでは、汚れの進行に応じて温度余裕が減る例が示されていますが、交換点を決める温度の数値は説明用のモデルです。別の設備へそのまま持ち込む値ではありません。

    現場では、フィルター前後の差圧だけでなく、流量、ポンプの回転数と電力、冷却液の温度、供給側と戻り側の温度を合わせて見る。差圧を流量や粘度の変化から切り分ければ、フィルターの詰まりが本当に進んでいるのか、見分けやすくなります。OCPのProject Deschutes仕様にも、温度・圧力・流量・ポンプの回転と電力を監視する項目があります。[2・4]

    配管が細くなる場所では、別の余裕が減る

    配管の径を急に細くすると、同じ流量を通すために液体は速く進みます。速くなる場所では局所的な静圧が下がり、溶け込んでいた気体が泡になったり、条件が厳しければ液体そのものが蒸発するキャビテーションにつながったりします。発表者は前者を、温かい冷却液で先に検討すべき現象として挙げています。ただし、発生の順序は溶存ガス量、温度、圧力、液体の種類で変わります。[2]

    気泡ができると、配管の高い場所へ集まり、ポンプの音や流量の揺れ、コールドプレートの熱の運び方に影響しえます。発表資料は、急な縮径より緩やかな形状を選ぶこと、充填時に空気を抜くこと、圧力が低くなる場所を確認することを勧めています。これは安全を保証する寸法の一覧ではなく、図面から点検を始める順序です。

    まず一本の流路として計算し、実測で確かめる

    発表者の提案は、ポンプの特性曲線、配管やフィルターの抵抗、冷却液の温度を一つの流路モデルに置き、詰まりと縮径の両方を試算するものです。最初から複雑な流体シミュレーションへ進むのではなく、通常の運転点をメーカーの曲線と実測で合わせ、そこから温度と局所圧力の余裕を見ます。必要な場所だけ詳細な解析へ進む。資料の5℃や20%といった境界値は、この進め方を説明する例示であり、共通の運用基準ではありません。[2]

    フィルターの交換を急ぐべきか、泡が生まれやすい継手を直すべきか。二つを別々の警報として見るより、流れ・温度・圧力を一緒に追うほうが、冷却の余力がどこで失われているかをつかめます。液冷の能力を長く保つには、設計時の余裕と、運転後の測り方をつなげることが欠かせません。

    Cooler Masterの事業全体と収益のしくみは、cyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。本文は公開スライドとOCPの一次資料をもとにしています。講演動画の発言・質疑は確認対象に含めていません。スライドの数値や図は発表者の例示モデルを含み、個別CDUの保証値ではありません。

    [1]Open Compute Project:2026 OCP APAC Summit 発表一覧。発表名・登壇者。

    [2]Ray Hsieh「CDU Filter Health & Reducer-Induced Bubble Formation」公式掲載スライド。pp.3–16、流路モデル、センサー、縮径部と気泡、運用手順。

    [3]Open Compute Project:Liquid-to-Liquid CDU Test Methodology & Performance Rating。2024年8月、フィルターの役割・保守。

    [4]Open Compute Project:Project Deschutes Data Center Facilities Specification。2025年7月、フィルターと監視項目の設計例。

  • Broadcomが示すCPO、光をスイッチのそばへ置く理由

    Broadcomが示すCPO、光をスイッチのそばへ置く理由

    AIの計算機を大きくすると、チップを増やすだけでは済みません。離れたチップへデータを渡す線も増え、その線が使う電力や、途中で止まる可能性が効いてきます。光ファイバーは距離を伸ばしやすい一方、光と電気を変換する装置をどこに置くかが設計の分かれ目です。

    OCP APAC Summit 2026でBroadcomのBhaskar Chinni氏が紹介したCPOは、光を電気信号の出発点に近づける方法です。発表はスイッチの実装からラック間の接続へ話を広げています。ここでは、SUE-Tのような通信手順ではなく、光の変換部を置く場所と、そこから生まれる利点・保守上の課題を見ます。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • CPOは光へ変換する部分をスイッチの半導体へ近づけ、高速な電気配線を短くする設計です。
    • 省電力や接続の安定性の結果は、評価した部分・構成・環境に限って読む必要があります。
    • 交換可能な光源と光エンジンは別で、接続配置と保守の単位を合わせて考えます。

    光の変換部を、どこへ置くか

    一般的な着脱式の光モジュールでは、スイッチの半導体から出た高速の電気信号が基板を通り、前面のモジュールで光に変わります。CPO(Co-Packaged Optics)では、光に変える小さなエンジンを、スイッチの半導体と同じパッケージの近くに収めます。基板を走る高速の電気信号を短くできるのが狙いです。[2・3]

    発表の図には、光エンジンを基板上に置く方式も並びます。こちらは半導体の近くには置けますが、同じパッケージに収めるCPOとは別の配置です。「光を使う」だけで一括りにせず、電気で進む区間がどれほど残るかを比べると、設計の違いが見えてきます。

    省電力の数字は、どこを比べている?

    Broadcomの資料は、同社CPO構成の光学部分の電力が、信号を整える回路を持つ着脱式モジュールとの比較で65%少ないという結果を示します。これは特定の比較条件における光学部分の値です。スイッチ全体やデータセンター全体の消費電力が65%減る、という意味ではありません。[2・4]

    変換部を近づけると、長い電気配線を補う回路を減らせる余地があります。ただし、実際の電力は光源、冷却、接続距離、採用する信号方式にも左右されます。比較表を読むなら、モジュールだけの値なのか、スイッチや冷却を含む値なのか、境界を先に確かめたいところです。

    止まりにくさにも、測った範囲がある

    資料はMetaの評価を引き、400Gbps相当ポートの稼働時間を合計した100万ポート時間で、短い接続断であるリンクフラップを観測しなかったと示します。複数のポートの時間を積み上げた数値であり、一本の接続が100万時間動き続けたという意味ではありません。測定対象もBroadcomの特定世代・環境です。すべてのCPO製品で同じ故障率を保証するデータではありません。[2・4]

    この違いは保守でも重要です。前面の光モジュールなら、故障した単位を抜いて交換できます。CPOでは光エンジンが半導体のパッケージに近いため、交換の単位が大きくなりやすい。Broadcomは外付けで交換可能な光源や、ラック側のブラインドメイト接続も示しますが、光源を交換できることと、光エンジンそのものを現場で交換できることは別です。

    ラックの外まで光を伸ばすとき

    発表後半は、銅線で届く範囲に計算機を集める構成から、光で複数のラックをつなぐ構成へ進みます。OCI-MSAの公開仕様には、NRZ信号を複数の波長に分け、一つのファイバーで双方向に運ぶ物理層が記されています。これは接続の土台をそろえる試みです。仕様書があることだけで、異なるメーカーの完成品すべてが接続できると確認されたわけではありません。[2・5]

    Broadcomが描くラック例には、光ファイバーの分岐、電源のバスバー、液冷の出入口、着脱時に位置を合わせてつなぐ光コネクターが同居します。光へ置き換えて終わりではなく、電気、熱、交換作業まで含めてラックを組み直す発想です。図は設計例として読み、掲載された規模を稼働中の導入実績とは扱いません。

    CPOが問いかけるのは、光が銅より常に優れているか、という単純な比較ではありません。速い電気信号をどこまで運び、どこで光に変え、故障したときに何を交換するか。距離と電力、保守の境界を一緒に決めることが、次のAIネットワークの設計につながります。

    Broadcomの事業全体と収益のしくみは、cyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。本文は公開スライドと各団体の一次資料をもとにしています。講演動画の発言・質疑は確認対象に含めていません。性能値は記載された構成・測定範囲に限ります。

    [1]Open Compute Project:2026 OCP APAC Summit 発表一覧。発表名・登壇者。

    [2]Bhaskar Chinni「Open Ethernet AI Fabrics Enabled by Co-Packaged Optics」公式掲載スライド。pp.3–12、配置、省電力・評価値、OCI-MSA、ラック構成例。

    [3]Broadcom:Co-Packaged Optics。着脱式、基板上、同一パッケージの配置と電気信号区間の説明。

    [4]Broadcom:MetaでのCPO評価に関する発表。2025年10月1日。光学電力の比較と100万ポート時間の観測範囲。

    [5]OCI-MSA:200G Optical Compute Interconnect Line Interface Specification v1.0。2026年3月11日。NRZ、波長分割、双方向ファイバーの物理層。

  • バーミンガム大学のRDHx設計比較、PG25でラック背面を冷やす流路

    バーミンガム大学のRDHx設計比較、PG25でラック背面を冷やす流路

    ラックの背面に熱交換器を置き、サーバーの排気から冷却液へ熱を移す。これがリアドア熱交換器(RDHx)です。冷却の仕組みは分かりやすくても、その内部で液体が通る細い流路をどう作るかは、簡単には決まりません。[1]

    2026年8月のOCP Korea Tech Dayで、バーミンガム大学のXizhi Song氏らは、プロピレングリコールを約25%含む水系冷却液「PG25」を使ったRDHxの設計を取り上げました。焦点は、熱を十分に運びながら、ポンプやファンに余計な力を使わせないことです。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • PG25を使うラック背面熱交換器では、水用の流路がそのまま最適になるとは限りません。
    • 流路やフィンは熱の取りやすさだけでなく、液体・空気両側の圧力損失と補機電力を合わせて比べます。
    • プレートフィン案の利点は特定条件での設計比較であり、完成品全体や長期使用の検証が残っています。

    水と同じ流路を、そのまま使えるとは限らない

    PG25は、この資料で比べた水より粘度が高くなります。資料に載る市販冷却液の一例では、20℃の粘度はPG25が2.84mPa・s、水が1.00mPa・sでした。これはPG25という名前の全製品に共通する値ではなく、配合や温度でも変わります。粘りが増すと、特に狭い流路で液体を押し流す負担が大きくなります。水用に都合のよかった形が、PG25でも最適とは限らないのです。[1]

    資料は、冷却液を通す道として、押し出した平たい管の内部に複数の孔を設ける方式と、フィンや薄板を重ねて流路を作るプレートフィン方式を比較します。どちらも形の名前だけで優劣は決まりません。流路の幅と高さ、並列に何本通せるか、流れの長さを同じ条件で組み直して初めて比べられます。[1]

    熱を取りやすい形は、流れやすい形とは限らない

    フィンの形を変えると、冷却液との熱の受け渡し方も、流路の抵抗も変わります。熱伝達を強くする指標だけを追えば、液体を送るための圧力や電力が増えるかもしれません。資料が複数のフィン形状を並べたのは、熱の取りやすさと圧力損失を一緒に見るためです。[1]

    15kWの放熱を目標にした資料中の設計比較では、外形、空気と冷却液の流量、入口温度をそろえています。熱を運ぶ量は両案とも約15kW。一方、冷却液がコア内部を通る際の圧力損失は、比較対象の約2.0kPaに対し、選ばれたプレートフィン案が0.74kPaでした。空気側の圧力損失は235.7Paに対して約242Paと、わずかに増えています。差を生んだのは方式の呼び名ではなく、フィンと流路の組み直しだと資料は説明します。この値は一つの設計条件での比較であり、RDHx全般の性能保証ではありません。[1]

    最後はポンプとファンを合わせて考える

    液体側だけの圧力損失が小さくても、空気側の流れを妨げればファンの電力が増えます。必要な熱を取り切れること、空気と液体の両方が流れやすいこと、ポンプとファンを合わせた補機電力が低いこと。この順で見ると、熱交換器の「よさ」を一つの数値に押し込まずに済みます。[1]

    まだ確かめることもあります。コアの入口・出口やヘッダーでの損失、流れの偏り、ろう付けの品質、腐食や漏れ、長期の清浄性です。資料は、流路の一部だけを計算するCFDから、層、コア全体、試作へと検証を広げる必要を示します。小さな計算領域で有利でも、完成した熱交換器が有利とは言い切れません。[1]

    PG25を使うRDHxでは、「細い流路で熱をよく取る」だけでは足りません。冷却液を無理なく流し、排気も通し、必要な熱量を運ぶ。その全体をそろえて、初めて良い設計になります。今回の発表は、プレートフィンを万能の答えにするものではなく、形を比較する順序を示したものとして読むと役立ちます。

    参考資料

    2026年9月23日確認。比較値は発表資料内の設計条件に限ります。講演動画の発言や質疑応答は根拠に含めていません。

    [1]Xizhi Songほか「Thermal-Hydraulic Design of PG25-Cooled RDHx Cores」OCP公式掲載スライド(16頁。構造はpp.2–6、液体の性質と流路はpp.7–10、比較と検証はpp.11–14)。

    [2]Open Compute Project「2026 OCP Korea Tech Day」発表一覧(開催日・登壇者と資料掲載)。

  • FADUが示すKVキャッシュ階層化、再計算と読み戻しの速さを比べる

    FADUが示すKVキャッシュ階層化、再計算と読み戻しの速さを比べる

    長い会話を続けるAIでは、次の一語を出すたびに、少し前の文脈を参照します。そのための中間状態がKVキャッシュです。会話が増えれば、この状態も増えます。GPUの速いメモリーにすべてを置けないとき、何を外へ出し、いつ戻すのでしょうか。

    OCP Korea Tech DayでFADUのAndy Kim氏が示したのは、GPUのHBM、CPUのDRAM、サーバー内のNVMe SSD、共有ストレージを一続きの階層として考える方法です。発表資料は性能を実測した完成構成の報告ではなく、公開されている推論ソフトウェアや他社の構想を踏まえた設計の見取り図です。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • KVキャッシュは文脈の再計算を省く中間状態で、時間を節約する代わりにメモリーを使います。
    • 外に保存したKVの再利用が有利なのは、読み戻しと調整が再計算より速い場合です。
    • FADUの資料はGPUメモリーから共有ストレージまでの設計構想で、完成構成の実測報告ではありません。

    会話が伸びると、何が増えるのか

    最初に入力文を読む段階をprefill、続けて一語ずつ生成する段階をdecodeと呼びます。prefillで作ったKVキャッシュを、decodeは使いながら増やします。キャッシュがなければ同じ文脈の計算をやり直すことになるため、保存は時間を節約します。その代わり、メモリーを使います。[2]

    発表資料の計算例では、特定の32Bモデル、FP16、3万2千トークンの文脈を仮定すると、1系列のKVが約8GiBになります。同じ長さを8系列同時に扱う単純計算では約64GiBです。これはそのモデルと精度を置いた概算で、すべてのモデルに共通する容量ではありません。量子化や共有、キャッシュ管理の仕方で変わります。[2]

    保存が得になるのは、読み戻すほうが速いとき

    同じシステムの指示文や同じ資料が、別の質問でも繰り返し使われることがあります。その先頭部分に対応するKVを残しておけば、次の要求では同じ部分のprefillを省けます。ただし、遠くに保存したものを探し、運び、GPUで再び使える形にする時間が必要です。[2]

    発表が示す判断はシンプルです。「読み戻しと調整にかかる時間」が「もう一度計算する時間」より短いとき、再利用が有利になります。短い入力や遅い転送経路では、保存したほうが必ず速いとは限りません。GPUメモリーの節約量だけでなく、最初の一語までの時間や、一語ずつ出る間隔も合わせて測る必要があります。[2]

    GPUの外へ出すための二つの仕組み

    資料は、推論エンジンvLLMと、KVの外部保存を支えるLMCacheを例にしています。vLLMは文脈を小さなブロックで管理し、同じ先頭部分に対応する完成済みブロックを見つけると再利用します。KV Connectorは、別の実行環境や外部の保存先とKVをやりとりするための接点です。ブロックの一致判定と、外への転送は別の仕事です。[2・3]

    LMCacheの説明では、GPU側のブロックを外部キャッシュ用のchunkにまとめ、CPUメモリーやローカルSSDなどへ置きます。資料に出る256トークンのchunkは設定例で、固定の単位ではありません。また、chunkの容量もモデルやKVの精度によって変わります。保存先を増やすだけでは速くならず、どのchunkを残し、どれを先に読み込むかが重要です。[2・4]

    共有ストレージは「すぐ使えるGPUメモリー」ではない

    一台のサーバー内に置いたKVは近くて取り出しやすい一方、別のサーバーとの再利用範囲は狭くなります。共有の層へ広げれば多くの要求で使い回せる余地が生まれますが、転送と位置管理は難しくなります。prefillとdecodeを別のworker群に分ける場合には、KVの受け渡しそのものが要求の経路に加わります。[2]

    発表はNVIDIAのCMXを、GPUメモリーと汎用共有ストレージの間に置くG3.5という構想例として紹介しています。CMXはNVIDIAが公表した別の仕組みで、FADUの製品ではありません。発表資料も、NVIDIAの性能主張や内部実装をこの発表で検証したものではないと断っています。SSD上のKVをdecode前に近い層へ移すという考え方は参考になりますが、効果は実際の転送経路と負荷で確かめる必要があります。[2・5]

    KVキャッシュは、AIが覚えた知識そのものではなく、特定のモデルが再計算を省くために持つ中間状態です。速く続けたい会話には近い層を、繰り返し使う文脈には共有できる層を選ぶ。その境目は、容量だけでなく再計算と読み戻しのどちらが早いかで決まります。

    発表したFADUが企業として手がける事業は、cyclewaveの企業記事にまとめています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。本文はOCP公式掲載の9ページのスライドと、資料中で参照される各プロジェクトの公式文書を照合しています。スライドの表紙には「PREVIEW」とあり、講演中の実測や質疑応答は根拠に含めていません。

    1. Open Compute Project「2026 OCP Korea Tech Day」 — 登壇情報と公式資料へのリンク。
    2. Andy Kim(FADU)「KV Cache Tiering for LLM Inference: From GPU Memory to Shared Storage」 — pp.2–8。計算例・再利用条件・階層構成。
    3. vLLM「Automatic Prefix Caching」 — 完成済みブロックの識別と再利用。
    4. LMCache「Configuring LMCache」 — chunk sizeが設定可能であること。
    5. NVIDIA「Introducing NVIDIA BlueField-4-Powered CMX Context Memory Storage Platform」 — NVIDIA側のCMX構想。発表者自身の測定結果ではない。
  • FADUが示すAI向けSSDの要件、容量・待ち時間・共有を分けて選ぶ

    FADUが示すAI向けSSDの要件、容量・待ち時間・共有を分けて選ぶ

    AIサーバーの保存先を考えるとき、まず「SSDを何テラバイト積めるか」に目が向きます。でも、同じSSDでも、生成中の文脈を素早く取り出す場所と、学習用の大量の資料を置く場所では、求められる性格が違います。

    2026年8月のOCP Korea Tech Dayで、FADUのAndy Kim氏は、フラッシュメモリーがAIデータセンターで担う役割を三つに分け、SSDコントローラーに必要な設計を示しました。発表は製品の性能保証ではなく、これからの負荷をどう捉えるかという提案として読むと、ストレージ選びの見通しがよくなります。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • AI向けSSDは、メモリーに近い層・性能を重視する層・容量を担う層で、求める役割が異なります。
    • 容量や転送量だけでなく、小さな読み出し、遅延のばらつき、共有時の性能を確認します。
    • FADUが挙げたコントローラー要件は設計上の要求で、全製品の達成を示す試験結果ではありません。

    GPUのメモリーとSSDの間にある悩み

    文章を一語ずつ生成するAIは、それまでに読んだ文脈から計算した中間状態、KVキャッシュを使います。会話が長くなり、同時に応じる利用者が増えると、その置き場所が大きくなります。GPU上のHBMは速い一方、容量と費用には限りがあります。発表は、このギャップにフラッシュをもっと近づける構想を描いています。[2]

    ここで、SSDをHBMと同じように読めると考えるのは早計です。生成のたびにすぐ使うKVは、GPUの近くに戻す時間まで含めて設計する必要があります。資料にある「モジュール上の高帯域フラッシュ、ラック内のNVMe、列に置く大容量QLC」という三段の図も、発表者が確立済みではない一つの方向と明記したものです。[2]

    一つのSSDに、三つの仕事を押しつけない

    発表では、AI向けSSDの役割を「メモリー」「性能」「容量」に分けています。メモリーに近い層は、文脈やKVを取り出すときの待ち時間が大切です。性能を重視する層は、頻繁に使うデータやメタデータを小刻みに読みます。容量を担う層は、資料群や使用頻度の低い状態を、無理のない費用で保管します。[2]

    三つは同じ容量の単位で比べられても、評価したい数字は違います。毎秒に運べる量だけでは足りず、小さな読み出しをどれだけさばけるか、遅い時にどこまで遅くなるか、利用者が同時に増えた時に速度を保てるかも見ます。大容量向けのSSDを、活発に読み書きする層へそのまま当てはめると、容量は足りても待ち時間が合わないことがあります。

    性能の裏側にいるコントローラー

    SSDにはデータを保存するNANDと、その読み書き、配置、エラー訂正、他の機器との通信を調整するコントローラーがあります。発表がとくに強調するのは、AI向けの要求をこのコントローラーでどう受け止めるかです。[2・3]

    挙げられた要件は五つ。512バイト〜4キロバイト程度の小さなI/Oを数多く処理すること、平均ではなく遅延のばらつきを抑えること、ペタバイト級でも管理用DRAMを容量に比例して増やさないこと、GPUが起点となるI/Oの経路を効率化すること、複数利用者の性能と安全性を分けることです。これらは設計上の要求であって、登壇した企業のすべての製品が五項目を達成したという試験結果ではありません。[2]

    たとえば、小さな読み出しを増やすほど、NAND自体の速さだけでなく、要求を振り分ける制御や管理情報の扱いが効いてきます。逆に、巨大な資料を順に読む仕事では、一度に運べる量と容量あたりの費用が重要になります。「AI用SSD」という一つの名前にまとめず、何を置き、いつ取り出すかから考える理由がここにあります。

    選ぶ基準は、保存量から仕事の種類へ

    FADUは講演でPCIe 6.0世代のコントローラーも紹介しています。ただし、その発表値をSSD完成品の消費電力や、あらゆるAI負荷での実測値へ読み替えることはできません。必要なのは最高値だけでなく、対象のデータ量、読み出しの粒度、遅延のばらつき、書き換えの頻度を合わせて見ることです。[2・3]

    SSDの役割が増えるほど、コントローラーは「速くする部品」から、容量・待ち時間・共有の条件を整える部品へ近づきます。GPUのそばに置くものと、長く保管するものを分けて考える。今回の資料は、その設計の出発点を示しています。

    SSDコントローラーを手がけるFADUの事業全体は、cyclewaveの企業記事で扱っています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。本文は公式掲載スライドの全9ページをもとにし、動画の発言や質疑応答は根拠に含めていません。

    1. Open Compute Project「2026 OCP Korea Tech Day」 — 発表一覧と登壇者。
    2. Andy Kim(FADU)「Flash in the AI Datacenter: New Roles and Requirements for SSDs and Controllers」 — 特にpp.2–8。p.5の三層図は提案。
    3. FADU 2026年半期報告書 — II-1、II-2。SSDコントローラーと完成品の区別。
  • Broadcomが解説するSUE-TとESUN、AIチップと通信網の役割分担

    Broadcomが解説するSUE-TとESUN、AIチップと通信網の役割分担

    AIチップ同士をEthernetでつなぐ、と聞くと、スイッチやケーブルを思い浮かべるかもしれません。でも、電気信号が届くだけでは、相手のチップがどのデータを読もうとしたのかまでは伝わりません。近くにあるチップ同士でも、通信には「運ぶ」仕事と「意味をそろえる」仕事があります。

    OCP Korea Tech Day 2026でBroadcomのChintan Shah氏が示した図には、「ESUN」と「SUE-T」という二つの名前が並びます。ESUNはEthernet側の運び方、SUE-Tは主にチップの端で操作を扱う方法。まずそう捉えると、図を読みやすくなります。ただし両者の境界は、きれいな一枚の線では切れません。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • ESUNは、低遅延でパケットを運ぶEthernet側の仕組みを扱います。
    • SUE-Tは、チップの読み書きなどの操作を通信へ写し、順序や再送を扱う端点側の要件を検討しています。
    • 両者はネットワークヘッダーで役割が重なり、同じ完成段階の一つの仕様として扱うことはできません。

    ESUNは、隣へパケットを届ける側

    発表資料でESUNが扱うのは、低遅延でパケットを届けるためのEthernet側の工夫です。短くしたヘッダー、リンク単位の再送(LLR)、混雑時に送信量を調整する仕組みなどが挙げられています。流量制御の例は、IEEEのPFCか、クレジットを使う方式です。二つを必ず同時に使う、という説明ではありません。[2]

    資料の構成例は、一つのスイッチを通り、複数の経路を並べて帯域を確保します。この場合、リンクで問題が起きたときの再送を、その近くで扱えます。一方、発表者は、より大きな領域へは複数ホップのEthernetも使えるとしています。ESUNを「単ホップしか認めない仕組み」と読むのは正確ではありません。[2]

    ESUN側では、ネットワーク運用者向けの基礎要件をまとめた1.0仕様が2026年3月に公開されています。そこで扱うネットワークの要件と、チップ内部を含む端点の設計を、同じ完成段階の一つの仕様と考えないことも大切です。[5]

    SUE-Tは、チップの操作を通信へ結びつける側

    チップが「このデータを読む」「ここへ書く」といった操作を出すと、それをEthernetのパケットへ写し、受け取った側で元の操作につなぎ直す必要があります。操作を小さな単位で送るか、いくつかまとめるか。届く順番をどう守るか。失敗したときにどこで再送するか。こうした端点側の要件を検討しているのが、OCPのSUE-Tワークストリームです。対象には計算チップだけでなく、ネットワークカードも含まれます。[2・3]

    すべてのチップが同じ内部構造を持つ必要はありません。資料は、データを押し出すか取りに行くか、操作をどう詰めるか、どの単位で順番を保証するか、といった選択をチップ開発者に残す考え方を示します。同一のラックに同種のチップを置く想定では、異なるメーカーのチップ同士を直接相互運用させることを必須条件にしていません。開かれた通信の検討と、チップ内部の設計自由度を両立させようとしているわけです。[2]

    二つの境目は、共同で設計する

    スライドの図をよく見ると、SUE-Tの赤い点線とESUNの青い点線は、ネットワークヘッダーのところで重なっています。端点が付ける情報と、Ethernet側が運ぶ情報の合わせ目だからです。ESUNが下、SUE-Tが上とだけ覚えると、この接点を見落とします。どんな情報をパケットへ載せ、スイッチや相手の端点がどう扱うかは、一続きの設計です。[2]

    同社のAPAC発表でも、SUE-Tが検討する操作の詰め方や順番が説明されました。今回のKorea資料はその技術説明をほぼ共有しており、新しい性能値を別に示した資料ではありません。この回では、運ぶ網と操作を扱う端点が、どこで手をつなぐかに目を向けました。スイッチの速度を比べるときも、端点の処理とリンク側の再送・混雑制御を同時に見ると、構成の違いを捉えやすくなります。[2・4]

    この資料を発表したBroadcomの事業全体は、cyclewaveの企業記事にまとめています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。Korea発表はAPACのBroadcom発表と図・説明を多く共有します。本文は公開スライドとOCPワークストリームの説明に基づき、性能の実測値や全製品共通の実装を示すものではありません。

    [1]Open Compute Project:2026 OCP Korea Tech Day 発表一覧。Broadcomの「Scale-Up Ethernet Transport (SUE-T) and ESUN」を掲載。

    [2]Chintan Shah(Broadcom):Scale-Up Ethernet Transport (SUE-T) and ESUN 発表スライド。全25ページ。主に12〜22ページを参照。

    [3]Open Compute Project:Networking / SUE-T ワークストリーム。端点側の検討範囲と作業状況。

    [4]Bhaskar Chinni / Mehak Mahajan(Broadcom):OCP APAC 2026 の SUE-T 発表スライド。Korea発表との内容比較に使用。

    [5]Open Compute Project:ESUN 1.0仕様の公開。2026年3月10日、ネットワーク運用者向け基礎要件の発表。