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  • Point2のe-Tube、プラスチック導波路でつなぐラック内接続

    Point2のe-Tube、プラスチック導波路でつなぐラック内接続

    AIサーバーの中では、GPU同士やスイッチへ向かう短いケーブルが何本も走ります。遠くへ送る光ファイバーほどの距離は要らない。それでも通信速度が上がると、太い銅線を短い範囲に押し込むのも難しくなります。

    2026年8月のOCP Korea Tech Dayで、Point2 TechnologyのThomas Cho氏は、銅線と光の間にプラスチックの導波路へRF信号を通す選択肢を示しました。「e-Tube」と呼ぶこの方式が、どこを置き換えようとしているのか。通信の通り道から見てみます。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • Point2のe-Tubeは、高周波信号をプラスチック導波路へ通す接続方式で、空中へ電波を飛ばすものではありません。
    • 銅線や光との比較値は条件付きの推定であり、ケーブル両端には電力を使う送受信回路が必要です。
    • 実演・信号評価と、量産採用や長期信頼性は別で、パッケージ近くへの展開にも将来の計画が含まれます。

    銅線が厳しくなるのは、短い距離でも

    銅ケーブルは安く、構造が分かりやすく、交換もしやすい。一方、高速の電気信号を通すほど損失が増え、太い線を選んだり、信号を補正する回路を足したりする必要が出ます。ラック内なら数メートルで足りても、速度、密度、曲げやすさ、風の通り道を一緒に満たすのは簡単ではありません。[2]

    光ファイバーは長い距離を得意としますが、電気信号から光への変換と、その逆の変換に部品と電力が要ります。どちらが有利かは距離だけで決まりません。発表資料が示すDAC、補正回路付き銅ケーブル、光ケーブルの到達距離は2026年時点の代表例であり、線径、コネクター、送受信回路によって変わります。[2]

    信号を「空中」ではなく、プラスチックの中へ導く

    e-Tubeでは、両端の送受信チップが電気信号を高周波のRF信号へ変え、アンテナからプラスチック製の導波路へ入れます。導波路は電波が進む道筋を作る部材です。反対側でRF信号を受け、また電気信号として装置へ渡します。無線の仕組みを使いますが、ラックへ向けて空中に電波を放つ方式ではありません。[2・3]

    資料にある1.6TbpsのOSFPケーブル案では、OSFPという差し込み式の端子、RF送受信チップ、導波路、接続部を一体として描いています。ケーブルの中を通る媒体は銅導体でも光ファイバーでもない一方、両端は能動回路を使います。資料で「バックプレーンの通り道は受動的」と書かれる部分と、ケーブル全体が電源不要であることを混同しないようにしたいところです。[2]

    比較の数字は、同じ条件で確かめてから

    Point2は、銅に比べた到達距離や重さ、光に比べた消費電力や遅延の利点を提示します。ただし、資料の1.6T比較図には「相対比較のための推定」と明記されています。ケーブルの構造、送受信回路、コネクター、システム側の余裕によって結果は動きます。宣伝文句をそのまま製品間の保証値にはできません。[2]

    計測と製品化の段階も分けて見る必要があります。Point2は2026年にe-Tubeの実演を告知し、Keysightとは1.6Tbps級の信号を評価する協業を発表しました。これらは技術が検証段階を進んでいる根拠ですが、ラック全体での量産採用や長期故障率の証明ではありません。なお、従来型の銅線用AECについての生産拡大発表を、新方式e-Tubeの量産実績に読み替えることもできません。[4・5・6]

    まずはケーブル、その先にパッケージの近く

    発表は、差し込み式のケーブルから、半導体のパッケージに近い場所へRFの入口を移すNPE、さらに一体化を進めるCPEまで描きます。途中のバックプレーン接続では、基板へ信号を長く引き回さず、装置を交換しやすい接続にしたいという狙いがあります。ただし、この後半は展開案やロードマップを含みます。現在購入できる同一仕様の完成品を並べた表ではありません。[2]

    銅、光、プラスチック導波路は一つの勝者に決まる話ではありません。必要な距離と速度、端子の数、消費電力、交換のしやすさが違えば、選ぶ媒体も変わります。e-Tubeの面白さは、ラック内で銅が苦しくなり、光では構成が重い場面に、別の信号の通り道を差し出す点にあります。実装例を読むときは、どこまでが試験済みで、どこからが設計目標かを確かめたいところです。

    Point2 Technologyの事業全体と開発段階は、cyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。本文は公開スライドと両社の一次資料をもとにしています。講演動画の発言・質疑は確認対象に含めていません。数値比較はPoint2の推定条件を超えて一般化していません。

    [1]Open Compute Project「2026 OCP Korea Tech Day」発表一覧。開催日、登壇者、資料掲載。

    [2]Thomas Cho「e-Tube RF Transmission over Plastic Waveguides」公式掲載スライド。16頁。銅・光の比較はpp.3–6、信号経路はpp.7–9、条件付き比較はp.10、展開案はpp.11–15。

    [3]Point2 Technology「e-Tube Technology」。RF送受信チップとプラスチック導波路の説明。

    [4]Keysight・Point2 Technology「次世代AIスケールアップ用相互接続技術の推進に向け提携」。2026年1月29日。1.6Tbps級の信号評価に向けた協業。

    [5]Point2 Technology「DesignCon 2026でe-Tubeを実演」。2026年の実演告知。

    [6]Point2 Technology・FIT「従来型400G AECの生産拡大」。2021年の発表。

  • Echionの負極材料XNO、AIデータセンターの停電対策と電力変動への備え

    Echionの負極材料XNO、AIデータセンターの停電対策と電力変動への備え

    停電に備える電池と、電力の揺れをならす電池。どちらも同じ蓄電池でできそうですが、求められる働き方はかなり違います。前者は出番まで待ち、数分間を支える。後者は設備が動く間、充電と放電を何度も往復します。

    2026年8月のOCP Korea Tech Dayで、Echion TechnologiesのDerek Laan氏は、AIデータセンターのUPSやサーバーラックのBBUに、この二つの仕事が重なり始めていると説明しました。発表の中心は同社の負極材料XNOですが、まずは電池に必要な出力と、蓄えておく電力量を分けると話が見えやすくなります。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • AI設備の電池には、停電への備えと、日々の電力変動を吸収する二つの役割があります。
    • EchionのXNOは、速い充放電の繰り返しを特徴とするリチウムイオン電池の負極材料です。
    • 材料の商用供給と、開発中のUPSラックが広く稼働していることは別です。

    停電を待つだけでは、電力の揺れに追いつかない

    従来のUPSは、外からの給電が途切れたとき、発電機などが立ち上がるまで電力を支える役目です。停電が毎日続くわけではないため、放電後の充電には比較的時間を取れます。

    AIの学習設備では、複数のGPUが同じ処理に合わせて動き、データの受け渡しでいったん計算を止めます。発表は、そこで設備の消費電力が短い間隔で上下する例を示しました。系統から見える電力をなだらかにするなら、消費が増えたときに電池から出し、減ったときには電池へ戻す必要があります。放電だけ速くても、次の揺れまでに充電できなければ続きません。[2]

    ここでUPSは「停電への備え」と「日々の変動を吸収する装置」を兼ねることになります。ただし、電池にすべてを任せる設計が唯一の答えではありません。計算負荷の制御や施設側の電力設備と役割を分け、非常時に使う残量を確保することも欠かせません。

    同じMWでも、必要なMWhは違う

    電池の出力を示すMWは、一度にどれだけ電力を出し入れできるか。電力量のMWhは、どれだけの時間それを続けられるかを示します。たとえば100MWを約1分間出し続けるなら、単純計算では約1.7MWhが必要です。実際には波形、変換損失、使える充電率の範囲で変わります。

    資料は、平均約270MWの設備を想定し、短い変動を打ち消すための対称な充放電能力を約105MW、最も深い変動で動く電力量を約2.6MWhと置いています。これは電力の出し入れは大きくても、1回に動く電力量は比較的小さいという例です。運用中の特定施設がこの数字で動いていると確認したものではなく、メーカーのモデル試算として読みます。[2]

    電池の充電速度を表すCレートも関係します。概念上、1Cなら1時間で定格容量に相当する電力、10Cならその10倍の電力です。約105MWを1Cで充電できるようにするには、単純計算で約105MWhの容量が要ります。容量そのものよりも充電できる速さが設備の大きさを決めてしまう場面です。ただし、実際の許容Cレートはセル、温度、劣化、残量で変わります。[2]

    Echionが提案するのは、速く出して速く戻せる負極

    XNOは、リチウムイオン電池の負極に使うニオブ系材料です。Echionは、急速充電時に起こりうるリチウム析出を抑えながら、速い充放電を繰り返せることを特徴とします。発表は商用セルの値として、充電・放電とも10~30C、5万回超のサイクル寿命を示します。ただし、これは特定セルの条件による会社公表値で、どの温度・放電深度・システムでも同じ寿命になるという意味ではありません。[2・3]

    資料にあるピーク1.5MW・連続充放電1MWのUPSラックは、既存のXNOセルを用いた開発中の構想です。一方、XNO負極粉末とそれを使うセル・モジュールの供給は別の成熟段階にあります。材料が商用供給されていることと、発表のUPSラックが既に広く稼働していることは同じではありません。[2・3]

    設備へ入れるなら、電池だけの性能では決まらない

    発表の費用比較では、約270MWの仮想設備に対し、LFP電池とXNO電池で設置面積や10年間の所有費用に差が出ると試算しています。しかし、計算方法は資料だけでは再現できず、価格、温度、充放電の深さ、更新時期にも左右されます。10年間の所有費用を約80%減らせるというのは、同社の条件付き試算です。一般的な導入効果とは扱えません。[2]

    実際の設計では、どの時間幅の変動を電池に受け持たせるか、停電用の残量をどこまで残すか、電力変換器と冷却装置が往復運転に耐えるかをそろえて考えます。材料に高いCレートがあっても、ラック全体の出力、保護、熱、保守の条件が追いつかなければ使い切れません。

    この発表から持ち帰りたいのは、電池を「何分もつか」だけで選ばない視点です。バックアップ用のエネルギーと、絶えず揺れる電力を受け止める力。二つを分けて設計すると、必要なセルとシステムの姿が見えてきます。

    Echion Technologiesの電池材料事業と会社の輪郭は、cyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。本文は公開スライドと企業一次資料をもとにしています。講演動画の発言・質疑は確認対象に含めていません。Echionの数値と経済比較は会社の提示条件に限ります。

    [1]Open Compute Project「2026 OCP Korea Tech Day」発表一覧。開催日、登壇者、資料掲載。

    [2]Derek Laan「High-power energy storage and solving the AI data centre power problem」公式掲載スライド。22頁。役割はpp.5–7、材料と充放電比較はpp.9–13、UPS構想はpp.15–16、モデル試算はpp.18–19。

    [3]Echion Technologies「XNO技術と商用供給」。負極材料の位置づけ、産業規模の粉末供給。

  • SK Broadbandのデータセンター運用案、テレメトリーで電力と冷却をつなぐ

    SK Broadbandのデータセンター運用案、テレメトリーで電力と冷却をつなぐ

    たとえば、稼働中のデータセンターで、ラックの消費電力と冷却液の温度が近い時間帯に上がったとします。記録の時計がずれていると、どちらが先に変わったかも分かりません。AIデータセンターの運用では、設備を増やす前に、判断に使えるデータをそろえることが欠かせなくなっています。[1]

    2026年8月のOCP Korea Tech Dayで、SK BroadbandのPark Jaewook氏は、運用を四つの仕事に分けました。①データの品質、②手順と知識、③電力と冷却の連携、④運用者の役割です。発表は構想と例を交えた提案で、示された時間や精度の目標が、すべての施設で達成済みという意味ではありません。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • 電力と冷却を一緒に見るには、測定値の単位・周期・欠損の扱いと時刻をそろえる必要があります。
    • 電力の変化を冷却の先行信号に使う案ですが、制御条件は自施設の遅れや安全装置と合わせて確かめます。
    • AIは検証しやすい作業から段階的に使い、専門家の判断を残す提案で、自律制御の完成報告ではありません。

    まず、同じ出来事を同じ時刻で見る

    センサーの値は、届くだけでは十分ではありません。記録が抜けていないか、測定器のずれはないか、同じ「流量」が機器ごとに別の単位や周期で届いていないか。さらに、設備の時計がずれていれば、障害の前後関係まで曖昧になります。発表資料は、この四つをデータ品質の問題として並べています。[1]

    そこで必要なのが、集める項目と単位、収集周期、欠損の扱いを先に決め、計測網と時刻同期を設計することです。時刻をそろえれば「電力の変化が冷却の異常より先だったか」は確かめやすくなります。ただし、順番が分かっても、それだけで因果関係は決まりません。現場の構成や他の記録と突き合わせる工程は残ります。[1]

    次に、経験を点検できる手順へ移す

    運用者の頭の中にだけある判断を、設備図、過去の事例、手順書、警報の条件と結びつける。資料は、その最初の題材にイベントログを選びます。たとえば冷却液の流量が下がり、フィルターの前後で圧力差が増えたとき、システムが「詰まりの可能性」を示し、運用者が値と条件を確かめる形です。発表スライドの数値入り事例は説明用の例であり、導入施設の実績とは読みません。[1]

    AIエージェントを使うとしても、まずはログの要約や候補の提示から始め、誤りを測れるようにする。資料も、専門家が最終判断する形と、簡単で検証しやすい作業から段階的に広げる考え方を示しています。液冷装置や電源の自動制御まで完成した、という発表ではありません。[1]

    電力を、冷却の少し先にある手がかりにする

    GPUの仕事量が変わると電力が先に動き、その熱が冷却液の計測点に届くまでには時間差が生じます。温度が上がってからポンプを動かすだけでは、対応が遅れる場合があります。発表は、まずラックの電力変化を先行する信号として使い、将来は仕事量の情報まで組み合わせる案を示しました。[1]

    ここで大事なのは、資料にある秒数をそのまま制御設定へ写さないことです。熱が伝わる時間は、チップ、配管、流量、センサーの位置で変わります。自施設で遅れを測り、冷却の能力や安全装置との関係を確かめてから、予測や制御の条件にします。電力と冷却をつなぐ発想は有用ですが、早く反応させれば必ず安全、とは言えません。[1]

    運用する人を、設計の初めから入れる

    計測点や配線が固まった後で運用者が参加しても、必要なデータを後から取りにくくなります。資料は、名称や単位、判断条件を設計段階から合わせ、試運転で実際に読めるか確かめる役割を運用者に求めています。複数の施設を一画面にまとめるときも、画面を作る前に共通の項目と時刻の基準が必要です。[1]

    OCPにも、施設の電力・温度などのテレメトリーを扱う取り組みと、IT機器と施設側の管理を近づける「Open Data Centers for AI」があります。ただし、発表スライドに並ぶすべての文書や数値が、そのまま確定した統一規格ではありません。今回の資料は、既存の公開資料を確かめつつ、現場で足りない定義を探す入口として読むのがよさそうです。[1・3・4]

    AIデータセンターを安定して動かす道筋は、派手な自律制御から始まるわけではありません。欠損のない計測、同じ時刻、説明できる判断条件、そして運用者が止められる手順。その土台があって初めて、電力と冷却を一緒に見守れるようになります。

    SK Broadbandの通信・メディア事業とデータセンター事業は、cyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。発表資料に含まれる対応時間・損害額・精度目標は、一般施設の実測値やOCPの一律要件として用いていません。講演動画・質疑応答は根拠に含めていません。

    [1]SK Broadband / Park Jaewook「F1-Style AI DC Operations: 4 Core Pillars」OCP掲載スライド(27頁。四つの仕事はp.7、データ品質はpp.8–9、運用知識はpp.11–12、電力と冷却はpp.14–15、運用者はpp.17–18)。

    [2]Open Compute Project「2026 OCP Korea Tech Day」発表一覧(開催日・登壇者・資料の掲載)。

    [3]Open Compute Project「Data Center Telemetry」(施設の電力・熱・機械系データを扱う取り組み)。

    [4]Open Compute Project「Open Data Centers for AI」(施設側とIT側のテレメトリーおよび管理の方向)。

  • GS CaltexのPG冷却液試験、濃度で変わる冷えやすさと材料の相性

    GS CaltexのPG冷却液試験、濃度で変わる冷えやすさと材料の相性

    液冷の話では、コールドプレートや配管に目が向きます。でも、その中を流れる液体は「よく冷える」だけで選べません。冷却液が少しずつ薄まったり、金属やゴムに触れ続けたりする数年間まで考える必要があります。

    2026年8月のOCP Korea Tech Dayで、GS Caltexはプロピレングリコール(PG)を混ぜた冷却液を取り上げました。PGは水より熱を運ぶ性能が低い一方、凍結や微生物の増殖を抑える助けになります。だから、濃度を下げれば必ず優れる、という単純な話にはなりません。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • PG濃度を下げると熱や流れの面で有利な試験例がありますが、凍結・腐食・微生物への備えも一緒に考えます。
    • 冷却液は材質との相性に加え、使用中の希釈や変質、洗浄・採水・交換まで含めて選びます。
    • GS Caltexの管理下の試験は、実設備の長期寿命や製品認証を保証する結果ではありません。

    冷えやすさと守りやすさの間で

    水は熱容量と熱伝導率に優れ、粘度も低く、流しやすい液体です。PGを加えると凍結に強くなり、微生物が増えにくい条件もつくれます。ただし粘度や熱の運び方は変わり、同じ流路・ポンプ・流量でも温度と圧力損失が違ってきます。発表資料はPG25、PG15、PG10を比較し、薄くするほど熱・流れの面では有利という測定例を示しました。その比較はGS Caltexの試験条件に限ります。[2]

    OCPが9月15日に公開した改訂ガイドラインは、PG25系の液体を、CDUからサーバーのコールドプレートへ至る閉ループで使う場合を主な対象にします。建物側の水系統まで同じ処方でよいという意味ではありません。この文書は推奨の枠組みで、現場の材質や運転条件に合わせて適合性を確かめるよう求めています。発表の後に公開された版なので、8月の講演時点で確定していた仕様として扱うこともできません。[3]

    「入れた時」と「使い続けた後」は違う

    運用中には、洗浄後に残った水や補給水で液が薄まることがあります。異物の混入、温度による変質、腐食防止剤の消耗も重なります。GS Caltexの発表は、この変化を前提に、PG濃度やpHだけでなく、腐食と微生物の両方を追う重要性を示しました。[2]

    同社は複数の金属を使った腐食試験と、3種類の菌を用いた試験結果を載せています。PG10やPG15でも抑制効果が見えたとしていますが、これは同社製品を使った管理下の試験です。配管の材質、表面にできる膜、補給水、運転期間まで含めた実施設備の長期結果ではありません。OCPの改訂ガイドラインも、液体と触れる金属・樹脂・シール材の適合、洗浄、ろ過、採水・分析をまとめて扱っています。[2・3]

    ひとつの数字で安全を決めない

    資料は電気伝導率の低さも強調します。ただ、導電率は添加剤や温度で変わります。OCPの改訂ガイドラインでは、防食剤入りPG液の導電率は主な合否指標ではなく、変化を追う補助的な値として位置づけています。導電率だけで腐食や漏れの安全性を判定することはできません。[2・3]

    温度の試験も読み方が大切です。GS Caltexが示した2台の250W CPUを使う系では、液の入口温度35〜50℃の範囲で測定値を記録しています。これだけで、別のCPU、流量、コールドプレート、室温でも同じ結果になるとは言えません。[2]

    選ぶ時は、液体だけを比べない

    まず冷却ループの範囲を分け、使う金属・樹脂・シール材、必要流量、温度範囲を決める。次に、その液を入れる前の洗浄と、入れた後の採水・補給・交換まで考える。この順番なら「冷えやすい液体」を選んだつもりが、保守しにくい設備をつくってしまうことを避けられます。

    GS Caltexは講演時点で、自社PG25製品がOCP-Inspired認証の手続き中と説明していました。PG10・PG15についても、OCPの標準化はまだだと明記しています。発表を製品の認証や実施設備の寿命保証へ読み替えず、設計と保守の条件を考える材料として使いたいところです。[2]

    冷却液を発表したGS Caltexが、エネルギー事業の中で何を扱う会社なのか。cyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。発表スライドと公開文書を区別して読み、発表者の試験値は実運用の保証とみなしていません。

    1. OCP「2026 OCP Korea Tech Day」 — 開催情報と発表一覧。
    2. WooKyun Synn(GS Caltex)冷却液発表資料 — pp.5–9、13–25。比較・菌・腐食・CPU試験はいずれも同社資料。
    3. OCP「Guidelines for Using Propylene Glycol-Based Heat Transfer Fluids in Liquid Cooled Racks」 — 2026年9月15日公開、Revision 2.0 v1.0.0。8月の講演より後の改訂版。
  • 128TB SSDの事前処理を約12日から約14時間へ――サンディスクの試験例

    128TB SSDの事前処理を約12日から約14時間へ――サンディスクの試験例

    128TBのSSDを一台試すだけで、準備に十数日。容量が大きくなるほど、製品の評価に入る前の時間まで長くなる――。OCP Korea Tech Dayでサンディスクが示したこの例は、大容量SSDの課題が「何TB入るか」だけではないことを教えてくれます。[1・2]

    ここでいう準備は、SSDを所定の状態まで書き込んでから性能や耐久性を測る事前処理(preconditioning)です。まっさらなSSDの一回限りの速さだけでは、データが出入りし続ける現場の性格をつかみにくいからです。

    簡単にまとめると?

    • サンディスクは、128TB SSDの事前処理を約12日から約14時間へ短縮する試験例を示しました。
    • 短くなるのは測定前の準備時間で、SSD自体の読み書きが速くなる話ではありません。
    • 管理情報をNANDへ移すDRAM削減案もあり、読み戻す待ち時間などとの交換条件を評価します。

    容量が増えるほど、試験の入口が遠くなる

    登壇資料では、従来の方法で128TBのSSDを事前処理すると約12日、256TBでは約24日という例が挙げられました。サンディスクは、書き込み方を工夫するオープンソースのSPRandomを使えば、128TBの例で約14時間に短縮できると説明しています。これは同社が提示した試験条件での比較で、すべてのSSDや評価項目で同じ時間になるという意味ではありません。[2・4]

    短くしたいのは「測定前の準備」です。SPRandomを使ったからSSDそのものの読み書きが速くなるわけではありません。試験する側は、事前処理後の書き込み分布が目的の負荷を再現しているか、同じ条件で別の個体にも適用できるかを確かめる必要があります。

    共通の仕様は、比較の土台になる

    OCPのDatacenter NVMe SSD仕様は、複数の事業者が必要とする要件を公開文書としてまとめています。発表で振り返られた現行のv2.7は、既存のNVMe規格に上乗せするデータセンター向けの条件を定めたものです。購入企業が独自に追加する要件もあり、この文書だけで全製品の適合や性能が決まるわけではありません。v2.8は講演時点で「Coming Soon」と記されていました。[2・3]

    仕様を共有すると、評価の入口もそろえやすくなります。実際、発表はMetaとGoogleの公開テスト例にも触れています。ただし、公開されたテストを走らせたことと、特定のシステムで長期に安定して動くことは別です。容量、書き込みパターン、故障時の振る舞いまで、自分の運用条件に引き寄せて読む必要があります。[2・3]

    SSDの中に置く「地図」を見直す

    発表の後半は、もう一つの隠れた費用に目を向けます。SSDのフラッシュ変換層、FTLは、外から見える保存場所とNANDの実際の置き場所を結びつける「地図」です。大容量になるほど地図も大きくなり、従来のようにDRAMへ置くと、装置全体で必要なメモリーが増えます。[2]

    サンディスクは、この管理情報の一部をNAND側へ置く構成を例示しました。24台のSSDを積むモデルでは、SSDあたりのDRAMを32GBから4GBとし、システム全体を864GBから192GBへ抑える計算です。1EBを配備すると約78%減という数字も同じ前提から出ています。設計例の計算であり、どのSSDでも無条件に節約できる値ではありません。NANDへ移せば、管理情報を取り出す待ち時間や書き換えの扱いも評価する必要があります。[2]

    大容量化で確かめるもの

    大きなSSDは、台数や配線を減らせる可能性があります。その一方、事前処理にかかる日数、試験の再現性、FTLの置き場所、メモリーとの交換条件が重要になります。容量の数字を見たあとで「どう確かめ、どう管理するか」へ視線を移す。今回の発表の価値は、その順番を示したところにあります。

    今回のSSD技術を発表したサンディスクの事業全体は、cyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。発表スライドと公開文書を区別して読み、発表者の試験値は実運用の保証とみなしていません。

    1. OCP「2026 OCP Korea Tech Day」 — 開催情報と発表資料一覧。
    2. Ross Stenfort(Sandisk)「Storage: Past, Present, Future」 — pp.3、7、9〜11。12日・14時間とDRAM削減は登壇資料の例。
    3. OCP「Datacenter NVMe SSD Specification Version 2.7」 — 公開仕様の範囲と追加要件。
    4. fio「sprandom.fio」 — 事前処理の公開実装例。
  • Stäubliの液冷QD、配管を外してつなぎ直す方式と交換の条件

    Stäubliの液冷QD、配管を外してつなぎ直す方式と交換の条件

    液冷ラックの接続部は、冷却液を通しているあいだだけ働けばよいわけではありません。サーバーを交換する際には、流路を外して、またつなぐ。その一回ごとに、残液をどう抑えるか、隣の部品に手が届くか、つないだあとに必要な流量を保てるかが問われます。

    2026年のOCP Korea Tech Dayの公式一覧に掲載されたStäubliの資料は、この着脱部品「クイックディスコネクト(QD)」を、手でつなぐ方式と、サーバーの挿入に合わせて接続する方式から見ています。資料のPDFはイベント後の9月1日作成版です。ここでは掲載版の内容を読み、開催当日の発言とは分けて扱います。[1]

    簡単にまとめると?

    • 液冷QDは、冷却中の流れやすさだけでなく、外した際の残液や繰り返し着脱の条件も確かめる部品です。
    • 手動接続とブラインドメイトでは作業方法が変わり、後者は位置ずれや挿入力もラック側と合わせて設計します。
    • UQDで接続形状が共通でも、異なるメーカーの部品は実際の冷却液や使用条件で組合せ確認が必要です。

    外すときも、流路を守る

    QDは、冷却液の配管を工具なしで切り離し、つなぎ直すための接続部です。中に弁を持つタイプなら、外したときに両側の流路を閉じられます。ただし「漏れを抑える」と「液体が一滴も残らない」は同じではありません。接続面に残る液、弁を動かす力、何度着脱できるかは、形状と試験条件で変わります。[1・2]

    もう一つは流れにくさです。同じ流量を通す場合、QDでの圧力損失が大きいほどポンプや流路設計に余裕が必要になります。最大流量の表示だけを見ず、使う冷却液の種類、温度、圧力、必要流量の組合せで選ぶ必要があります。OCPのUQD仕様も、流量、温度、圧力、着脱時の残液量などを評価項目に挙げています。[1・2]

    手でつなぐか、差し込む動きでつなぐか

    手動接続は、作業者が接続部を見て、位置を合わせて着脱します。ホースを使えば部品の取り回しには柔軟さが出ますが、その分だけホースや継ぎ目が場所を取り、確認箇所も増えます。

    ブラインドメイトは、サーバーなどをラックへ押し込む動きで接続する方式です。奥に手を入れる工程を減らせる一方、差し込む側と受ける側の位置がずれると、つながりません。だから製品の寸法だけでなく、ラックのガイド、許容される位置ずれ、差し込む力を一緒に設計します。Stäubliの資料はこの二方式の長所と条件を並べています。[1]

    OCPのMGXラック仕様に示された一例では、トレー側にUQD-04の挿入部、ラックのマニホールド側にUQDB-04の受け部を置き、位置ずれを吸収する仕組みを組み合わせます。これは特定の規格構成例であり、あらゆるラックや冷却液で同じ部品をそのまま使える、という意味ではありません。[3]

    「共通の形」だけでは交換しやすくならない

    以前はメーカーごとに接続形状が違い、片側だけを別会社のものへ替えにくい問題がありました。OCPのUQDは接続面の寸法と性能項目をそろえ、同じ呼び径の部品を複数社から選べる土台を作ります。Stäubliの資料も、供給元を増やすことを標準化の利点として挙げています。[1・2]

    ただし、共通形状は実際の組合せ試験を省ける証明書ではありません。シール材が冷却液に合うか、繰り返し着脱しても残液と圧力損失が許容範囲か、製造公差の重なりで接続が固くならないか。異なるメーカーの部品を組み合わせるなら、使用条件での確認が欠かせません。資料自身も「相互互換は可能だが検証が必要」と区別しています。[1・2]

    保守まで含めて接続部を選ぶ

    選定の順序は、まず冷却液と必要な流量・圧力・温度を決め、次に手動かブラインドメイトかを考え、最後に着脱の頻度、作業空間、調達先の組合せを試すことです。Stäubliが資料の結びに並べた条件も、製品名だけでは選べないことを示しています。[1]

    液冷の接続は、主役として目立つ部品ではありません。それでも、交換時に止まる時間や、冷却液を安全に循環させ続けられるかを左右します。冷やす性能と同じくらい、外して、戻して、また使える設計を見ておきたいところです。

    液冷の接続部を扱うStäubliが、ほかにどんな産業機器を手がけているのか。事業全体はcyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。OCP公式掲載PDF全27ページを確認。PDFの作成日は2026年9月1日で、8月21日の配布版と同一かは未確認です。講演動画・質疑は根拠に含めていません。

    [1]OCP「2026 OCP Korea Tech Day」発表一覧/Stäubli「Post liquid cooling connectivity for AI & HPC infrastructure (QD)」公式掲載PDF。主にpp.8–10、13–20、25。

    [2]Open Compute Project「Universal Quick Disconnect (UQD) Specification, Rev. 1.0」。手動接続の接続面と性能項目。

    [3]Open Compute Project「MGX Accelerated Computing Rack and Trays Specification, Rev. 1.1」。§10.1の液冷ブラインドメイト構成例。

  • バーミンガム大学のRDHx設計比較、PG25でラック背面を冷やす流路

    バーミンガム大学のRDHx設計比較、PG25でラック背面を冷やす流路

    ラックの背面に熱交換器を置き、サーバーの排気から冷却液へ熱を移す。これがリアドア熱交換器(RDHx)です。冷却の仕組みは分かりやすくても、その内部で液体が通る細い流路をどう作るかは、簡単には決まりません。[1]

    2026年8月のOCP Korea Tech Dayで、バーミンガム大学のXizhi Song氏らは、プロピレングリコールを約25%含む水系冷却液「PG25」を使ったRDHxの設計を取り上げました。焦点は、熱を十分に運びながら、ポンプやファンに余計な力を使わせないことです。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • PG25を使うラック背面熱交換器では、水用の流路がそのまま最適になるとは限りません。
    • 流路やフィンは熱の取りやすさだけでなく、液体・空気両側の圧力損失と補機電力を合わせて比べます。
    • プレートフィン案の利点は特定条件での設計比較であり、完成品全体や長期使用の検証が残っています。

    水と同じ流路を、そのまま使えるとは限らない

    PG25は、この資料で比べた水より粘度が高くなります。資料に載る市販冷却液の一例では、20℃の粘度はPG25が2.84mPa・s、水が1.00mPa・sでした。これはPG25という名前の全製品に共通する値ではなく、配合や温度でも変わります。粘りが増すと、特に狭い流路で液体を押し流す負担が大きくなります。水用に都合のよかった形が、PG25でも最適とは限らないのです。[1]

    資料は、冷却液を通す道として、押し出した平たい管の内部に複数の孔を設ける方式と、フィンや薄板を重ねて流路を作るプレートフィン方式を比較します。どちらも形の名前だけで優劣は決まりません。流路の幅と高さ、並列に何本通せるか、流れの長さを同じ条件で組み直して初めて比べられます。[1]

    熱を取りやすい形は、流れやすい形とは限らない

    フィンの形を変えると、冷却液との熱の受け渡し方も、流路の抵抗も変わります。熱伝達を強くする指標だけを追えば、液体を送るための圧力や電力が増えるかもしれません。資料が複数のフィン形状を並べたのは、熱の取りやすさと圧力損失を一緒に見るためです。[1]

    15kWの放熱を目標にした資料中の設計比較では、外形、空気と冷却液の流量、入口温度をそろえています。熱を運ぶ量は両案とも約15kW。一方、冷却液がコア内部を通る際の圧力損失は、比較対象の約2.0kPaに対し、選ばれたプレートフィン案が0.74kPaでした。空気側の圧力損失は235.7Paに対して約242Paと、わずかに増えています。差を生んだのは方式の呼び名ではなく、フィンと流路の組み直しだと資料は説明します。この値は一つの設計条件での比較であり、RDHx全般の性能保証ではありません。[1]

    最後はポンプとファンを合わせて考える

    液体側だけの圧力損失が小さくても、空気側の流れを妨げればファンの電力が増えます。必要な熱を取り切れること、空気と液体の両方が流れやすいこと、ポンプとファンを合わせた補機電力が低いこと。この順で見ると、熱交換器の「よさ」を一つの数値に押し込まずに済みます。[1]

    まだ確かめることもあります。コアの入口・出口やヘッダーでの損失、流れの偏り、ろう付けの品質、腐食や漏れ、長期の清浄性です。資料は、流路の一部だけを計算するCFDから、層、コア全体、試作へと検証を広げる必要を示します。小さな計算領域で有利でも、完成した熱交換器が有利とは言い切れません。[1]

    PG25を使うRDHxでは、「細い流路で熱をよく取る」だけでは足りません。冷却液を無理なく流し、排気も通し、必要な熱量を運ぶ。その全体をそろえて、初めて良い設計になります。今回の発表は、プレートフィンを万能の答えにするものではなく、形を比較する順序を示したものとして読むと役立ちます。

    参考資料

    2026年9月23日確認。比較値は発表資料内の設計条件に限ります。講演動画の発言や質疑応答は根拠に含めていません。

    [1]Xizhi Songほか「Thermal-Hydraulic Design of PG25-Cooled RDHx Cores」OCP公式掲載スライド(16頁。構造はpp.2–6、液体の性質と流路はpp.7–10、比較と検証はpp.11–14)。

    [2]Open Compute Project「2026 OCP Korea Tech Day」発表一覧(開催日・登壇者と資料掲載)。

  • FADUが示すKVキャッシュ階層化、再計算と読み戻しの速さを比べる

    FADUが示すKVキャッシュ階層化、再計算と読み戻しの速さを比べる

    長い会話を続けるAIでは、次の一語を出すたびに、少し前の文脈を参照します。そのための中間状態がKVキャッシュです。会話が増えれば、この状態も増えます。GPUの速いメモリーにすべてを置けないとき、何を外へ出し、いつ戻すのでしょうか。

    OCP Korea Tech DayでFADUのAndy Kim氏が示したのは、GPUのHBM、CPUのDRAM、サーバー内のNVMe SSD、共有ストレージを一続きの階層として考える方法です。発表資料は性能を実測した完成構成の報告ではなく、公開されている推論ソフトウェアや他社の構想を踏まえた設計の見取り図です。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • KVキャッシュは文脈の再計算を省く中間状態で、時間を節約する代わりにメモリーを使います。
    • 外に保存したKVの再利用が有利なのは、読み戻しと調整が再計算より速い場合です。
    • FADUの資料はGPUメモリーから共有ストレージまでの設計構想で、完成構成の実測報告ではありません。

    会話が伸びると、何が増えるのか

    最初に入力文を読む段階をprefill、続けて一語ずつ生成する段階をdecodeと呼びます。prefillで作ったKVキャッシュを、decodeは使いながら増やします。キャッシュがなければ同じ文脈の計算をやり直すことになるため、保存は時間を節約します。その代わり、メモリーを使います。[2]

    発表資料の計算例では、特定の32Bモデル、FP16、3万2千トークンの文脈を仮定すると、1系列のKVが約8GiBになります。同じ長さを8系列同時に扱う単純計算では約64GiBです。これはそのモデルと精度を置いた概算で、すべてのモデルに共通する容量ではありません。量子化や共有、キャッシュ管理の仕方で変わります。[2]

    保存が得になるのは、読み戻すほうが速いとき

    同じシステムの指示文や同じ資料が、別の質問でも繰り返し使われることがあります。その先頭部分に対応するKVを残しておけば、次の要求では同じ部分のprefillを省けます。ただし、遠くに保存したものを探し、運び、GPUで再び使える形にする時間が必要です。[2]

    発表が示す判断はシンプルです。「読み戻しと調整にかかる時間」が「もう一度計算する時間」より短いとき、再利用が有利になります。短い入力や遅い転送経路では、保存したほうが必ず速いとは限りません。GPUメモリーの節約量だけでなく、最初の一語までの時間や、一語ずつ出る間隔も合わせて測る必要があります。[2]

    GPUの外へ出すための二つの仕組み

    資料は、推論エンジンvLLMと、KVの外部保存を支えるLMCacheを例にしています。vLLMは文脈を小さなブロックで管理し、同じ先頭部分に対応する完成済みブロックを見つけると再利用します。KV Connectorは、別の実行環境や外部の保存先とKVをやりとりするための接点です。ブロックの一致判定と、外への転送は別の仕事です。[2・3]

    LMCacheの説明では、GPU側のブロックを外部キャッシュ用のchunkにまとめ、CPUメモリーやローカルSSDなどへ置きます。資料に出る256トークンのchunkは設定例で、固定の単位ではありません。また、chunkの容量もモデルやKVの精度によって変わります。保存先を増やすだけでは速くならず、どのchunkを残し、どれを先に読み込むかが重要です。[2・4]

    共有ストレージは「すぐ使えるGPUメモリー」ではない

    一台のサーバー内に置いたKVは近くて取り出しやすい一方、別のサーバーとの再利用範囲は狭くなります。共有の層へ広げれば多くの要求で使い回せる余地が生まれますが、転送と位置管理は難しくなります。prefillとdecodeを別のworker群に分ける場合には、KVの受け渡しそのものが要求の経路に加わります。[2]

    発表はNVIDIAのCMXを、GPUメモリーと汎用共有ストレージの間に置くG3.5という構想例として紹介しています。CMXはNVIDIAが公表した別の仕組みで、FADUの製品ではありません。発表資料も、NVIDIAの性能主張や内部実装をこの発表で検証したものではないと断っています。SSD上のKVをdecode前に近い層へ移すという考え方は参考になりますが、効果は実際の転送経路と負荷で確かめる必要があります。[2・5]

    KVキャッシュは、AIが覚えた知識そのものではなく、特定のモデルが再計算を省くために持つ中間状態です。速く続けたい会話には近い層を、繰り返し使う文脈には共有できる層を選ぶ。その境目は、容量だけでなく再計算と読み戻しのどちらが早いかで決まります。

    発表したFADUが企業として手がける事業は、cyclewaveの企業記事にまとめています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。本文はOCP公式掲載の9ページのスライドと、資料中で参照される各プロジェクトの公式文書を照合しています。スライドの表紙には「PREVIEW」とあり、講演中の実測や質疑応答は根拠に含めていません。

    1. Open Compute Project「2026 OCP Korea Tech Day」 — 登壇情報と公式資料へのリンク。
    2. Andy Kim(FADU)「KV Cache Tiering for LLM Inference: From GPU Memory to Shared Storage」 — pp.2–8。計算例・再利用条件・階層構成。
    3. vLLM「Automatic Prefix Caching」 — 完成済みブロックの識別と再利用。
    4. LMCache「Configuring LMCache」 — chunk sizeが設定可能であること。
    5. NVIDIA「Introducing NVIDIA BlueField-4-Powered CMX Context Memory Storage Platform」 — NVIDIA側のCMX構想。発表者自身の測定結果ではない。
  • FADUが示すAI向けSSDの要件、容量・待ち時間・共有を分けて選ぶ

    FADUが示すAI向けSSDの要件、容量・待ち時間・共有を分けて選ぶ

    AIサーバーの保存先を考えるとき、まず「SSDを何テラバイト積めるか」に目が向きます。でも、同じSSDでも、生成中の文脈を素早く取り出す場所と、学習用の大量の資料を置く場所では、求められる性格が違います。

    2026年8月のOCP Korea Tech Dayで、FADUのAndy Kim氏は、フラッシュメモリーがAIデータセンターで担う役割を三つに分け、SSDコントローラーに必要な設計を示しました。発表は製品の性能保証ではなく、これからの負荷をどう捉えるかという提案として読むと、ストレージ選びの見通しがよくなります。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • AI向けSSDは、メモリーに近い層・性能を重視する層・容量を担う層で、求める役割が異なります。
    • 容量や転送量だけでなく、小さな読み出し、遅延のばらつき、共有時の性能を確認します。
    • FADUが挙げたコントローラー要件は設計上の要求で、全製品の達成を示す試験結果ではありません。

    GPUのメモリーとSSDの間にある悩み

    文章を一語ずつ生成するAIは、それまでに読んだ文脈から計算した中間状態、KVキャッシュを使います。会話が長くなり、同時に応じる利用者が増えると、その置き場所が大きくなります。GPU上のHBMは速い一方、容量と費用には限りがあります。発表は、このギャップにフラッシュをもっと近づける構想を描いています。[2]

    ここで、SSDをHBMと同じように読めると考えるのは早計です。生成のたびにすぐ使うKVは、GPUの近くに戻す時間まで含めて設計する必要があります。資料にある「モジュール上の高帯域フラッシュ、ラック内のNVMe、列に置く大容量QLC」という三段の図も、発表者が確立済みではない一つの方向と明記したものです。[2]

    一つのSSDに、三つの仕事を押しつけない

    発表では、AI向けSSDの役割を「メモリー」「性能」「容量」に分けています。メモリーに近い層は、文脈やKVを取り出すときの待ち時間が大切です。性能を重視する層は、頻繁に使うデータやメタデータを小刻みに読みます。容量を担う層は、資料群や使用頻度の低い状態を、無理のない費用で保管します。[2]

    三つは同じ容量の単位で比べられても、評価したい数字は違います。毎秒に運べる量だけでは足りず、小さな読み出しをどれだけさばけるか、遅い時にどこまで遅くなるか、利用者が同時に増えた時に速度を保てるかも見ます。大容量向けのSSDを、活発に読み書きする層へそのまま当てはめると、容量は足りても待ち時間が合わないことがあります。

    性能の裏側にいるコントローラー

    SSDにはデータを保存するNANDと、その読み書き、配置、エラー訂正、他の機器との通信を調整するコントローラーがあります。発表がとくに強調するのは、AI向けの要求をこのコントローラーでどう受け止めるかです。[2・3]

    挙げられた要件は五つ。512バイト〜4キロバイト程度の小さなI/Oを数多く処理すること、平均ではなく遅延のばらつきを抑えること、ペタバイト級でも管理用DRAMを容量に比例して増やさないこと、GPUが起点となるI/Oの経路を効率化すること、複数利用者の性能と安全性を分けることです。これらは設計上の要求であって、登壇した企業のすべての製品が五項目を達成したという試験結果ではありません。[2]

    たとえば、小さな読み出しを増やすほど、NAND自体の速さだけでなく、要求を振り分ける制御や管理情報の扱いが効いてきます。逆に、巨大な資料を順に読む仕事では、一度に運べる量と容量あたりの費用が重要になります。「AI用SSD」という一つの名前にまとめず、何を置き、いつ取り出すかから考える理由がここにあります。

    選ぶ基準は、保存量から仕事の種類へ

    FADUは講演でPCIe 6.0世代のコントローラーも紹介しています。ただし、その発表値をSSD完成品の消費電力や、あらゆるAI負荷での実測値へ読み替えることはできません。必要なのは最高値だけでなく、対象のデータ量、読み出しの粒度、遅延のばらつき、書き換えの頻度を合わせて見ることです。[2・3]

    SSDの役割が増えるほど、コントローラーは「速くする部品」から、容量・待ち時間・共有の条件を整える部品へ近づきます。GPUのそばに置くものと、長く保管するものを分けて考える。今回の資料は、その設計の出発点を示しています。

    SSDコントローラーを手がけるFADUの事業全体は、cyclewaveの企業記事で扱っています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。本文は公式掲載スライドの全9ページをもとにし、動画の発言や質疑応答は根拠に含めていません。

    1. Open Compute Project「2026 OCP Korea Tech Day」 — 発表一覧と登壇者。
    2. Andy Kim(FADU)「Flash in the AI Datacenter: New Roles and Requirements for SSDs and Controllers」 — 特にpp.2–8。p.5の三層図は提案。
    3. FADU 2026年半期報告書 — II-1、II-2。SSDコントローラーと完成品の区別。
  • Broadcomが解説するSUE-TとESUN、AIチップと通信網の役割分担

    Broadcomが解説するSUE-TとESUN、AIチップと通信網の役割分担

    AIチップ同士をEthernetでつなぐ、と聞くと、スイッチやケーブルを思い浮かべるかもしれません。でも、電気信号が届くだけでは、相手のチップがどのデータを読もうとしたのかまでは伝わりません。近くにあるチップ同士でも、通信には「運ぶ」仕事と「意味をそろえる」仕事があります。

    OCP Korea Tech Day 2026でBroadcomのChintan Shah氏が示した図には、「ESUN」と「SUE-T」という二つの名前が並びます。ESUNはEthernet側の運び方、SUE-Tは主にチップの端で操作を扱う方法。まずそう捉えると、図を読みやすくなります。ただし両者の境界は、きれいな一枚の線では切れません。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • ESUNは、低遅延でパケットを運ぶEthernet側の仕組みを扱います。
    • SUE-Tは、チップの読み書きなどの操作を通信へ写し、順序や再送を扱う端点側の要件を検討しています。
    • 両者はネットワークヘッダーで役割が重なり、同じ完成段階の一つの仕様として扱うことはできません。

    ESUNは、隣へパケットを届ける側

    発表資料でESUNが扱うのは、低遅延でパケットを届けるためのEthernet側の工夫です。短くしたヘッダー、リンク単位の再送(LLR)、混雑時に送信量を調整する仕組みなどが挙げられています。流量制御の例は、IEEEのPFCか、クレジットを使う方式です。二つを必ず同時に使う、という説明ではありません。[2]

    資料の構成例は、一つのスイッチを通り、複数の経路を並べて帯域を確保します。この場合、リンクで問題が起きたときの再送を、その近くで扱えます。一方、発表者は、より大きな領域へは複数ホップのEthernetも使えるとしています。ESUNを「単ホップしか認めない仕組み」と読むのは正確ではありません。[2]

    ESUN側では、ネットワーク運用者向けの基礎要件をまとめた1.0仕様が2026年3月に公開されています。そこで扱うネットワークの要件と、チップ内部を含む端点の設計を、同じ完成段階の一つの仕様と考えないことも大切です。[5]

    SUE-Tは、チップの操作を通信へ結びつける側

    チップが「このデータを読む」「ここへ書く」といった操作を出すと、それをEthernetのパケットへ写し、受け取った側で元の操作につなぎ直す必要があります。操作を小さな単位で送るか、いくつかまとめるか。届く順番をどう守るか。失敗したときにどこで再送するか。こうした端点側の要件を検討しているのが、OCPのSUE-Tワークストリームです。対象には計算チップだけでなく、ネットワークカードも含まれます。[2・3]

    すべてのチップが同じ内部構造を持つ必要はありません。資料は、データを押し出すか取りに行くか、操作をどう詰めるか、どの単位で順番を保証するか、といった選択をチップ開発者に残す考え方を示します。同一のラックに同種のチップを置く想定では、異なるメーカーのチップ同士を直接相互運用させることを必須条件にしていません。開かれた通信の検討と、チップ内部の設計自由度を両立させようとしているわけです。[2]

    二つの境目は、共同で設計する

    スライドの図をよく見ると、SUE-Tの赤い点線とESUNの青い点線は、ネットワークヘッダーのところで重なっています。端点が付ける情報と、Ethernet側が運ぶ情報の合わせ目だからです。ESUNが下、SUE-Tが上とだけ覚えると、この接点を見落とします。どんな情報をパケットへ載せ、スイッチや相手の端点がどう扱うかは、一続きの設計です。[2]

    同社のAPAC発表でも、SUE-Tが検討する操作の詰め方や順番が説明されました。今回のKorea資料はその技術説明をほぼ共有しており、新しい性能値を別に示した資料ではありません。この回では、運ぶ網と操作を扱う端点が、どこで手をつなぐかに目を向けました。スイッチの速度を比べるときも、端点の処理とリンク側の再送・混雑制御を同時に見ると、構成の違いを捉えやすくなります。[2・4]

    この資料を発表したBroadcomの事業全体は、cyclewaveの企業記事にまとめています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。Korea発表はAPACのBroadcom発表と図・説明を多く共有します。本文は公開スライドとOCPワークストリームの説明に基づき、性能の実測値や全製品共通の実装を示すものではありません。

    [1]Open Compute Project:2026 OCP Korea Tech Day 発表一覧。Broadcomの「Scale-Up Ethernet Transport (SUE-T) and ESUN」を掲載。

    [2]Chintan Shah(Broadcom):Scale-Up Ethernet Transport (SUE-T) and ESUN 発表スライド。全25ページ。主に12〜22ページを参照。

    [3]Open Compute Project:Networking / SUE-T ワークストリーム。端点側の検討範囲と作業状況。

    [4]Bhaskar Chinni / Mehak Mahajan(Broadcom):OCP APAC 2026 の SUE-T 発表スライド。Korea発表との内容比較に使用。

    [5]Open Compute Project:ESUN 1.0仕様の公開。2026年3月10日、ネットワーク運用者向け基礎要件の発表。